冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
436 / 439

第435話 育児の作業標準書

しおりを挟む
 俺とオーリスの子供サクラが生まれてからというもの、俺の生活は育児が中心となった。
 経済的に余裕もあるし、義父が体裁を気にして出産して間もない母乳の出る乳母を用意してくれたのだが、この世界でも子供は母親の母乳で育てる方が病気になりにくいという事がわかったので、義父には内緒でオーリスの母乳を与えている。
 粉ミルクなんて代物も無いしね。
 授乳は男である自分には出来ないが、それ以外のことはなるべくやるようにしている。
 男が仕事をして女は家事育児なんていうのは高度経済成長が作り出した生活スタイルであり、男女ともに仕事をするのが当たり前の社会においては、男が家事育児をしないという方がめずらしい。
 まあ、冒険者なんていういつ帰ってくるかわからない職業なら、家に残っている方がやることになるのだろうけど。

 そんなわけで、今は子供のおむつを洗濯している。
 洗濯なんて当主であるオーリスの伴侶である俺がやる事ではないのだろうが、子供の汚した布を洗うのも育児をしている実感がある。
 紙おむつなんて便利なものはないので、汚れたら洗うしかないのだ。
 以前オッティに紙おむつの生産を持ち掛けたが、

「おむつの生産工程なんて見たこともないし、クリーンルームをつくるのが大変だからむーりーまん」

 と断られてしまった。
 個人的にはむりーずって言って欲しかったな。
 パス、パースでもいいんだけど。
 ※ダジャレは別としておむつはパンパースが一番はかせやすかったですね。

 それと、オッティに言われたのだが、紙おむつが快適すぎておむつが取れない子供が増えているんじゃないかというのが目から鱗だった。
 おもらししても不快じゃないから、いつまでたっても出る前にトイレに行けないままだというのだとか。
 母乳だけの時はうんちも臭くないけど、離乳食がはじまると徐々に臭くなっていくから、いつまでもおむつが取れないと親は大変だぞって言われた。
 確かに、今はうんちが全然臭くないのだが、そのうちこれが臭くなってしまうのだろうか。
 腸内フローラを整えてそれは絶対に阻止しないと。
 臭いうんち触りたくないし。
 日和見菌に対して「日和やがって」とリンチを加える善玉菌を増やしたいところだけど、ヘルメットとタオルで顔を隠して、ゲバ棒で叩いてくるイメージに善玉という名前を与えてもいいのだろうか?

「アルトー。少し寝るからサクラのことを見ていて」

 オーリスに頼まれたので、洗濯に区切りがついたところでサクラのところに行く。
 サクラは俺が抱っこした途端に泣き始めた。
 軽く揺さぶってみたり、話しかけてみたが一向に泣き止まない。

「アルトの抱き方が悪い」

 睡眠不足で不機嫌なオーリスは、泣き続けるサクラを俺から受け取り抱っこする。
 すると直ぐにサクラは泣き止んだ。

「このまえ教えた通りに抱けばこうやって泣き止むでしょ!」

 そう怒られるが、俺の作業標準書スキルを使って抱っこしているのに、それでも泣き止まないのは抱き方の問題じゃないと思う。
 ここはやはり、泣き止まない真因を探るために確認をしていかなければならないだろう。
 そう決意して4Mの確認をすることにした。
 勿論、機械や材料なんてものはないので人と方法を確認することになる。

「まずは、屋敷にいる人達に同じように抱っこしてもらって、泣き止むかどうかを検証してみないとなあ」

 という訳で、屋敷の人達に協力してもらい、サクラを抱っこして泣き止む泣き止まないを確認していく。
 抱っこの直前に抱き方を指導して、同じように抱っこしてみる。
 すると興味深いデータが取れた。
 男性陣は子供を持っている人も含めて全滅だけど、女性陣は殆どが泣き止ませることが出来た。
 未婚の女性で2名ほど泣き止ませられなかったというのはあるが、25名のうちの2名なので8%程度となる。
 PPM管理だと大問題だけどね。

 この結果を受けて再現トライをしてみる事にした。
 再現トライは俺が女性に変装して抱っこするのと、女性に変身して抱っこする2パターンだ。
 さてどんな結果になるだろうか。
 まずは変装だ。

「サクラ、ママですよ」

 オーリスに変装してサクラを抱っこしながら話しかける。
 結果はギャン泣き。
 直ぐにオーリスにサクラを渡して、今度は変身する。
 そしてオーリスからサクラを受け取った。

「サクラ、ママですよ」

 今度は泣かない。
 赤ちゃんの男女センサー優秀だなと感心した。
 続いてスターレットに変装してサクラを抱っこしてみる。
 すると、今度も泣かない。
 やはり男女センサーはあるな。

「解決したよ」

 とオーリスに話しかける。

「どういうこと?」

「オーリスに言われて作った作業標準書には、作業の急所として女性である事っていうのが抜けていたんだ。だから、俺がサクラを抱っこしても泣き止まなかった。対策として、サクラを抱っこするときには女性に変身して抱っこするようにするよ」

 作業標準書スキルは指導してくれた人のレベルに影響される。
 初めての子供だったので、当然レベルは低かったわけだ。
 実際、前世の会社でも経験の浅い社員が作った作業標準書では、重要なことが抜け落ちていて作業者に伝わらないっていうのがかなりあった。
 思い返せば自分のスキルで作った作業標準書は、金等級の冒険者をギルド長に紹介してもらったこともあり、かなり出来の良いものだった。
 まあ、対策書で作業標準書に不備があったので修正しますなんてのは最近では通らなくなったので、何故不備があったのかまでは踏み込まないとね。
 会社が社員教育の費用をけちるからです!
 対策書には書けませんが。

 対策が出来て満足している俺に、オーリスが次の課題を与えてきた。

「抱っこは解決できたから、次は背中スイッチね」

 背中スイッチとは、抱っこして寝かしつけた赤ちゃんをベッドに寝かそうとしたとき、背中がベッドに触れたとたんに泣き始めるというものである。
 今までは抱っこしても泣き止まなかったので、背中スイッチのところまでは到達出来なかったが、今回抱っこの対策が出来たことで次の段階へと進んだわけだ。

「俺たちの戦いはこれからだー」

「次回作の前に子育てをちゃんとやってね」

「はい……」


※作者の独り言
我が家では子供からみた続柄で父、祖父二人は泣き止まず、母と祖母二人は泣き止みました。
育児ヘルパーの女性が抱っこしても泣き止んでいます。
なお、2歳くらいまでは母親がトイレに行くと追いかけて行きました。
父親と一緒に待っている事が出来ませんでしたね。
お気に入りのユーチューブを見せても駄目でした。
3歳前くらいからはトイレくらいは待てるようになっています。
なお、沐浴と入浴については父親である自分がやっても泣かなかったので、ずっと自分が担当していました。
泣いていてもお湯につかると不思議と泣き止むんですよね。

なお、背中スイッチは攻略できずに終わっています。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

処理中です...