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49話 8Dレポートによる対策 2
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ステラに向かって塩の輸送が始まった。
俺達は護衛役としてそれに同行している。
再現トライだな。
今まで多くの塩の輸送商隊が襲われて、塩を奪われてきたのだが、その襲撃犯の尻尾を掴めていないので、自分達が囮になって襲撃を再現する。
まさか転生してまで不具合対策の手法を使うとは思っていなかったが、今にして思うと色々なことに応用できるな。
簡単に真因にたどり着きたいというのはいつでも一緒だな。
苦労などしたくない。
再現トライを実施する段階で既に苦労といえばその通りなんだけど。
QRQCっぽくなってきたな。
QRQCはクイックレスポンスクオリティコントロールの頭文字を取ったものだ。
現場で起きた工程内不良に対して、素早い対応をするためのQCである。
とはいえ、現場レベルなので予算や権限に限りがあって、どうしても対応しきれないものもある。
そういったものは、プラントQCに挙げられて偉い人達の間で議論をしてもらう事になる。
今回の事でいえば、俺達が囮として襲われ、犯人を特定できたとしても、それが敵国が送り込んできた兵士だったりすると、一冒険者ギルドの職員の領分をはるかに超えた事案となる。
その時は国王や大臣などに対応してもらうのが妥当だろう。
そんな面倒な事にならないことを祈るばかりだ。
そんなろくでもない想像をしながらも、俺達の塩の輸送隊はステラへと向かって進んでいく。
今のところ人間どころかモンスターにも襲われていない。
街道は定期的な軍によるモンスターの討伐や、冒険者達への依頼でモンスターの群れに出くわす事はほぼない。
はぐれの奴等に出くわす事が、極まれに発生するくらいなのだ。
とはいえ、極まれな事態で全財産を失う可能性もあるので、商人は冒険者を護衛として雇うわけだ。
保険だな。
「天に日が昇り全てを包み込む母のような暖かい光を遮る雲はなく、我らも同様に視界良好にして前方に艱難辛苦の気配無し」
「なにそれ、吟遊詩人にでもなるつもり?」
なんとなく浮かんだ言葉を口にしたら、シルビアに突っ込まれた。
こんなジョブ固定の世界でもなければ、今回の人生で吟遊詩人になるのもよかったかもしれないな。
楽器の使い方なんて覚えればいいんだし。
なにより、品質管理なんかよりきっと楽しいはずだ。
「才能有ると思うんだけど」
「適正ジョブが無いと厳しいよ」
スターレットが真顔で答える。
本気で目指すわけではないので安心して欲しい。
対策書でも時々韻を踏んでみたりしたのだが、そんな文章考えるよりも効果的な対策を考えたほうが良かったな。
品管は文学者でもなければ小説家でもない。
「あんたたち、護衛なんだから気を抜かないでよね」
シルビアから注意を受けたので、スターレットとの会話はここで終わった。
俺は別に気を抜いているわけではない。
実際、後ろから付けてきている人物の気配は感じていた。
街を出た時からついてきているのは間違いない。
何せこちらとの距離が一定なのだ。
荷物がないのに同じスピードというのはありえないだろう。
俺の作った尾行発見の作業標準書でも、作業の急所としてその事が書いてある。
時々移動速度を変えても、同じ間隔でついてくる奴は尾行者だ、と。
尾行者も標準作業のようにこちらとの間隔を一定に保っている。
尾行における規矩準縄というものがあるのであれば、これがまさしくそれであるな。
ということで、尾行されているのは確定だな。
シルビアが気かつかない位には、相手も手練れなのではあるが。
今の一団の中で気が付いているのは俺だけであり、尾行者もこちらが気づいているとは思ってないだろう。
しばらくは気づいてないふりをして、このままステラへと向かうことにした。
「そうか、ベテランの冒険者の護衛でも気づかないくらいに、相手の尾行が上手だったのか。これが全滅させられた原因につながりそうだな」
俺がそう考えていると
「アルト、前を見ながら歩きなさいよね」
とアスカから注意をされてしまった。
考え事をしていると、つい視線が定まらなくなってしまう癖が治らないな。
ついでに言うと、考え事をしているときは独り言も多くなる。
しかも、話しかけているような独り言なので、同室の品管部員が返事をしてしまったことが何度か。
まあ、これは学生時代からの癖なので、無用な返事をさせてしまったのは品管部員だけではない。
なんで考え事をしていると独り言がでるんだろうかな?
決して俺だけの癖ではないぞ。
そうこうしているうちに、街からかなり離れて見通しの悪い林の間を通る区間にさしかかった。
襲われるならこういうところだろうか。
そう考えていたら後方から笛のような音が聞こえた。
ただ、その音は上の方に離れていくので、おそらくは鏑矢のようなものであったのだろう。
流石に音に反応して振り向いた時には、既に音源は見えなくなっていた。
そして、みんながそちらに気を取られていると、林の中から矢が飛んでくる。
こちらは殺意を以て放たれたものだ。
が、俺は尾行している奴の存在に気付いており、先ほどの音が襲撃開始の合図だとわかっているので、足元に転がっている石を蹴り上げて、飛来する矢を迎撃した。
林の中から驚いたような気配を感じる。
「襲撃だ!」
俺がそう叫ぶと、全員が一斉に武器を抜いて身構える。
「アスカ、風の精霊を使って矢がこちらに飛んでこないようにして」
シルビアの指示にアスカが頷き、すぐさま精霊魔法で風の障壁を作り出す。
これならバリスタでもない限りは飛び道具でこちらを攻撃しても有効打はない。
数度矢が飛んできたが、全て風によってあらぬ方向へと向きを変えてしまい、相手も無駄だと気が付いたようで、林の中から姿を現して攻撃をしかけてきた。
「おや?」
その中に見たことのあるやつがいた。
「やれやれ、またあなた達ですか」
向こうも気が付いたようだ。
そう言ったのはラティオであった。
ステラから逃亡してこんなところで盗賊団を率いていたのである。
まあ、団といっても8人だが。
尾行していた奴を併せても9人。
周囲にそれ以上の気配は無く、これで全員と思って間違いないだろう。
「再現トライはひとまず成功か。ラティオが襲撃者の中にいたのであれば、どうやっても積み荷は守ることができないな」
思わずため息が出た。
災害級のモンスターに匹敵する白金等級の実力を持った襲撃者など、国の軍隊を投入してもどうなるかわかったもんじゃない。
というか、こいつはそんな実力を持っていながら、なんでこんなところで塩の強奪なんかしているんだろうか?
それも真因追及のために確認しておかないとな。
「【拘束】」
俺は植物の精霊王の力を借りる。
周囲の木の枝が伸びて、襲撃者たちを拘束した。
「アルト、なんで私よりも精霊を扱うのが上手なのよ!」
アスカから抗議の声があがった。
元々はアスカに精霊魔法の使い方を教えてもらったのである。
その時に作業標準書を作成し、それを改訂して精霊王の力を借りられるようになったのである。
大した努力もしないで、精霊魔法の頂点を極めているので、道半ばのアスカからしたら面白くないだろうな。
「それは師匠がいいからだよ」
「当然ね」
俺のお世辞を聞くと、アスカは胸を張った。
単純だな。
などとやり取りをしていたら、バキっという枝が折れる音がした。
ラティオが力業で拘束から脱出したのである。
「そんな、精霊王の力が宿った枝を折るなんて……」
アスカは驚きを隠せないようだ。
流石は白金等級といったところか。
「流石に脱出するにはちと骨が折れましたけどね」
などと余裕綽々にいうラティオは剣を抜くと襲い掛かってきた。
シルビアですら手も足も出ない相手に攻撃させるわけにはいかないので、俺が前に出てその動きを牽制する。
ラティオの足元からテーパーゲージを出現させて、串刺しにしてやろうかと思ったが、すんでのところで体を捻って躱されてしまった。
が、突撃を止める事には成功した。
お互いに距離を取ってにらみ合う。
「毒か?」
にらみ合っていると、ラティオの剣に液体が塗られているのが見えた。
なので訊いてみると
「その通り」
と答えが返ってきた。
思えば前回もシルビアが毒でやられたんだったな。
「ついでに教えておきますが、前回の毒は解毒されてしまったので、今回のはもっと強力でもっと早く効き目が出ます。不死の王リッチですらあの世に送ることが出来る代物ですよ」
得意満面に教えてくれるラティオ。
まったくもって聞きたくない情報が出てきたもんだ。
知っておいて良かったかもしれないがな。
生産技術が向上に引き渡す設備で「工程能力は達成できません」って言い切った時のような脱力感に襲われる。
「貴様に量産終了まで全数検査をさせられた者たちの恨みをぶつけようと思う」
「は?」
俺が前世からの怨嗟の念を受信したことを伝えるが、ラティオには伝わらなかった。
当然だな。
これじゃまるで俺が危ない人みたいじゃないか。
追い込まれて悩んでいる品管と一緒だぞ。
追い込まれた品管なんだけどね。
「つまり、貴様に襲われて散っていった冒険者たちの恨みを俺が晴らすということだ!」
勢いで誤魔化して、俺も剣を抜いてラティオに斬りかかる。
「踏み込みが甘いですね」
俺の剣に合わせるように、ラティオも剣を振るう。
狙い通り。
「【振動試験】」
俺は振動試験のスキルを発動する。
ぶつかり合った剣と剣が振動して、しばらく後に金属疲労で折れた。
毒の塗られた刃が地面に落ちる。
ラティオの気が一瞬そちらに向いたのを俺は見逃さず、一気に距離を詰めた。
握っていた剣を手放して、ラティオの腕と首元付近の服を掴んだ。
そのまま重心を後ろに傾けてやり、足を刈り上げてやる。
柔道の大外刈りだな。
ただ、違うのは受け身を取らせないように、こちらも一緒に腕を掴んだまま倒れこんでやることだ。
これをアスファルトの上でやると、やられた相手は後頭部を強打して、最悪は死に至る。
アスファルトとまではいかないまでも、地面に後頭部を強打したラティオはそのまま動かなくなった。
流石に死んではおらず、気を失っているだけのようだ。
死なれては尋問が出来ないからな。
「ロープを取ってもらえるかな?」
俺はスターレットにお願いして、ロープを持ってきてもらう。
そして、気絶しているラティオを縛り上げた。
他のメンバーも精霊魔法で拘束してあるので、これから全員を尋問して背景を確認しようか。
俺達は護衛役としてそれに同行している。
再現トライだな。
今まで多くの塩の輸送商隊が襲われて、塩を奪われてきたのだが、その襲撃犯の尻尾を掴めていないので、自分達が囮になって襲撃を再現する。
まさか転生してまで不具合対策の手法を使うとは思っていなかったが、今にして思うと色々なことに応用できるな。
簡単に真因にたどり着きたいというのはいつでも一緒だな。
苦労などしたくない。
再現トライを実施する段階で既に苦労といえばその通りなんだけど。
QRQCっぽくなってきたな。
QRQCはクイックレスポンスクオリティコントロールの頭文字を取ったものだ。
現場で起きた工程内不良に対して、素早い対応をするためのQCである。
とはいえ、現場レベルなので予算や権限に限りがあって、どうしても対応しきれないものもある。
そういったものは、プラントQCに挙げられて偉い人達の間で議論をしてもらう事になる。
今回の事でいえば、俺達が囮として襲われ、犯人を特定できたとしても、それが敵国が送り込んできた兵士だったりすると、一冒険者ギルドの職員の領分をはるかに超えた事案となる。
その時は国王や大臣などに対応してもらうのが妥当だろう。
そんな面倒な事にならないことを祈るばかりだ。
そんなろくでもない想像をしながらも、俺達の塩の輸送隊はステラへと向かって進んでいく。
今のところ人間どころかモンスターにも襲われていない。
街道は定期的な軍によるモンスターの討伐や、冒険者達への依頼でモンスターの群れに出くわす事はほぼない。
はぐれの奴等に出くわす事が、極まれに発生するくらいなのだ。
とはいえ、極まれな事態で全財産を失う可能性もあるので、商人は冒険者を護衛として雇うわけだ。
保険だな。
「天に日が昇り全てを包み込む母のような暖かい光を遮る雲はなく、我らも同様に視界良好にして前方に艱難辛苦の気配無し」
「なにそれ、吟遊詩人にでもなるつもり?」
なんとなく浮かんだ言葉を口にしたら、シルビアに突っ込まれた。
こんなジョブ固定の世界でもなければ、今回の人生で吟遊詩人になるのもよかったかもしれないな。
楽器の使い方なんて覚えればいいんだし。
なにより、品質管理なんかよりきっと楽しいはずだ。
「才能有ると思うんだけど」
「適正ジョブが無いと厳しいよ」
スターレットが真顔で答える。
本気で目指すわけではないので安心して欲しい。
対策書でも時々韻を踏んでみたりしたのだが、そんな文章考えるよりも効果的な対策を考えたほうが良かったな。
品管は文学者でもなければ小説家でもない。
「あんたたち、護衛なんだから気を抜かないでよね」
シルビアから注意を受けたので、スターレットとの会話はここで終わった。
俺は別に気を抜いているわけではない。
実際、後ろから付けてきている人物の気配は感じていた。
街を出た時からついてきているのは間違いない。
何せこちらとの距離が一定なのだ。
荷物がないのに同じスピードというのはありえないだろう。
俺の作った尾行発見の作業標準書でも、作業の急所としてその事が書いてある。
時々移動速度を変えても、同じ間隔でついてくる奴は尾行者だ、と。
尾行者も標準作業のようにこちらとの間隔を一定に保っている。
尾行における規矩準縄というものがあるのであれば、これがまさしくそれであるな。
ということで、尾行されているのは確定だな。
シルビアが気かつかない位には、相手も手練れなのではあるが。
今の一団の中で気が付いているのは俺だけであり、尾行者もこちらが気づいているとは思ってないだろう。
しばらくは気づいてないふりをして、このままステラへと向かうことにした。
「そうか、ベテランの冒険者の護衛でも気づかないくらいに、相手の尾行が上手だったのか。これが全滅させられた原因につながりそうだな」
俺がそう考えていると
「アルト、前を見ながら歩きなさいよね」
とアスカから注意をされてしまった。
考え事をしていると、つい視線が定まらなくなってしまう癖が治らないな。
ついでに言うと、考え事をしているときは独り言も多くなる。
しかも、話しかけているような独り言なので、同室の品管部員が返事をしてしまったことが何度か。
まあ、これは学生時代からの癖なので、無用な返事をさせてしまったのは品管部員だけではない。
なんで考え事をしていると独り言がでるんだろうかな?
決して俺だけの癖ではないぞ。
そうこうしているうちに、街からかなり離れて見通しの悪い林の間を通る区間にさしかかった。
襲われるならこういうところだろうか。
そう考えていたら後方から笛のような音が聞こえた。
ただ、その音は上の方に離れていくので、おそらくは鏑矢のようなものであったのだろう。
流石に音に反応して振り向いた時には、既に音源は見えなくなっていた。
そして、みんながそちらに気を取られていると、林の中から矢が飛んでくる。
こちらは殺意を以て放たれたものだ。
が、俺は尾行している奴の存在に気付いており、先ほどの音が襲撃開始の合図だとわかっているので、足元に転がっている石を蹴り上げて、飛来する矢を迎撃した。
林の中から驚いたような気配を感じる。
「襲撃だ!」
俺がそう叫ぶと、全員が一斉に武器を抜いて身構える。
「アスカ、風の精霊を使って矢がこちらに飛んでこないようにして」
シルビアの指示にアスカが頷き、すぐさま精霊魔法で風の障壁を作り出す。
これならバリスタでもない限りは飛び道具でこちらを攻撃しても有効打はない。
数度矢が飛んできたが、全て風によってあらぬ方向へと向きを変えてしまい、相手も無駄だと気が付いたようで、林の中から姿を現して攻撃をしかけてきた。
「おや?」
その中に見たことのあるやつがいた。
「やれやれ、またあなた達ですか」
向こうも気が付いたようだ。
そう言ったのはラティオであった。
ステラから逃亡してこんなところで盗賊団を率いていたのである。
まあ、団といっても8人だが。
尾行していた奴を併せても9人。
周囲にそれ以上の気配は無く、これで全員と思って間違いないだろう。
「再現トライはひとまず成功か。ラティオが襲撃者の中にいたのであれば、どうやっても積み荷は守ることができないな」
思わずため息が出た。
災害級のモンスターに匹敵する白金等級の実力を持った襲撃者など、国の軍隊を投入してもどうなるかわかったもんじゃない。
というか、こいつはそんな実力を持っていながら、なんでこんなところで塩の強奪なんかしているんだろうか?
それも真因追及のために確認しておかないとな。
「【拘束】」
俺は植物の精霊王の力を借りる。
周囲の木の枝が伸びて、襲撃者たちを拘束した。
「アルト、なんで私よりも精霊を扱うのが上手なのよ!」
アスカから抗議の声があがった。
元々はアスカに精霊魔法の使い方を教えてもらったのである。
その時に作業標準書を作成し、それを改訂して精霊王の力を借りられるようになったのである。
大した努力もしないで、精霊魔法の頂点を極めているので、道半ばのアスカからしたら面白くないだろうな。
「それは師匠がいいからだよ」
「当然ね」
俺のお世辞を聞くと、アスカは胸を張った。
単純だな。
などとやり取りをしていたら、バキっという枝が折れる音がした。
ラティオが力業で拘束から脱出したのである。
「そんな、精霊王の力が宿った枝を折るなんて……」
アスカは驚きを隠せないようだ。
流石は白金等級といったところか。
「流石に脱出するにはちと骨が折れましたけどね」
などと余裕綽々にいうラティオは剣を抜くと襲い掛かってきた。
シルビアですら手も足も出ない相手に攻撃させるわけにはいかないので、俺が前に出てその動きを牽制する。
ラティオの足元からテーパーゲージを出現させて、串刺しにしてやろうかと思ったが、すんでのところで体を捻って躱されてしまった。
が、突撃を止める事には成功した。
お互いに距離を取ってにらみ合う。
「毒か?」
にらみ合っていると、ラティオの剣に液体が塗られているのが見えた。
なので訊いてみると
「その通り」
と答えが返ってきた。
思えば前回もシルビアが毒でやられたんだったな。
「ついでに教えておきますが、前回の毒は解毒されてしまったので、今回のはもっと強力でもっと早く効き目が出ます。不死の王リッチですらあの世に送ることが出来る代物ですよ」
得意満面に教えてくれるラティオ。
まったくもって聞きたくない情報が出てきたもんだ。
知っておいて良かったかもしれないがな。
生産技術が向上に引き渡す設備で「工程能力は達成できません」って言い切った時のような脱力感に襲われる。
「貴様に量産終了まで全数検査をさせられた者たちの恨みをぶつけようと思う」
「は?」
俺が前世からの怨嗟の念を受信したことを伝えるが、ラティオには伝わらなかった。
当然だな。
これじゃまるで俺が危ない人みたいじゃないか。
追い込まれて悩んでいる品管と一緒だぞ。
追い込まれた品管なんだけどね。
「つまり、貴様に襲われて散っていった冒険者たちの恨みを俺が晴らすということだ!」
勢いで誤魔化して、俺も剣を抜いてラティオに斬りかかる。
「踏み込みが甘いですね」
俺の剣に合わせるように、ラティオも剣を振るう。
狙い通り。
「【振動試験】」
俺は振動試験のスキルを発動する。
ぶつかり合った剣と剣が振動して、しばらく後に金属疲労で折れた。
毒の塗られた刃が地面に落ちる。
ラティオの気が一瞬そちらに向いたのを俺は見逃さず、一気に距離を詰めた。
握っていた剣を手放して、ラティオの腕と首元付近の服を掴んだ。
そのまま重心を後ろに傾けてやり、足を刈り上げてやる。
柔道の大外刈りだな。
ただ、違うのは受け身を取らせないように、こちらも一緒に腕を掴んだまま倒れこんでやることだ。
これをアスファルトの上でやると、やられた相手は後頭部を強打して、最悪は死に至る。
アスファルトとまではいかないまでも、地面に後頭部を強打したラティオはそのまま動かなくなった。
流石に死んではおらず、気を失っているだけのようだ。
死なれては尋問が出来ないからな。
「ロープを取ってもらえるかな?」
俺はスターレットにお願いして、ロープを持ってきてもらう。
そして、気絶しているラティオを縛り上げた。
他のメンバーも精霊魔法で拘束してあるので、これから全員を尋問して背景を確認しようか。
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