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七章 四天王幹部
32話:均衡亡きファグロ(1)
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幹部、『均衡亡きファグロ』は尾を生やして、二本の角と硬い鱗を有する魔族であるが、バオム国に潜入するため、旅人を狩ってその身体を利用していた。
人の身体はどうにも窮屈で動きにくく戦いにくい。
ただ上司である魔王軍四天王の命令に背くことはできないし、人間はなぜか魔法を使えなくなったらしいから全力を出さなくてもいいとの判断でもある。
だったら。
「いちいち潜入して待ってないでさっさと殺してしまえばいいのによお。慎重なのと臆病なのは違うぜ」
魔王軍のアジトは地下に作っている。
ファグロは埃が舞ってあたかも煙に見えるような空気の汚い地下室が嫌いだった。
特別綺麗好きというわけではないが。
「ファグロ様」
「あ、どーした? ちゃんと人間殺したか? ここを出たら最低一人は殺せ、その度胸がなければ戻って来るな。おい、人間の血の匂いがしないぞ。ふざけてるのか?」
「い、いえ。早急な報告が必要だと思い、戻ってきました。仲間の一人が捕まって……」
そのとき、男の首が飛んだ。
しかし、体液が一切ない。
転がった頭を踏みつける。
「勝手に話すなよ。勝手に例外を作るなよ。外出したら人間を殺すってそういうルールにしただろうが。勝手に考えて逆らうな、全く。おい、メイド」
「はい、ファグロ様」
背の高い女性が暗闇から現れた。
縁が黒い眼鏡を付けている。
「殺らせろよお、気分が悪いんだあ」
「あ、いや、そんなあ。まだ昼間です、いやん、破廉恥です」
メイドが腰をくねくねと曲げながら煽情的に魅せる。
ファグロが人差し指を向けると、黒い禍々しい球体が膨らんで頭ほどの大きさになる。
メイドは咳払いを一つ。
「コホン、コホン。冗談ですよ。この女モテモテだったらしいので愛しのファグロ様に試してみようかと。さておき、私を殺すのは得策ではありませんね」
「からかうな、そしてふざけた真似をするな」
指先の黒い球体を消した。
「ですが、ファグロ様。殺したやつですが恐らく、仲間が敵に捕まった。情報が洩れるかもしれないと言おうとしたものと」
「そうかあ。四天王様も臆病が過ぎる、回りくどいからだろうがあ。全面戦争しようぜえ」
「ファグロ様の言う通りです。人間たちが魔法を使えないのは理由が分かりませんが、世界樹を我が物にすれば莫大な力が得られると考えられます」
「そうだ」
「四天王様を無視して動けないのが厄介ですね」
「四天王様は何を苦戦している? 元々の強さに加えて強烈な呪いを魔王様から受け取っていたはずだ」
「はい。あ、ファグロ様」
「なんだ」
「魔王様からの力は呪いではなく加護と呼ぶべきですよ」
「呪いも加護も下手くそな寵愛って意味では同じだろうがあ。『血も亡きプローベ』なんて大そうな名前を語っておいて小物過ぎだあ。もっと極端でいい、一気に仕留める、それが愉快だろうがよお」
「その通りでございますね」
メイドは帰ろうと踵を返す。
ファグロは思い出したようにメイドを引き留めた。
「そうだ、メイドさんよお」
「はい、ファグロ様」
「気づいてるか?」
「もちろんですとも」
手をお腹に置いて一礼をする。
「掃除してくれ」
「嫌ですが」
「殺すぞ」
「今はそのときではございません」
「いやそういう問題ではないが」
「今度しておきます」
「前も聞いたが? 汚いんだ、ここ。掃除しろよ、メイドがあ」
だがファグロはメイドが言うことを聞く魔族でないことを分かって。
代わりに呆れた表情で睨む。
「私はかわいいがお仕事です。ああ、もっとかわいいを着たいです。日課の殺しに行ってきます」
「仕事熱心なのはいいがあ、くしゅんっ。くそ、俺としたことがくしゃみが出てしまうなあ」
「あ、かわいいくしゃみですね! 聞いてますとも」
「早くいけよ!」
「是非とも」
「いや待て。掃除してくれ」
「ファグロ様のお気持ちが変わる前に行ってきます」
ファグロは逃げようとするメイドの肩を掴む。
「もう気持ちは変わってるわあ、掃除だあ。人間の身体を借りているせいで、くしゃみも出る、目も痒い。人間やめたいなあ」
「あら。でもいつかは掃除します」
「今しろよお。俺のくしゃみ聞いてただろお」
「人間らしい、人間を堪能してる。ずるいですね」
「楽しいと思うかあ?」
「私もかわいいを着て、人間を堪能したい!」
「聞けよ」
「では!」
メイドが足を後ろに上げて手を胸の前に抱えて駆けていく。
苛立ちとともに眉に力が入ったファグロは、指先から黒い球体を出してビームを放った。
メイドは腹部に大穴を開けてバランスを崩して床に倒れる。
が、そのまま起き上がった。
「ファグロ様、何をするんですか? 『所定亡きバシュルス』、これでは死にません」
「分かってる。だが見ろ、お前はまだかわいいかあ?」
「当然ですが。何を言って、ってうわあああああ!」
服に埃が付いて真っ白になっている。
ファグロを見るとニヤニヤしていた。
「やっと掃除をする気になったかあ」
「ファグロ様、私のかわいいを汚しましたね」
「ははん。だが殺すのは得策じゃない、だろうよお」
「分かりましたわ。かわいいが壊れて。新しい身体が必要になりましたね」
「掃除しておけ。俺が持ってくる。かわいいがほしいだろ?」
「そうですね、前に見た姫がかわいい」
「ディーレだろ? それは全面戦争になってからだ」
「オシュテン!」
「同じだ、全面戦争になる。でも仲間が捕まったならすぐに全面戦争だ。二人の身体から選ばしてやるよお、だから今は我慢しろ。好みの身体でなくても」
「身体空いてるのは嫌ですが? あと男も」
「ああ。それくらいの要望ならな。ってくしゅん!」
「掃除しますね。いつまでもくしゃみしてる場合ではないので」
「うるせえ」
ファグロはアジトを出る。
テキトーな身体を見繕うとは言ったができればサプライズになるような身体がいい。
辺りを見渡す。
賑やかであることに気づく。
「お、お兄さん。これ知ってるか?」
男に紙切れを渡される。
統一祭、と。
「統一か」
魔王軍が国内にいるときに愉快なものだ。
ファグロは不機嫌そうに頭を掻きながら獲物を探していた。
人の身体はどうにも窮屈で動きにくく戦いにくい。
ただ上司である魔王軍四天王の命令に背くことはできないし、人間はなぜか魔法を使えなくなったらしいから全力を出さなくてもいいとの判断でもある。
だったら。
「いちいち潜入して待ってないでさっさと殺してしまえばいいのによお。慎重なのと臆病なのは違うぜ」
魔王軍のアジトは地下に作っている。
ファグロは埃が舞ってあたかも煙に見えるような空気の汚い地下室が嫌いだった。
特別綺麗好きというわけではないが。
「ファグロ様」
「あ、どーした? ちゃんと人間殺したか? ここを出たら最低一人は殺せ、その度胸がなければ戻って来るな。おい、人間の血の匂いがしないぞ。ふざけてるのか?」
「い、いえ。早急な報告が必要だと思い、戻ってきました。仲間の一人が捕まって……」
そのとき、男の首が飛んだ。
しかし、体液が一切ない。
転がった頭を踏みつける。
「勝手に話すなよ。勝手に例外を作るなよ。外出したら人間を殺すってそういうルールにしただろうが。勝手に考えて逆らうな、全く。おい、メイド」
「はい、ファグロ様」
背の高い女性が暗闇から現れた。
縁が黒い眼鏡を付けている。
「殺らせろよお、気分が悪いんだあ」
「あ、いや、そんなあ。まだ昼間です、いやん、破廉恥です」
メイドが腰をくねくねと曲げながら煽情的に魅せる。
ファグロが人差し指を向けると、黒い禍々しい球体が膨らんで頭ほどの大きさになる。
メイドは咳払いを一つ。
「コホン、コホン。冗談ですよ。この女モテモテだったらしいので愛しのファグロ様に試してみようかと。さておき、私を殺すのは得策ではありませんね」
「からかうな、そしてふざけた真似をするな」
指先の黒い球体を消した。
「ですが、ファグロ様。殺したやつですが恐らく、仲間が敵に捕まった。情報が洩れるかもしれないと言おうとしたものと」
「そうかあ。四天王様も臆病が過ぎる、回りくどいからだろうがあ。全面戦争しようぜえ」
「ファグロ様の言う通りです。人間たちが魔法を使えないのは理由が分かりませんが、世界樹を我が物にすれば莫大な力が得られると考えられます」
「そうだ」
「四天王様を無視して動けないのが厄介ですね」
「四天王様は何を苦戦している? 元々の強さに加えて強烈な呪いを魔王様から受け取っていたはずだ」
「はい。あ、ファグロ様」
「なんだ」
「魔王様からの力は呪いではなく加護と呼ぶべきですよ」
「呪いも加護も下手くそな寵愛って意味では同じだろうがあ。『血も亡きプローベ』なんて大そうな名前を語っておいて小物過ぎだあ。もっと極端でいい、一気に仕留める、それが愉快だろうがよお」
「その通りでございますね」
メイドは帰ろうと踵を返す。
ファグロは思い出したようにメイドを引き留めた。
「そうだ、メイドさんよお」
「はい、ファグロ様」
「気づいてるか?」
「もちろんですとも」
手をお腹に置いて一礼をする。
「掃除してくれ」
「嫌ですが」
「殺すぞ」
「今はそのときではございません」
「いやそういう問題ではないが」
「今度しておきます」
「前も聞いたが? 汚いんだ、ここ。掃除しろよ、メイドがあ」
だがファグロはメイドが言うことを聞く魔族でないことを分かって。
代わりに呆れた表情で睨む。
「私はかわいいがお仕事です。ああ、もっとかわいいを着たいです。日課の殺しに行ってきます」
「仕事熱心なのはいいがあ、くしゅんっ。くそ、俺としたことがくしゃみが出てしまうなあ」
「あ、かわいいくしゃみですね! 聞いてますとも」
「早くいけよ!」
「是非とも」
「いや待て。掃除してくれ」
「ファグロ様のお気持ちが変わる前に行ってきます」
ファグロは逃げようとするメイドの肩を掴む。
「もう気持ちは変わってるわあ、掃除だあ。人間の身体を借りているせいで、くしゃみも出る、目も痒い。人間やめたいなあ」
「あら。でもいつかは掃除します」
「今しろよお。俺のくしゃみ聞いてただろお」
「人間らしい、人間を堪能してる。ずるいですね」
「楽しいと思うかあ?」
「私もかわいいを着て、人間を堪能したい!」
「聞けよ」
「では!」
メイドが足を後ろに上げて手を胸の前に抱えて駆けていく。
苛立ちとともに眉に力が入ったファグロは、指先から黒い球体を出してビームを放った。
メイドは腹部に大穴を開けてバランスを崩して床に倒れる。
が、そのまま起き上がった。
「ファグロ様、何をするんですか? 『所定亡きバシュルス』、これでは死にません」
「分かってる。だが見ろ、お前はまだかわいいかあ?」
「当然ですが。何を言って、ってうわあああああ!」
服に埃が付いて真っ白になっている。
ファグロを見るとニヤニヤしていた。
「やっと掃除をする気になったかあ」
「ファグロ様、私のかわいいを汚しましたね」
「ははん。だが殺すのは得策じゃない、だろうよお」
「分かりましたわ。かわいいが壊れて。新しい身体が必要になりましたね」
「掃除しておけ。俺が持ってくる。かわいいがほしいだろ?」
「そうですね、前に見た姫がかわいい」
「ディーレだろ? それは全面戦争になってからだ」
「オシュテン!」
「同じだ、全面戦争になる。でも仲間が捕まったならすぐに全面戦争だ。二人の身体から選ばしてやるよお、だから今は我慢しろ。好みの身体でなくても」
「身体空いてるのは嫌ですが? あと男も」
「ああ。それくらいの要望ならな。ってくしゅん!」
「掃除しますね。いつまでもくしゃみしてる場合ではないので」
「うるせえ」
ファグロはアジトを出る。
テキトーな身体を見繕うとは言ったができればサプライズになるような身体がいい。
辺りを見渡す。
賑やかであることに気づく。
「お、お兄さん。これ知ってるか?」
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