39 / 54
八章 統一祭
38話:ディーレ姫の演説
しおりを挟む
統一祭当日の朝、城門の前に多くの国民が集まっていた。
ディーレが新たに戸籍を作成することに決めたのだ。
そのため祭りの前に城に来てもらい、戸籍を作るために書類を提出することにしていた。
そのついでに魔族かどうかをラメッタの魔道具で判断するという作戦だ。
バシュルスを逃してしまった以上、ラメッタが魔族か人間かを区別する魔道具を持っていることが知られてしまっている状態だ。
それでもこの作戦で進めるのは、魔族を見つけるためではなく、人間と確信できるものの戸籍を作ることにあった。あとは戸籍を持っていない者を調べ上げれば良いという考えである。
ちなみに、ラメッタと城の従者、執事が魔道具を使って検査している。
ラメッタの護衛としてはクレーエンが付く。
詳しい作戦や計画については、どこまでなり替わられているか、どこで情報が洩れるのか判断ができなかったために、城の従者、執事でさえも知らない。
「ディーレ姫大丈夫じゃろうか」
「人前で話す経験が少ないのか?」
「国がずっと荒れておったし機会に恵まれておらぬからな」
「心配か?」
「上手く演説してくれると思っておるが。もしかしたらってな」
「お母さんかよ」
「わしに子供がいたらこういう気持ちになることも少なくないかも」
「一体何才のつもりなんだよ」
「そうじゃな。わしはきっと自分でも分からぬ。どういう考えをしたら子供か、大人か、貫禄がある女性か。わしは一体何者じゃろか」
「知るか、難しい」
「じゃな」
ラメッタは門の上に白い花を半円状に編んだものを設置した。
色が変われば魔族が通ったことになる。
一斉に何人も見ることができるが誰で色が変わったかは分からない。
「クレーエン当たりじゃ」
「分かった」
深い青色に変色した。
クレーエンが剣を抜いて近づくと、魔族は咄嗟に近くの女性を盾にする。
クレーエンは地面を蹴って魔族に迫り一気に距離を詰める。
魔族は手から魔法を放とうとするが間に合わずにクレーエンに剣の刃を寝かせて殴られる。
痛みで手を離すと次に蹴りを食らって地面に倒れた。
人質がいないとなれば拘束して終わりだ。
「眠り薬をくれ」
「ほれ」
手足を押さえつけて魔族に錠剤を飲ませる。
気絶して脱力した。
「一人目じゃな。トゥーゲント連合の者に運ばせよう」
「ああ。門に戻ろう」
クレーエンたちは四体拘束した。
受付時間を終えると城門を閉めてクレーエンたちは誘導した国民の元へ向かう。
ディーレの護衛も兼ねてである。
国民は城のバルコニーを眺めてじっと待つ。
ディーレはドレスアップされて宝石で装飾された冠を被った状態で現れる。
硬い表情が威厳を感じさせるが、関係者からすれば、
「緊張しておるな」
「ドレスが膨らんでいて分からないが足が震えてそうだな」
「じゃな」
ラメッタが作った筒状の拡声器を掲げる。
ディーレの傍では従者が頭を下げて佇む。
拡声器の調子を確認すると口から何度も息を漏らして。
カッと目を見開いて国民を見る。
「私はバオム国の姫にして国王代理のディーレでしゅ」
即刻舌を噛む。
ラメッタからは遠くて見えないが、ディーレはひりひりした舌に悔しさを滲ませながら、失敗で緊張を加速させて手を震わせ、高まって熱い汗を流して、目尻に涙を溜めている。
「あ、やった。どうしよ?」
「ラメッタ、俺たちは何もできない。だがディーレ姫は立派だ、きっと挽回する」
「クレーエンはディーレ姫を認めるのじゃな」
「実力があるなら当然だろ」
「じゃな。頑張れ、ディーレ姫」
朝日にラメッタの頬が黄色っぽく、栽培される小麦のように照らされて輝く。
祈るように手を合わせていた。
「頑張れ」
相棒の必死に祈る様子を見てしまえばクレーエンも祈るしかない。
ただラメッタに合わせて手を合わせるのは視線が気になる。
「私はみなさんの協力を得ることでバオム国の統一を実現しました。オシュテン派のオシュテンさん、トゥーゲント連合のシュヴァルツさんの協力も大きなきっかけです。一度乱れてしまって王族して大変申し訳ないと思っています」
ディーレは深く頭を下げた。
騒がしくなる。
だが、あまりに長く頭を下げるものだから誰もが姫をじっと見ることにした。
その誠意から目が離せなくなったのだ。
ディーレは頭を上げて続ける。
「改めてみなさんをバオムの民として、バオム国のために働き、バオム国からの恵みを享受できるようにしていきたいと思っています。戸籍を新たに作り直します。バオム国はここから大きく発展して豊かになっていきます。もう一度王族を信じてくれませんか?」
ディーレが声を大にして言う。
「ふえええええッ! 良かった、良かったのじゃああっ」
ラメッタは鼻水を垂らして号泣していた。
うるさく泣くものだから注目を浴びてしまっている。
バルコニーにいるディーレにも気づかれた。
ディーレは片目を器用に閉じてラメッタに合図を送る。
「良かったのじゃ」
パチパチと拍手を送る。
「ラメッタ様?」
「おお」
トゥーゲント連合としてラメッタが開発したものを栽培している青年だった。
青年の周りにはトゥーゲント連合に所属している人々が集まっている。
ラメッタの拍手に答えて手を叩く。
それが伝わって拍手が大きくなっていく。
大地が唸るような盛大な拍手に、ディーレは少し照れくさそうにするのだった。
ディーレが新たに戸籍を作成することに決めたのだ。
そのため祭りの前に城に来てもらい、戸籍を作るために書類を提出することにしていた。
そのついでに魔族かどうかをラメッタの魔道具で判断するという作戦だ。
バシュルスを逃してしまった以上、ラメッタが魔族か人間かを区別する魔道具を持っていることが知られてしまっている状態だ。
それでもこの作戦で進めるのは、魔族を見つけるためではなく、人間と確信できるものの戸籍を作ることにあった。あとは戸籍を持っていない者を調べ上げれば良いという考えである。
ちなみに、ラメッタと城の従者、執事が魔道具を使って検査している。
ラメッタの護衛としてはクレーエンが付く。
詳しい作戦や計画については、どこまでなり替わられているか、どこで情報が洩れるのか判断ができなかったために、城の従者、執事でさえも知らない。
「ディーレ姫大丈夫じゃろうか」
「人前で話す経験が少ないのか?」
「国がずっと荒れておったし機会に恵まれておらぬからな」
「心配か?」
「上手く演説してくれると思っておるが。もしかしたらってな」
「お母さんかよ」
「わしに子供がいたらこういう気持ちになることも少なくないかも」
「一体何才のつもりなんだよ」
「そうじゃな。わしはきっと自分でも分からぬ。どういう考えをしたら子供か、大人か、貫禄がある女性か。わしは一体何者じゃろか」
「知るか、難しい」
「じゃな」
ラメッタは門の上に白い花を半円状に編んだものを設置した。
色が変われば魔族が通ったことになる。
一斉に何人も見ることができるが誰で色が変わったかは分からない。
「クレーエン当たりじゃ」
「分かった」
深い青色に変色した。
クレーエンが剣を抜いて近づくと、魔族は咄嗟に近くの女性を盾にする。
クレーエンは地面を蹴って魔族に迫り一気に距離を詰める。
魔族は手から魔法を放とうとするが間に合わずにクレーエンに剣の刃を寝かせて殴られる。
痛みで手を離すと次に蹴りを食らって地面に倒れた。
人質がいないとなれば拘束して終わりだ。
「眠り薬をくれ」
「ほれ」
手足を押さえつけて魔族に錠剤を飲ませる。
気絶して脱力した。
「一人目じゃな。トゥーゲント連合の者に運ばせよう」
「ああ。門に戻ろう」
クレーエンたちは四体拘束した。
受付時間を終えると城門を閉めてクレーエンたちは誘導した国民の元へ向かう。
ディーレの護衛も兼ねてである。
国民は城のバルコニーを眺めてじっと待つ。
ディーレはドレスアップされて宝石で装飾された冠を被った状態で現れる。
硬い表情が威厳を感じさせるが、関係者からすれば、
「緊張しておるな」
「ドレスが膨らんでいて分からないが足が震えてそうだな」
「じゃな」
ラメッタが作った筒状の拡声器を掲げる。
ディーレの傍では従者が頭を下げて佇む。
拡声器の調子を確認すると口から何度も息を漏らして。
カッと目を見開いて国民を見る。
「私はバオム国の姫にして国王代理のディーレでしゅ」
即刻舌を噛む。
ラメッタからは遠くて見えないが、ディーレはひりひりした舌に悔しさを滲ませながら、失敗で緊張を加速させて手を震わせ、高まって熱い汗を流して、目尻に涙を溜めている。
「あ、やった。どうしよ?」
「ラメッタ、俺たちは何もできない。だがディーレ姫は立派だ、きっと挽回する」
「クレーエンはディーレ姫を認めるのじゃな」
「実力があるなら当然だろ」
「じゃな。頑張れ、ディーレ姫」
朝日にラメッタの頬が黄色っぽく、栽培される小麦のように照らされて輝く。
祈るように手を合わせていた。
「頑張れ」
相棒の必死に祈る様子を見てしまえばクレーエンも祈るしかない。
ただラメッタに合わせて手を合わせるのは視線が気になる。
「私はみなさんの協力を得ることでバオム国の統一を実現しました。オシュテン派のオシュテンさん、トゥーゲント連合のシュヴァルツさんの協力も大きなきっかけです。一度乱れてしまって王族して大変申し訳ないと思っています」
ディーレは深く頭を下げた。
騒がしくなる。
だが、あまりに長く頭を下げるものだから誰もが姫をじっと見ることにした。
その誠意から目が離せなくなったのだ。
ディーレは頭を上げて続ける。
「改めてみなさんをバオムの民として、バオム国のために働き、バオム国からの恵みを享受できるようにしていきたいと思っています。戸籍を新たに作り直します。バオム国はここから大きく発展して豊かになっていきます。もう一度王族を信じてくれませんか?」
ディーレが声を大にして言う。
「ふえええええッ! 良かった、良かったのじゃああっ」
ラメッタは鼻水を垂らして号泣していた。
うるさく泣くものだから注目を浴びてしまっている。
バルコニーにいるディーレにも気づかれた。
ディーレは片目を器用に閉じてラメッタに合図を送る。
「良かったのじゃ」
パチパチと拍手を送る。
「ラメッタ様?」
「おお」
トゥーゲント連合としてラメッタが開発したものを栽培している青年だった。
青年の周りにはトゥーゲント連合に所属している人々が集まっている。
ラメッタの拍手に答えて手を叩く。
それが伝わって拍手が大きくなっていく。
大地が唸るような盛大な拍手に、ディーレは少し照れくさそうにするのだった。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる