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二十二
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「リイーヤ姉さん、またね」
「またね、アトール」
弟のアトールを見送り、わたしは厨房に入りお手伝いを始めた。フライパンの中で肉巻きおにぎりが香ばしく焼けている。みんなもお昼寝を始めて、わたしも表面では何もなかったかの様に、ふるまっていた。
(大葉とチーズを俵のおにぎりに巻いて……)
もくもくと厨房で大葉とチーズの俵おにぎりを作り、薄切りのセルド豚肉二枚を使い全体に巻く……
(わたし、みんなの前でナサに『自分を見張れ』だなんて大胆発言してしまうなんて……)
次に包んだ肉巻きおにぎりをフライパンで焼き始めた。でも、一番恥ずかしいのはみんなにバレバレなのになにが『名乗るような者ではありません』とか言って、必死で正体を隠そうとしていたこと。
(あ、穴があったら入りたい)
「リーヤ……リーヤ、聞いてる?」
(でもさ、あの時は気付かれていないと思っていたから、仕方ないけのだど……やっぱり恥ずかしい)
「リーヤ、お肉焼きすぎだよ」
「え、お肉? あ、ああ……焼き過ぎ」
考えることに夢中で、フライパンの中の肉巻きお握りはこんがり狐色。
「すみません、ミリアさん」
「リーヤ……あんた」
失敗したわたしを見て、ミリアは険しい顔をしていたのだけど、口元を手で隠して肩が揺れだした。
「プッ、ハハハッ……リーヤはいつも落ち着いた綺麗な子だと思っていたよ。まさか、ワーウルフと戦っちまう、勇ましい娘だったなんて。それに、さっきからずっと真っ赤な顔しちゃってさぁ……フフ、ハハッ」
ミリアは大笑い。
「わたしが勇ましい? え、真っ赤な顔?」
「シッシシ、真っ赤な顔だな」
「ナ、ナサまで? って、ナサ、お昼寝は?」
ナサはお昼寝せずにカウンターに肘を付いて、こちらを見て笑っていた。
「もう、恥ずかしいから、わたしなんて見ずに寝てよ」
「へいへい、リーヤに言われなくてもいまから寝るよ」
「だったら、早く寝るの!」
そんなわたしたちのやりとりを見ていて、ミリアはニッコリ笑ってナサを見た。
「あれぇー、ナサ。さっきから、リーヤばかり見てどうしたんだい? いつもの豪快な寝落ちはしないのかい?」
矛先がナサに移る。
「うるせぇ、いまから寝るところだ!」
「そう? さっきから働くリーヤを、心配そうな顔をして見ていたくせにさ」
心配そうな顔で見ていた? と、ナサを見ると少し照れたような彼と目があい、ナサはますます慌てた。
「オ、オレの勝手だろう。たまにリーヤが脇腹をさするから……母ちゃんの傷薬が効かなかったのかなって、心配で気になっただけだ」
と言った後に、ナサは勢いよくカウンターに顔を埋めた。わたしが脇腹をさすっていた……無意識に気になっていたんだ。
「心配してくれてありがとう、ナサがくれた傷薬のおかげで、今日はミリア亭に来られたんだよ」
そう寝ているナサに伝えると、ガバッと顔を上げた。
「ほんとうか、良かった。リーヤはちゃんと傷薬つけろよ。なくなったら言えよ、新しいのを持ってくるから」
「うん、わかった」
わたしが頷くと『昼寝する!』と言い、ナサはみんなに遅れて、カウンターの上でお昼寝を始めた。
「いやぁ、二人とも初々しくって、若いね。いい物を見せてもらったよ。さてと、肉巻きお握り終わらせようかね」
「はい」
フライパンに残った余分な油を拭き、甘辛く作ったタレをかけて火の加減をしながら、肉巻きお握りにタップリとタレをからめた。フライパンの中でタレの香ばしい香りがまた食欲をそそった。
洗い物を片付ける間に、肉巻きおにぎりを冷ましてタレをなじまる。タレがお肉に馴染んだらみんな用の大きなお弁当箱にサラダ菜をひき、肉巻きおにぎりを並べて、空いたところに大根と胡瓜のお漬物と、ほうれん草の卵焼きを詰めた。
「できた、美味しそうですね」
「ああ、甘辛の肉巻きおにぎり美味いよ。リーヤのはこのお弁当箱を使うといいよ」
ミリアはわたしにもお弁当箱を用意してくれた。そのお弁当箱に焼けすぎた肉巻きお握りと、お漬物とほうれん草を敷き詰めればわたしのお弁当も完成。
みんな専用のバスケットに大きなお弁当を詰めた。
「これで、よし、みんなのお弁当は終わりだ。後は私がやっておくから、今日は上がって家でゆっくり休みな」
「はい、この洗い物が終わったら上がります」
「わかった。そうだ、リーヤの作ったハンバーグ美味しかったよ、ごちそうさま」
「本当ですか、嬉しい」
ミリアにハンバーグを褒められた。
「それとさ、余り無理をしないことだね。離れて住む家族に心配をかけるんじゃないよ」
『わかりました』と頷くと"よしっ"と、ミリアに頭をグリグリ撫でられた。
「リーヤが大怪我しなくて、ほんと良かったよ」
ナサにも『そうだ』と言われるかと思ったけど、ナサは気持ち良さそうに、カウンターで寝息をたてていた。
(ぐっすり寝てる)
わたしはお弁当を持って、
「ミリアさん、お疲れ様でした」
「お疲れ様。明日は休みだけど二時から手伝いよろしくね」
「了解です、みんなも怪我の無いように仕事頑張ってね」
お昼寝中のみんなに"小さく"一言いって、わたしはミリア亭を後にした。
「またね、アトール」
弟のアトールを見送り、わたしは厨房に入りお手伝いを始めた。フライパンの中で肉巻きおにぎりが香ばしく焼けている。みんなもお昼寝を始めて、わたしも表面では何もなかったかの様に、ふるまっていた。
(大葉とチーズを俵のおにぎりに巻いて……)
もくもくと厨房で大葉とチーズの俵おにぎりを作り、薄切りのセルド豚肉二枚を使い全体に巻く……
(わたし、みんなの前でナサに『自分を見張れ』だなんて大胆発言してしまうなんて……)
次に包んだ肉巻きおにぎりをフライパンで焼き始めた。でも、一番恥ずかしいのはみんなにバレバレなのになにが『名乗るような者ではありません』とか言って、必死で正体を隠そうとしていたこと。
(あ、穴があったら入りたい)
「リーヤ……リーヤ、聞いてる?」
(でもさ、あの時は気付かれていないと思っていたから、仕方ないけのだど……やっぱり恥ずかしい)
「リーヤ、お肉焼きすぎだよ」
「え、お肉? あ、ああ……焼き過ぎ」
考えることに夢中で、フライパンの中の肉巻きお握りはこんがり狐色。
「すみません、ミリアさん」
「リーヤ……あんた」
失敗したわたしを見て、ミリアは険しい顔をしていたのだけど、口元を手で隠して肩が揺れだした。
「プッ、ハハハッ……リーヤはいつも落ち着いた綺麗な子だと思っていたよ。まさか、ワーウルフと戦っちまう、勇ましい娘だったなんて。それに、さっきからずっと真っ赤な顔しちゃってさぁ……フフ、ハハッ」
ミリアは大笑い。
「わたしが勇ましい? え、真っ赤な顔?」
「シッシシ、真っ赤な顔だな」
「ナ、ナサまで? って、ナサ、お昼寝は?」
ナサはお昼寝せずにカウンターに肘を付いて、こちらを見て笑っていた。
「もう、恥ずかしいから、わたしなんて見ずに寝てよ」
「へいへい、リーヤに言われなくてもいまから寝るよ」
「だったら、早く寝るの!」
そんなわたしたちのやりとりを見ていて、ミリアはニッコリ笑ってナサを見た。
「あれぇー、ナサ。さっきから、リーヤばかり見てどうしたんだい? いつもの豪快な寝落ちはしないのかい?」
矛先がナサに移る。
「うるせぇ、いまから寝るところだ!」
「そう? さっきから働くリーヤを、心配そうな顔をして見ていたくせにさ」
心配そうな顔で見ていた? と、ナサを見ると少し照れたような彼と目があい、ナサはますます慌てた。
「オ、オレの勝手だろう。たまにリーヤが脇腹をさするから……母ちゃんの傷薬が効かなかったのかなって、心配で気になっただけだ」
と言った後に、ナサは勢いよくカウンターに顔を埋めた。わたしが脇腹をさすっていた……無意識に気になっていたんだ。
「心配してくれてありがとう、ナサがくれた傷薬のおかげで、今日はミリア亭に来られたんだよ」
そう寝ているナサに伝えると、ガバッと顔を上げた。
「ほんとうか、良かった。リーヤはちゃんと傷薬つけろよ。なくなったら言えよ、新しいのを持ってくるから」
「うん、わかった」
わたしが頷くと『昼寝する!』と言い、ナサはみんなに遅れて、カウンターの上でお昼寝を始めた。
「いやぁ、二人とも初々しくって、若いね。いい物を見せてもらったよ。さてと、肉巻きお握り終わらせようかね」
「はい」
フライパンに残った余分な油を拭き、甘辛く作ったタレをかけて火の加減をしながら、肉巻きお握りにタップリとタレをからめた。フライパンの中でタレの香ばしい香りがまた食欲をそそった。
洗い物を片付ける間に、肉巻きおにぎりを冷ましてタレをなじまる。タレがお肉に馴染んだらみんな用の大きなお弁当箱にサラダ菜をひき、肉巻きおにぎりを並べて、空いたところに大根と胡瓜のお漬物と、ほうれん草の卵焼きを詰めた。
「できた、美味しそうですね」
「ああ、甘辛の肉巻きおにぎり美味いよ。リーヤのはこのお弁当箱を使うといいよ」
ミリアはわたしにもお弁当箱を用意してくれた。そのお弁当箱に焼けすぎた肉巻きお握りと、お漬物とほうれん草を敷き詰めればわたしのお弁当も完成。
みんな専用のバスケットに大きなお弁当を詰めた。
「これで、よし、みんなのお弁当は終わりだ。後は私がやっておくから、今日は上がって家でゆっくり休みな」
「はい、この洗い物が終わったら上がります」
「わかった。そうだ、リーヤの作ったハンバーグ美味しかったよ、ごちそうさま」
「本当ですか、嬉しい」
ミリアにハンバーグを褒められた。
「それとさ、余り無理をしないことだね。離れて住む家族に心配をかけるんじゃないよ」
『わかりました』と頷くと"よしっ"と、ミリアに頭をグリグリ撫でられた。
「リーヤが大怪我しなくて、ほんと良かったよ」
ナサにも『そうだ』と言われるかと思ったけど、ナサは気持ち良さそうに、カウンターで寝息をたてていた。
(ぐっすり寝てる)
わたしはお弁当を持って、
「ミリアさん、お疲れ様でした」
「お疲れ様。明日は休みだけど二時から手伝いよろしくね」
「了解です、みんなも怪我の無いように仕事頑張ってね」
お昼寝中のみんなに"小さく"一言いって、わたしはミリア亭を後にした。
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