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36話
チェルシーを見送り、僕はラテに「たまにはテントではなく、部屋のベッドで寝てみようか」と告げた。ラテが頷いたので、それぞれ自分の部屋で寝ることにした。
(エアーベッドで寝るのも悪くないけど……やっぱり、このベッドとお布団は気持ちいい)
うとうとしているうちに夜も更け、屋敷の中はしんと静まり返っていた。そのとき、僕の耳元で誰かが囁いた。
「我は、生姜焼きを所望する」
低く、よく通る渋い声。
僕は飛び起き、慌てて部屋を見渡した。だが、部屋の中には誰もいない。
(いまの……夢? いや、確かに聞こえた)
……まさか、幽霊?
翌朝。僕はラテと一緒に畑でジャガイモを収穫しながら、その話をした。
「ラテ、昨日の夜さ、部屋で寝てたよね。そのとき……幽霊が僕の耳元で囁いてきたんだ」
「え? 幽霊っすか? なんて言ってたんす?」
「えっと……『我は、生姜焼きを所望する』って。低音のいい声だった」
「渋い声の幽霊っすねぇ。生姜焼きが好きなんすかね」
「好きなのかな……? だったら、お供えしたほうがいいのか? でも、カレーに使っちゃって豚肉があんまり残ってないんだよ」
収穫を終え、新しくジャガイモの種芋を畑に植えながら呟くと、ラテはくすっと楽しそうに笑った。
「だったら、その幽霊にお願いしてみるっすよ。『生姜焼きにはお肉が必要です』って。そしたら幽霊も諦めるっす」
「えぇ……祟られたりしないかな」
「それは、大丈夫っすよ」
「ほんとうに?」
「ほんとうっす!」
半信半疑だけど、幽霊が気になった僕は今夜も、自分の部屋で寝ることにした。
そして深夜。
「我は、生姜焼きを所望する」
再び、あの声が耳元に響いた。
僕は意を決し、恐る恐る声を返す。
「あ、あの……生姜焼きを作るにはお肉が必要です。いま、生姜焼きを作れるほどのお肉がありません」
「なに? 肉が無いだと?」
聞こえた声は少し驚いたように響き、それから――
「よかろう。数日待つがいい!」
そう言い残していった。
(え……?)
まさか幽霊から返事が返ってくるとは思わなかった。しかも、自分で肉を調達するとまで言っていた。
「嘘だろう……幽霊が肉を持ってくる? どうやって?」
翌朝、その話をラテにすると、彼はにやにや笑った。
「それは楽しみっすね!」
「ラテ……? もしかして君、何か知ってるだろ」
「……ふふ、秘密っす」
笑いながらそう言い、いくら聞いても教えてくれない。なら幽霊に聞くしかないと、部屋で待ってみたが。その夜、あの声は聞こえてこなかった。
(まさか……本当に肉を調達しに行ったのか? 異世界の幽霊って狩りができるのか?)
そんな疑問を抱えたまま、数日が過ぎた。
いつものようにラテと畑で作業していると、屋敷の方からチェルシーが現れる。その彼女の横には軍服を着て、頭には二本の角、背後には長い尻尾を生やした渋い男性がいる。
どうやら、空き部屋に置いた転移鏡から現れたらしい。チェルシーはその男性を連れて、にこやかに僕のところまでやってきた。
「おはよう。ノエール君に頼まれていたお肉、持ってきたわよ!」
「えっ……僕が頼んだ、お肉?」
「うむ」
男性が一歩前に出て、低い声で言う。
「我が肉を狩ってきた。生姜焼きを所望する」
その瞬間、僕の背筋にぞくっとしたものが走った。
(この声……!)
間違いない。……あの夜、僕の耳元で生姜焼きを要求してきた“幽霊”の声と同じだ。
(エアーベッドで寝るのも悪くないけど……やっぱり、このベッドとお布団は気持ちいい)
うとうとしているうちに夜も更け、屋敷の中はしんと静まり返っていた。そのとき、僕の耳元で誰かが囁いた。
「我は、生姜焼きを所望する」
低く、よく通る渋い声。
僕は飛び起き、慌てて部屋を見渡した。だが、部屋の中には誰もいない。
(いまの……夢? いや、確かに聞こえた)
……まさか、幽霊?
翌朝。僕はラテと一緒に畑でジャガイモを収穫しながら、その話をした。
「ラテ、昨日の夜さ、部屋で寝てたよね。そのとき……幽霊が僕の耳元で囁いてきたんだ」
「え? 幽霊っすか? なんて言ってたんす?」
「えっと……『我は、生姜焼きを所望する』って。低音のいい声だった」
「渋い声の幽霊っすねぇ。生姜焼きが好きなんすかね」
「好きなのかな……? だったら、お供えしたほうがいいのか? でも、カレーに使っちゃって豚肉があんまり残ってないんだよ」
収穫を終え、新しくジャガイモの種芋を畑に植えながら呟くと、ラテはくすっと楽しそうに笑った。
「だったら、その幽霊にお願いしてみるっすよ。『生姜焼きにはお肉が必要です』って。そしたら幽霊も諦めるっす」
「えぇ……祟られたりしないかな」
「それは、大丈夫っすよ」
「ほんとうに?」
「ほんとうっす!」
半信半疑だけど、幽霊が気になった僕は今夜も、自分の部屋で寝ることにした。
そして深夜。
「我は、生姜焼きを所望する」
再び、あの声が耳元に響いた。
僕は意を決し、恐る恐る声を返す。
「あ、あの……生姜焼きを作るにはお肉が必要です。いま、生姜焼きを作れるほどのお肉がありません」
「なに? 肉が無いだと?」
聞こえた声は少し驚いたように響き、それから――
「よかろう。数日待つがいい!」
そう言い残していった。
(え……?)
まさか幽霊から返事が返ってくるとは思わなかった。しかも、自分で肉を調達するとまで言っていた。
「嘘だろう……幽霊が肉を持ってくる? どうやって?」
翌朝、その話をラテにすると、彼はにやにや笑った。
「それは楽しみっすね!」
「ラテ……? もしかして君、何か知ってるだろ」
「……ふふ、秘密っす」
笑いながらそう言い、いくら聞いても教えてくれない。なら幽霊に聞くしかないと、部屋で待ってみたが。その夜、あの声は聞こえてこなかった。
(まさか……本当に肉を調達しに行ったのか? 異世界の幽霊って狩りができるのか?)
そんな疑問を抱えたまま、数日が過ぎた。
いつものようにラテと畑で作業していると、屋敷の方からチェルシーが現れる。その彼女の横には軍服を着て、頭には二本の角、背後には長い尻尾を生やした渋い男性がいる。
どうやら、空き部屋に置いた転移鏡から現れたらしい。チェルシーはその男性を連れて、にこやかに僕のところまでやってきた。
「おはよう。ノエール君に頼まれていたお肉、持ってきたわよ!」
「えっ……僕が頼んだ、お肉?」
「うむ」
男性が一歩前に出て、低い声で言う。
「我が肉を狩ってきた。生姜焼きを所望する」
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間違いない。……あの夜、僕の耳元で生姜焼きを要求してきた“幽霊”の声と同じだ。
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