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歯痛と鬼とみたらし団子(後)

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数分後。

「環、はい処方箋、治療が終わった……」
「ありがとう。じゃ私は受付してくる『シシさん、受付に来て下さい』シンヤ、お団子全部食べちゃダメだからね」

「信用ねぇなぁ、分かってるよ」

 環は受付けに移動してシンヤの手書きの処方箋、あやかしお薬手帳を返した。処方箋に痛み止め薬と書かれていたのが気になったけど、口出しは御法度なので。
『お薬は猫又薬局で処方箋を出して、お受け取り下さい。お大事に』と、治療を終えたシシを見送った。
 
 
 外は日が暮れて、薄暗くなってきていた。
 時刻は五時半過ぎ、環は外と待合室にも誰もいないか確認して、表の『治療中』の札をひっくり返した。
 
「シンヤ君、もう患者さんがいなさそうだから、治療院閉めてきたよ」

「ありがとっさん」

 環はシンヤ座るテーブルの反対側に着き、お茶を飲み、団子を齧った。

「ンン、お団子美味しい。そうだ、野狐屋ヤコヤの稲荷寿司もあるけど食べる?」

「おお、食べる」

 休憩室にある小さな冷蔵庫の野菜室から、稲荷寿司を取り出し、取り箸とお皿を置いた。

「サンキュ、ここの稲荷寿司、美味いんだよなぁ」

「うんうん、甘辛く煮た油揚げが美味しいよね。……ねえ、シンヤ君、シシさんにちゃんと歯医者勧めてみた?」

「うん、勧めた。なんでも締め切り前で時間がないらしくて、終わったら行くって言ってた」

 ーー小説の締め切りかぁ。
 
 環は思う、当分、シシさんの歯痛は当分治らないかも。
 その感は当たり、五日後、目の下にクマを作ったシシさんが頬をはらし再び、治療院を訪れたのであった。

 病魔は分かっているので、直ぐにシンヤの治療室に通した。

「シシ、薬に頼るのはボドボドにして、カマイタチ歯科に行った方がいい」

「歯医者は苦手だが、時間が出来たので明日行ってくる……今日は礼に新しく横丁にできた仲間の店のみたらし団子を持ってきた、食べてくれ」

「ありがとう、環、シシに団子貰った」

 生醤油塗って、香ばしく焼き上げお団子。

「ほんと? いただきます」

「うむ、二人は良い夫婦だな」


「「まだ、夫婦じゃない!」」


 そうかそうか、ハハッと笑いシシは帰っていった。

 
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