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あやかし横丁の事件④

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「お、お父さん⁉︎」
「え、環の親父さん?」

 ケープコートの男性は環の父親だった、二人は驚き捕まえた男性を見つめた。
 歳は三十半ば、赤黒い髪の環と違って黒色の髪と黒い瞳。身長はシンヤより十センチくらい高い男性に。環がもう一度「お父さん」と呼ぶと、その男性はたじろいた。

「や、やあ、久しぶりだね……環」
 
「……ハァ、ほんと、久しぶりね……お母さんが亡くなってから、どれくらい年月が経っていると思っているの? ……ハァ、まあ、それは今はいいわ、それでお父さんは猫又神社で何をしていたの?」

 ここは、あやかしが誘拐されたとされる猫又神社。環は父親を疑いたくないけど、この場所にいるから疑わなくてはならない。

「何故ここに? ボ、ボクはその……今、あやかし横丁で探偵の様な仕事をしていてね……ある、あやかしから依頼を受けて猫又神社を見回っていたんだ」

「た、探偵?」

 環は探偵をしていると言った父綾に驚くしかなかった。何をどうなったら……治療師から探偵なのかが分からない。だけど、また会えて嬉しいとも思った、父親が居なくなってから環は桜おばーちゃん、キョク、リクには言わなかったけど……本音は寂しかったのだ。

「……環、ボクね。ミチコさん――母さんがね、亡くなってボクはミチコさんが居ない事に耐えれなかった……だから、彼女の香りがする狼治療院を出た……出て、途方もなく歩き辿り着いたのがここ、あやかし横丁だったんだ」

 ここで知り合った人と探偵のような事をして、今まで生きていたと父親は話した。環はこの話に呆れた……九年間の間、桜おばーちゃんの事も環の事も……狼治療院も、あの地に住むあやしのことも、この人はちっとも考えなかったんだ。

「そう、お父さんは結局……自分の事しか考えていなかったんだ、残された私と桜おばーちゃん、狼治療院のことも全て捨てていってしまったものね」

「違う、環……ボクは」

「言い訳はいらない。何を言っても今更にしかならないわ! ……シンヤ君、今日は帰ろう、また日を改めて来よう」

 環は黙って見守るシンヤの手を握った、その環の手が震えている事に、気付いたシンヤは『分かった』と頷く。それを見た環はシンヤの手を引き、父親がいる猫又神社から走って去った。

 会えて嬉しかったけど……父綾も、環も、大切な人を失い寂しいのは一緒だ。それなのに、あの人は小さな環の手を握らず、あの人は自分だけが寂しいからと姿を消した。

「……っ」
「環、止まれ」

「……シンヤ君?」

 涙目で真っ赤な環の手を今度はシンヤは引き、大神第三治療院まで環を連れて来て鍵を開け、中に入ってから優しく抱き締めた。

 大きく、温かな腕の中――ポロポロ環の瞳から涙が溢れるが、彼女はシンヤの腕の中で泣き叫ぶ事なく、声をころして泣いた。それは環が九年もの間、周りを心配させないと自分の部屋で、この泣き方で泣いてきたから……
 
 環の体に、この泣き方が身に染み付いているのだ。
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