魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。

にのまえ

文字の大きさ
46 / 108

42

しおりを挟む
 私の近くでぼそぼそと話す、男性と女性の声が聞こえる。

 ――その声は。

「この娘の精神支配ができないわ……私の魔法が効かないなんて、この娘は特殊なのね」

「はあ? 姉さんに特殊だって? 魔力無しの姉さんにそんなことありえない!」

(私が特殊?)

 そっと目覚めるとベッドに寝かされていた。そしてベッドを囲むように光る鉄格子が見える。体を起こすと近くで影が動いた。  

「姉さん起きた?」
「イアン……ここはどこ?」

「王城の姉さんの部屋だよ。カロール殿下が姉さんのために作ったんだ」

 淡いブルーに統一された部屋……家具、ベッド、調度品は金をあしらった高級品だ。

「ここが私の部屋? こんな部屋なんていらない、元の場所に返して!」

 イアンは首を振り。

「それは出来ないよ。姉さんのせいで真面目な父は酒に溺れて、可憐な母は毎日泣いてばかりで、働きもせず困っていたんだよね」

「……お父様とお母様が?」

「そうだよ。はぁー、ここまでくるのに道のりが長かったよ。姉さんが婚約者、屋敷に向かいに来た陛下の側近から逃げるから……国王陛下に反感を買い、姉さんを逃したといわれて、爵位を剥奪されたんだから」

 え?

「私は置いて逃げてなどいない。……私は舞踏会で、カロール殿下に婚約破棄されたわ」

「そうだね、殿下はそう舞踏会で言ったかもしれないけど。婚約の誓約書はまだ受理されていないんだ」

(受理されていない? 殿下はあのときすると言っていたのに、嘘をついたのね)

「姉さんのせいで位は落ちに落ちで男爵になった……それだけではなく辺境地にも送られたんだ。両親は毎日、泣くわ、酒だと騒ぐし、面倒なんて見ていたくない……」

 ――それらすべて、私のせいだと言うの?

 
 私の表情みて、イアンはクスクス不気味に笑った。

「そんなある日、僕にも転機が巡ってきた。辺境地近く魔石鉱山で働く、労働者達が行方不明になるという事件が起きたんだ」

「事件?」

 そういえば2ヶ月前……くらいに、新聞にそんな記事が載っていた。

「それが、イアンになんの関係があるの?」

「すごく、あるんだ。その鉱山から逃げ出した労働者達は口々に『動く女の右手』に襲われたと証言した。しまいには女の幽霊が出るといい、逃げだす者もでる始末」

 動く右手?
 幽霊?

「地主自身も魔石鉱山に出向き、行方不明になった。それで魔石鉱山は次の買い手が見つかるまで、封鎖される事となった。僕は父上の酒代でお金に困っていた……これはチャンスだと、誰もいない魔石鉱山に盗みに入ったんだ」

「盗みって、イアン」

「仕方がないでしょう、誰かのせいで金がないんだ。落ちている魔石を集めていたら、僕の前にもフワフワ浮く手が現れたんだ。その手は僕に近付き、僕の頬をさすりながら、『美味しそうな、可愛い男だこと』僕は恐怖で叫んださ、こんな風にね」

 イアンは狂ったように、笑いながら叫び声をあげた。

「「うわぁぁぁ! ぼ、僕は美味くなんかない!」」ってね。その手は笑って『あらっ、貴方。私の言っていることが分かるなんて、あなたはそうとうな魔力があるのね』その女は自分のことを魔女だと言い『ちょっと昔に悪さをして、体を切断されて、色々な場所に封印されたのよ』といったんだ」
 
「…………」
 
「女の封印も『長い年月で緩んだから壊してでてきたの。切断した奴らに復讐しようとして、戻る途中で力尽きちゃって』魔力を回復するために、鉱山の男をたくさん食べたんだって……でも、まだ足りない。なんでもするから、あなたの右手にして頂戴って。嘘みたいな本当の話」

 イアンも自分に起きたことなのに、まるで他人の話しているように聞こえた。



「だから姉さんは終わるまで、ここで大人しくしていてね」

 イアンは楽しそうに、近くの椅子を引っ張りすわった。

「終わるまで、大人しく?」

「そう、終わるまで。だって、いまから姉さんはカロール殿下と結婚式を挙げるんだから」

「カロール殿下と私が結婚? 無理よ。平民で、逃げだした私となんて国王陛下と王妃が許すはずないわ!」

 イアンは首をふる。

「そこは大丈夫。二人には支配魔法をかけてあるから、僕の操り人形になっているよ……ほんとうは姉さんにも"支配魔法"をかけようとしたけど。魔力が無いせいか魔法がかからないんだって」


 ――私に魔法がきかない?


 話の途中でコンコンと扉が叩かれた、イアンは返事を返すと、おたずれたメイドはイアンに伝えた。

「イアン様、カロール殿下の準備が整いました、ルーチェ様の準備はお済みでしょうか?」

「あぁ、準備はとっくに終わっている。直ぐに向かうと、カロール殿下に伝えてくれる」

「はい、かしこまりました」

 メイドとのやり取りの中で。イアンは"私の準備はすでに終わった"と言ったけど……私は、まだ汚れたワンピース姿だ。

「そんな顔しなくても、姉さんは心配いらないよ、式には僕がでるから……安心して」

「イアンが出る? おかしなこと言わないで、あなたは男でしょう?」 

「そうだね。まっ、そこで見てなよルーチェ姉さん……「【再現】」」

 再現と唱えた、椅子に座るイアンの足元に真っ黒な魔法陣が出現した。その魔法陣は黒い光を放ち、イアンの足元から女性の姿に変えていく。
 
 その変わっていく姿に、私は声を上げ、鉄格子を"ガシャン"と鳴らした。
 

「「いやぁああ!! や、やめて……やめてぇえええ、イアン!!」」
 

「やめないよ。魔法が使えると、こうも簡単に変われるんだよ」

 イアンは私をみて、顔を歪ませ笑う。
 あ、ああ――私の前に、あの日と同じ姿の私がいる。

「はははっ、おかしっ! なに泣いてんだよ、うれし泣き? じゃ、式が終わるまで、そこで大人しくしていてね」

「いや……イアン、いかないでぇ!」

 弟が部屋から出て行ってしまう、ガシャン、ガシャンと、力任せに鉄格子を揺らした。

「お願い。私はカロール殿下とは結婚したくない……彼だって、私なんかと結婚なんてしたくないはず」

 そう伝えると、イアンは扉の前で足を止めて振り向いた。

「心配はいらないよ、カロール殿下は姉さんだけを愛しているよ」

「…………そんなの、うそよ」

「うそなもんか。カロール殿下の気持ちは結婚式の後にわかるね。たっぷり愛してもらいなよ――そこで、姉さん」


「「いやっ! イアン待って!」」


 私の言葉を無視して"バタン"と音を立てて、扉は閉まった。


「……や、やだ、やだよ、私は先輩、シエルさんがいい!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

処理中です...