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第8話
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「ブランコ、楽しい?」
呼びかけられる。少し高くて、穏やかで安らかな声だった。声のした方へ振り向くと、そこには女性がいた。自分より、ずっと大人だというのはわかった。
「うん」
知らない人だけど、そう呼びかけられて素直に頷くと、その女性は微笑んで。
「そうなんだ、良かった」
そう言った。
*
昨日、何か変な事でもしたのだろうか。
また、変な夢を見てしまったのかもしれない。和也ははっきりと覚えていた。昨夜の夢は、またあの日の夢だった。けれど、自分の記憶の中に無い。
あの女性って一体誰なのか。改めて思い出してみる。
多分、あの女性は知り合いではない。そういえば、あの日声を掛けられたかもしれない……。それぐらい、曖昧な状態だった。その上、姿もはっきりと思い出せない。
「……それにしても」
何故、あの日の事をここ最近夢で見る様になったのだろうか。
和也は、壁に立掛けられた自分の時計の針を見ながら無心に考える。
「和也」
「な、なんだよ……」
あまりにも真面目な態度の龍に少したじろぐ。教室に入ってしばらくした後にやってきた龍は、真っ先に和也の所に来て最初に名前を呼んできた。
「……本当に、あの子とは何も無いんだよな?」
「……ないけど」
それを聞いた途端、一気にたじろいだのが馬鹿らしくなってしまった。
「ホントなんだな?!」
「ホントだって! だから顔を近づけるな!」
昨日、教室から戻ってきたときも似たような感じで迫られたのだが、その時はなんとかして誤魔化して終わったものの……今日も、となると結構疲れる。
「……ホントに無いんだな?」
「……無いって」
そう言うと、龍は「それなら良し!」と言って自分の席に戻っていった。かなり目立つ会話だったので、周囲の注目を浴びている。正直恥ずかしい……。
それと、龍に変な行動をさせないように考えて行動しないといけないと和也は思う。少しでも行動を間違えたら、非常にややこしい事態になるな……。
それからは何事もなく放課後、和也は図書室で龍のテストに向けた勉強を見ていた。
「うへ~……。今日はいつにも増してきつくないかぁ?」
「気のせいだろ」
実の所、少しだけ量を増やして且つ問題と解く難易度が高いもので埋めているので龍の感じている事は間違いではないが、あえて触れないでおいておく。
「それで、テストについてだけど」
「お、なんだなんだ? もしかして」
「このままだと一番危惧される赤点を取る可能性が非常に高い」
「マジかよ?!」
手元の解答と見比べると、龍の答えは確実に赤点を取るとしか考えられないような正解率だった。
「だから、今日はみっしりと勉強だな。話をする暇なんてない」
「うわぁぁ……」
龍はガックリと項垂れるが、スルーして和也はじっくりと問題の解説や解答法を龍にわかるように、覚えられるように何度も、?み砕いて教える。そのお陰で、その日の勉強の終わりには大分改善の兆しは見えた。
無事に勉強を見る事を終えた和也は龍が出てからしばらく経って図書室を出た。流石に今日は夜にはならずに帰れそうだった。
和也は勉強を終えた後は、自分で復習を重ねて龍に合わせた勉強を考えていた。流石に教えてくれ、と言われてそれを請け負った手前教える事に手を抜く事もできないし、自分の勉強を蔑ろにする事もできない。
と言う事でしばらくは図書室にて一人で問題と向き合ってから帰るのがいつも通りの事だった。
「あれ? 高野くん?」
図書室を出てすぐに声を掛けられた。
「あ、伊豆野さん?!」
そう、凛が声を掛けてきたのだ。
「高野くん、図書室で何をしていたの? 前程ではないにしても、結構遅い時間だけど……」
「あー……」
和也はどう説明しようか、少し悩んだ。凛がまだ校舎にいるのは前に話していた文化祭の準備であることは流石に察せられるが、そういえば凛には龍との勉強会の事を話した事はない。
別に、秘密ではないのだがどう説明しようか、少し悩ませてしまうのだった。
「まあ、勉強ってやつかな……?」
「高野くんって凄い勉強家なのね! ……あ、もしかしてあの日も?」
「あの日って……」
多分、あの日は初めて出会った日の事だろうなと考えた和也はそれに合わせた返答をする。
「……まあ、そんな感じ」
「そっか。高野くんは勉強結構頑張るタイプか~」
そう言われると、確かにそうなのかもしれない。
龍がわかりやすいけど、周囲の友人に自分程長く勉強をする様な人間ってそんないないのは経験上確かだった。
……まあ、そこまで長い事やって最上位の成績という訳ではないのだが。あくまで少し吸収率が悪い物覚えをどうにかするために、長めに勉強をしているという訳ではあるが。
「……あー、確かに。そうかも」
「うん、そうなんだって! でもそれって結構凄い事よ!」
彼女は、そう言ってくれた。
多分、凛からしたらそこまで特別な会話では無いのかもしれないけど、和也からしてみるとそういう風に言ってくれるのは、なんだか嬉しかった。
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