37 / 38
第37話
しおりを挟む*
凛の反応を見た和也は、そうだったのか……と思う。
「ど、どうして……和也くんがこれを」
「俺……凛のお姉さんと会った事があるんだ」
和也はそう答えた。
「結構前……一人、公園で遊んでいた時だったかな」
そうして、和也は凛の姉と出会った時の話を少しずつしていく。大事な人に、渡して欲しいと言われて渡されたその封筒は、彼女に姉からの贈り物だとわかる様にわざわざパンダ柄にしていたようだった。
「そう、なんだ……」
凛は混乱している様子なのか少し、声に覇気がない。
和也としても昔、凛の姉と出会った事があるという事実は衝撃的な事だった。少年の言っていた人はもしかして、凛の姉の事だったのだろうか。
「その封筒、中に何か入っていると思う。凛に当てたものだと思うから、見てみた方が良いよ」
「……それも、そうだね」
凛は封筒を開ける。この封筒、折り紙で折ったものなのは凛が準備の時に見せてくれた同じものからわかる。
この会話は、人がいる所ではできなかったなと和也は内心思う。
そして、凛は封筒から何かを取り出した。それは、折りたたまれていて広げると四角形の紙になった。
「何か、書いてる……」
凛のその言葉を聞いた和也は手紙だと理解した。
「読んでみよう。今、ここには俺たちしかいないから大丈夫」
「そ、そうだね……えっと……」
そうして、凛は手紙を読み上げ始めた。
凛へ
最初に、私はあなたに謝らなければいけない事があると思います。
この手紙を読んでいる時、あなたの目の前に私がいないという事です。
これだけは、私にもわかっていました。
けれど、だからこそ言わせてほしい。私がいなくても、前向きに生きてほしい。
これからも楽しい事や辛い事がたくさんあるけれど、それでも前向きに生きていてください。だって、私にとってあなたは大事な、大事な妹だもの!
だから、笑顔で生きていてね。
静 より
「……お姉ちゃん、ありがとう」
和也は手紙を強く抱きしめる様に握る彼女を見る。凛は涙を流していた。
きっと、この手紙が贈られるまでに長い時間があった。多分、お姉さんはいつかこの手紙を渡したかったのかもしれない。自分が、この世からいなくなった後も凛に強く生きていて欲しいという願いがあったのだろう。
「本当に……っ、ありがとう……っ!」
この手紙に書かれた想いを凛は、きっと汲んでいる。
本当に大事な妹のためだけに宛てた手紙だったというのが和也にも伝わった。
*
しばらく落ち着いてから、和也と凛はまた文化祭巡りを再開していた。
あの手紙を読んで涙を流していた凛は、すっかりと笑顔で文化祭を楽しんでいる様子だったからなんだか不思議な気分だ。同じ日に見せる表情とは思えなかった。
けれど、あの手紙を読んだからこそこうして笑顔を見せているのだという事も理解できる。
「お~い和也……と凛ちゃん! どうだ~! 楽しいか~!」
「あ、城築くん! もちろん、楽しいで~す!」
たまたま行ったグラウンドで遠くから龍に大声で呼びかけられる。凛は、その呼びかけに答えて応える。
和也は正直、恥ずかしかったのはここだけの話にしておいて欲しい。
グラウンドでは基本は食べ物の屋台がメインで出店されている。食べ物を作って販売しているのはこの高校の学生たち。それぞれのクラスで担当を決めてこうして出店されているという形だ。
「和也くん」
「ん、何?」
凛が改めて聞いてきたから、なんだと思った。
「城築くんに一緒に回らないか、聞いてみても良いかな?」
「あ~……」
それを聞いた時、和也は何とも言えない気持ちになった。多分、あいつはこの状況から考えると断ってくるだろうな……という確信に近い直感があったからだ。
「まあ、聞いてみても良いんじゃないかな……」
「そっか。それじゃあ聞いてみるね」
そう言って、凛は龍の方へと行ってしまった。
そして、凛が戻ってきた時には残念そうに「断られちゃった。残念!」という報告をしてきたのだった。こちらとしても、複雑な気持ちだった……。
文化祭ももうすぐ終わり。
ここの高校は、文化祭は夕方頃に終わる。和也たちは最後に凛が見たい、と話していた体育館のメインステージである演劇を見に行っていた。
演劇の内容はおとぎ話を題材としたもので、非常に本格的な内容で演劇をしようという意気込みが伝わってきた。あくまで高校の文化祭の演劇なので、それこそプロの舞台とかと比べるのは酷ではあるが、それでも熱意だけは間違いなく負けていないとは思いたくなる程のものだった。
凛は演劇に夢中になっている様子でずっと目を離さずステージを見ていた。
和也はその様子を見て、なんだか可笑しくなって少しニッコリとしていた。流石に、凛には気づかれていないだろう。
演劇はもうすぐ終盤に入ってきた。最後の方の台詞で和也は少し引っ掛かるものがあった。
『運命は、自分の力で変えられると信じている』
和也はその台詞を聞いた時、あの記憶の中の女性……凛の姉の事をまた思い出す。
きっと記憶の中の彼女は、これを信じて行動をしていたのだと。そして、それは自分の力で変えていったのだと和也は実感した。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる