さっちゃんのメモリーズ!

益木 永

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青春というテーマについて 『第1話』

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* 青春というテーマについて

「ゆりなあ、青春って何だと思う?」

 そうして、私こと三崎颯子がそういう事を言い出した時、目の前にいる我が親友である優里奈がは? 何を言っているんだこいつ? と言わんばかりとする表情になるまでには一秒もかからなかった。

「……また、唐突に何か変な事を言い出したわね」
「またって言うな! 唐突でもない! それなりの理由がある!」

 全く、抗議せざる負えない様な風評を叩きつけてくれる。私としては、それなりの理由があってこういう話を持ち掛けてきたのだと、ホント失礼な。

「それで、どんな理由なの?」
「そう。私たちは今、高校生でしょ?」

 そうだけど、とあっさりとした返事をよこしてくる親友を前に私は強く力説する。

「高校生は青春の時代、というイメージがな~んとなく蔓延してる。それはわかるでしょ?!」
「まあ私としてもそんなイメージがあるけど」
「それじゃあ“青春”というテーマは一体どういう形から定義していくか!! 私はこれについて疑問を抱いたわけよ!」

 優里奈はジト目でこちらを睨む。
 フフフ……私としてはこんな視線には慣れたものなんだよちっとも痛くない。

「というわけで! ゆりなあは青春についてどう思う?!」
「こっちの反応はスルーかよ……」


 強引に話を運ばせようとしたが、優里奈は強固だった。
 なんだよ~、ちゃんと話に乗ってくれてもいいじゃんかよ~、と内心毒づきながらも私はこの話を強引に持っていくチャンスを目ざとく視界の端から察知する。
 こ、この足音は……!!

「丁度いい所に康太!!」
「わっ何々?!」

 私がその足音を察知した瞬間、私が教室の扉の先を目掛けて飛び出し掴んだ腕は……そう、康太のものだった。この男子高校生、同級生なのだが何だか反応がとてもよろしい奴。こいつをダシにしてゆりなあに『青春』について詳しく話を聞き出しにいくのだグヘヘ……!

「相変わらず良いパーマだね! 是非、私たちの話に参加していただきたいんですけどどう?!」
「俺のはわざとこういうパーマにしてるわけじゃないししかもどうって!? 俺トイレ行く途中だったんだけど」
「それなら私が入り口前まで付き合ってあげるから~、さあさあ行こうぜ!」

 こんな良い話のカモを逃す訳にはいかない。

「あっ、ゆりなあはまだここで食べてくでしょ? まさか爆速で食べたりしないよね?」
「ふふっ……どうでしょう?」

 あ、これはすぐに逃げようとしてくるな。どうしよ、どっちかを逃す事を天秤に掛けられてしまっている。
 ……よし! 康太をしっかり捕まえた後にゆりなあを捕まえる! これで行ける!



 結論、行けた。

「な、何故こんなにもあっさり……」

 私に腕をがっつり掴まれて連行されているゆりなあは完全にへとへとな様子だった。ふふふっ……仮にも親友なゆりなあの行動パターンを私は把握している。だから、ゆりなあがどこに逃げるかなんてすぐにわかってしまう!!

「ふっふ~ん何ででしょ~?」

 もちろん? 私がそんな事を素直に明かしちゃう様なアホではないのでだまっておくんだけど。
 こんな短期間なら康太はちゃんと逃げない。しっかり見張りもクラスメイトにしてもらったし(何だかんだ付き合いの良い奴で助かる)、これでしっかり『青春』というテーマについての話し合いが無事に始まるってもの。
 廊下をとぼとぼと歩いている私は、ゆりなあの腕を掴んでいる状態ではあるものの爆上がりのテンションを抑えられそうにない! もちろん、ここであっさり離したらゆりなあは秒速で逃げ出すのでもちろん離さない程度にテンションを上げた。
 よし、これでやっとスタートができる!

「という訳で今回のテーマは青春!」
「……青春?」

 康太の顔は疑問符がたくさん付いていると言わんばかりのキョトン顔だ。ゆりなあは目を細めて「気にしない方が良いわ……」と言った。
 何が気にしないだ。気にしてください。

「そう、さっきゆりなあと話してたわけだけど」
「高校生が青春のイメージがあるうんたらなんたらでしょ」

 こら、ゆりなあ割り込むな。

「でも正しい! けど、もっと深く言うなら学生時代全般は青春、と言ってもいいでしょう?! けどここで重要なのは、小学生時代は青春に当たるのかについてよ!」
「あー……小学生が青春って枠組みに入るイメージってあまりない気がするよね」
「そう! 青春と言えば、主に高校生なのよ!」

 これが一番、一番気になる部分なのだ!
 つまり青春とは何か? そう、そこから色々と派生が広がってくる。

「要は!! 何故高校生が青春で、青春が高校生なのか!!」

 今、私の目の前にはゆりなあの引き気味の顔だった。

「……い、勢いで誤魔化そうとしてもそうはいかないわよ!」

 突然ゆりなあが私に対して強く出てきた。一体どんな反論があるって言うんだゆりなあ!

「ゆりなあ! あなたは何を言いたいって言うのよ!」
「もちろんこんな意味のわからない事を話している事に対しての異論よ!」

 あ、やはりそう来たか。
 これは不味い。このままだとゆりなあが強制離脱してしまう。一度捕らえたとはいえ二度目は難しいかもしれない。

「ふふふっ……それなら、この渾身の重要ワードを聞いてもそういられるかな?」
「……渾身ってもしかして造語?」

 あ、そういえば康太いたんだった。というか、

「だまらっしゃい!!」

 康太の余計な一言のせいでゆりなあが更に引き気味な表情を強くしちゃっている……! けど、ここで引いては女が廃る!

「さあゆりなあ、これは大事な事なの! 青春というのはつまーり恋愛、ゆりなあ視点からすれば男の気配があるのよ!!」
「な、急に色恋沙汰の話を?!」

 ふふっ、ゆりなあが驚愕している。
 よしよーし。色々後押ししてみよう。

「その色恋沙汰イコール青春という概念についてよく考えてみなさいよ! あなたの青春、アオハルは恋愛だと思う?!」
「思わない!! そんなイメージだけではない!!」

 よっしゃあゆりなあが引っ掛かってきた引っ掛かってきたあ!

「じゃあいいじゃないか! 青春というテーマについての議論!」
「良いわね……! 青春というテーマについての議論!」
「な、なんだこれ……」

 康太の付いて行けない、という言わんばかりの表情を横目に私たちは見事に目的が合致してきた感動を呼んでいるという。
 いやあ、ゆりなあとはこういうたまーに、魂のぶつかり合いで意気投合していったんだなあというのを良く感じます、はい。

「というわけで、議論さいかーい!!」

 さあ、これで本当に『青春』について議論が行えるというものだ!

「かかってらっしゃい! 青春!!」
「いや、何戦っているの?」


「……つまり、ここの学食は美味しいしお弁当も美味しいというのは一石二鳥な訳よ高校というものは」

 本当にそうなのだ。
 ここの学食上手い。もちろん、ママが作るお弁当も上手い。
 私はお弁当食べながら学食も食べるという腹いっぱいの昼食を過ごしているのはまさしく高校のお陰……!

「つまり、ご飯が美味しく食べられるのは良い事なのよ!!」

 私の熱弁、決まる……!

「……」

 しかし、二人の視線が何だか厳しい。厳しいぞ? あ、ちょっと痛くなってきたかも。

「颯子……あんた、一体どんな話をしていたと思う?」
「えっ、ご飯が美味しい話」
「青春というテーマについての話でしょ?」

 あ、そうだったっけ。やばりゆりなあの厳しい尋問のせいでこれ青春について語ろうみたいな事をしていたのを思い出してしまった。

「……青春、どこいった」
「あ……あはは~……」

 か、かくなる上は。

「私ちょっと用事思い出したから行くわね~!」
「ああぁぁ! ちょっと待ちなさいよ! せめて用事なら片づけて行けえええぇ!」

 この場から逃げ出す。これこそ、私の流儀。



 これは私、三崎颯子がこうして日常を過ごす様子を時々描いたものである。

 ……え、私以外から見た日常の話の予定もあるんですか?

 しかも番外編とかも? え?
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