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〈第2章 夏、悩んだ日々〉
第10話
しおりを挟む「えっと……まず、作業は何をするんですか?」
「まずは、次の文芸冊子に掲載する小説や論文の中身をチェックをする。この作業は基準がわかっていたら比較的簡単ではあるのだが、君はどのような基準で決められているか知らないだろう?」
聞かれて僕は頷く。
「まあ、そんなところなので一応ホワイトボードに基準を書いておく。ただ、どうしても主観に寄るものが大きいから自分では判断できない所があったら私に確認のお願いをすること」
「はい」
そこから作業は始まった。初めての事なので、ちょっとしたミスや金住先輩の確認等が入ったりしたりしたものの、先輩のお陰で作業が大幅に遅れる事はなく目標とされていた今日のノルマの作業は達成することができた。
どうやら、金住先輩は管理や整理の作業もかなり得意な分野みたいで結構なハイスピードで作業を終わらせていった。彼女は正直変な性格ではあるのだけど、その分基本スペックが優秀みたいだ。
一方、僕は先ほども話した通りの細かいミスを起こして金住先輩の作業を中断させたりしてしまった。正直足を引っ張った感は否めなかった。先輩は気にする様子は一つもなかったが、それが更に申し訳なさを肥大化させた。
「さて、この辺りで今日の活動は終わりという所かな」
気が付くと夕日が部室の中をオレンジに染める時間になっていた。母野先輩は僕らが作業をしている途中で「帰ります」と言って部室を出て行ったので、今この場にいるのは僕と金住先輩だけだ。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。この時間まで付き合ってくれたお礼にジュースでも買ってこようか?」
それは大丈夫です、と念押しして僕は自分の通学カバンを持ち出す。部室の机の下に皆、自分の通学カバンを置いているので僕もそこに通学カバンを置いていたのだ。
すると、帰り際に金住先輩が一言。
「それじゃあ、今日は一つお願いがあるんだけどね」
「はい?」
また急なお願いだった。声が反り返る。
「この間の課題、もしやるというのなら今から『物語の意味』について書いた文書を作ってほしい」
「……え?」
そう言うしか他なかった。金住先輩はいつも急に言い出してくる。
「そんな何故急に」
「ああ。一応、やる意志があるか見ておきたいかと思ってね。ただ、これは強制ではない。そこは安心してほしい」
「いやいや……」
強制じゃないにしろいくら何でも急な話だ。安心以前に違う反応が出てくる様なレベルで。
「まあ、そんな訳で書いてみて。使うのはPCでも紙に手書きでも何でもいい」
唐突な形で僕は小さな課題を抱える事になった。強制ではないとは言っていたが、全くやらなくても彼女に申し訳ないと思ったので、結局はやるしか選択がないのでは……? とは考えた。いや、そもそもメインとなる課題に対してそれをやる意志があるか確認したいから金住先輩が必須ではないけどやってほしいと言ってきただけだ。別にやらなくてもいい。
そのどちらでもいいのだと彼女は言ったのだ。
それならどちらを選べばいいのか? それが逆に悩ませるものだった。
家に帰った僕は一人、机で真っ白な原稿用紙と睨めっこをしていた。これは、今日言われた小課題の内容を書くために用意したものだ。
「どうしようかな……」
僕はまず書き方から悩んでいた。この手の文書が一体どういう作りになっているのかイマイチよくわかっていなかったからだ。
普通に小説書くみたいにやるのか、形式みたいなものがあってそれに倣って書いていくのか。
僕は意外と知っていそうで知らない事があるというのが、この文書作りでわかったような気がしていた。もしかして、金住先輩はこの事を見越して今日、いきなりこの課題を言ったのかもしれない。
僕には全くわからない事だけど。
そして、最終的に大多数の小説とかで見る様な文章の書き方にしてみる事にしたけれど、そこでまた悩ませる事が起きた。
一体『物語の意味』をどう書けばいいのだろうか。僕はそこから頭を悩ませる事になる。
8
「やあ、今日もしっかりと来てくれたね」
翌日、部室に来てそうそう金住先輩が声をかけてきた。部室には彼女だけがいた。
「今日も、って折角部活入ったのに放り出すわけないじゃないですか……」
それもそうか、と金住先輩は答える。それならいきなりそんな事言わないで欲しい。部活的には悪い冗談とも取れるものなのだから。
「それで、昨日話した例の話はどうしたのかな?」
「え? もう言うんですか?」
「やるかどうかは一応確認しておかないと。自分で言っておいて放置はあり得ないと思うタイプだからね」
「はあ……」
相変わらず反応に困る事を言ってくる。本当に不思議な人だと思う。
「それで、話は戻すけれどどうしたんだい?」
「……やってみました」
ふむ、と金住先輩は頷く。僕は続きを話していく。
「けれど、いざ書こうと思っても何も思い浮かばなくて結局書けなかったんです」
あの後、しばらくは悩んで何かを書こうとしたものの結局何も書くことができなかった。実の所、彼女が何も言わなかったとしても僕はこの事を伝えていただろう。
「……それは、何でだと思う?」
「……それは」
なんとなく思い当たるものはあるが、言葉として明確な形にはならなかった。一体どう、答えたらいい?
金住先輩は僕の様子を見て、
「その辺りは、時間を掛けて悩んでいけばいい。今はまだ大丈夫だから」
と、励ましに近い言葉を投げかける。それが、とても恥ずかしくて悔しかったと僕は思った。
きっと、僕は応えられなかったのだという事だ。
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※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
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