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〈第2章 夏、悩んだ日々〉
第12話
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その後、特に何事もなく時間は進んでいった。終わり際の片づけの際、金住先輩から「時間を掛けてでもいいからやるなら昨日話した課題をやってみるように」と言われたぐらいだった。
そういう理由で今、僕は部屋で一人その課題とまた向き合っていた。昨日の夜と同じく、原稿用紙の紙を机の上に置いてそのすぐ隣にはシャープペンシルが転がっていた。
始めてから結構経っていると思う。
僕は未だに二行以上の文字を埋める事が出来ずにいる。
向き合おうとする姿勢は確かにある、けれど同時にどういう答えを出せばいいのか迷っている自分もいた。
まずは、どこから手を付けてみればいいのか……。
こういう時、スラスラと書ける人は本当に羨ましいと思う。そのような芸当ができる人の頭の中は一体どうなっているのだろうか。もしかしたら、前準備をしっかりしているのかもしれないし、前準備なしでスラスラと書いているのかもしれない。
でも、どちらにしろ僕はその芸当ができるのが凄いのだと思った。
「準備……」
そうだ、まずは準備を行ってみるというのはどうだろう。
僕は一体『物語の意味』について、どういう答えを出すのか。しっかりと文章を書くために別の筋書きみたいなものを書いてみればいいのではないか。
ただ、筋書きを書いたところでどのようなことを書くかを考えなければいけないのは事実なのだが、逆にいえば筋書きさえ書ければなんとか最低限の進みはできるはずだ。
そう考え、筋書きを書き進める。
そうして、なんとか形になったものの。
「……ふむ」
「ど、どうでしょうか?」
翌日、金住先輩に見せた僕は緊張と不安の中、彼女がこの拙い論文を読み終わるのを待っていた。そして、読み終わるや否やの第一声がこれだった。僕は思わず答えを聞き出そうとする。
「ダメだね」
「そ、そうですか……」
きっぱりと断言されてしまった。はっきりと言われた事は地味にダメージがあった。
「ショックなのはわかるけれど、正直これで私はOKという訳にはいかない。一つあるとしたら」
「したら?」
「君はしっかりとこの小課題に向き合ってくれたという姿勢だ。それだけでも大きいと私は思う」
そこで、沈黙が発生する。
「……? どうしたんだい?」
「え……いや、その」
僕は純粋に驚いた。あのダメ出しから急に褒められる展開になるとは思っていなかったからだ。
「……一応、言っておくけれど結果がどれだけダメだったとしても、やるという姿勢を見せただけで充分評価できると私は考えている」
「それは……?」
僕は疑問を口にする。そして、その答えはすぐに返ってきた。
「何もやらなかったら、何も変わらないから」
金住先輩は、そう答えた。
「おーい。薫ー聞こえてるかー」
「……いずみ、どうしたの」
一人でこの間の事を考えている最中、隣の席にいるいずみは何の空気も読まずに僕へ話しかけてきた。考え事しているのだから放っておいてほしいと言っても、彼は心配して声を掛けてしまうタイプだとこの二か月間で僕は理解していたので観念する。
「いやー、何だか凄い上の空でね。何かあったのか?」
「まあ、そんなところ……」
ふ~ん、といずみは喉を鳴らす。けれど、こちらに視線を外す事なくじっくりと見続けている。……これは、もしかして何か探られているのだろうか?
「あの……何故じっくりと」
「……あ、ごめん何だか気になってさ」
正直に答えてくる。
「やっぱ悩み事でしょ?」
「当たり……だけど」
けど、今は悩みを言える気持ちではなかった。だから、心配して声を掛けてくれるいずみには悪いけれど。
「今は、ちょっと話せないから無理に聞かないでほしい」
いずみは、特に嫌な顔をせず「いいよ」とだけ答えた。彼はなんだかんだで、根はとてもまっすぐで良識なのだ。
「神代くん」
その日の部活が終わり、早速帰宅しようとした矢先に母野先輩が声を掛けてきた。
「は、はい」
僕は急な出来事に少したじろいたものの、母野先輩はそれを気にする事なく話しかけてくる。
「昨日、何かあったでしょ?」
「え」
何故、昨日に限定されているのだろう。
「……もしかして、何故昨日なのかって思った?」
「え、ええ……はい」
ふふっ、と微笑みながら母野先輩は答える。
「昨日からちょっと神代くん、ちょっと上の空みたいだったからね。多分部活で何かトラブルでは無いにしろ、悩む様な事があったのかなって」
僕はそれを聞かれてどうしようか考える。正直に話すことも確かに大事ではあるけれど、不用意に話すのもどうかと考える。
母野先輩は僕から聞いたことを言いふらす様なタイプではない……というより、人から聞いた相談は他人には絶対言わないというタイプである。それは、僕の話を聞いたのにもかかわらず、金住先輩が一応の秘密という形にしている『物語の意味を知るための課題』をあの日以来彼女は自分から話している所なんて見たことがない。
「えっ……と」
そうして、僕は選んだ。
「僕が勝手に悩んでいるだけなので、わざわざ心配していただかなくても大丈夫です」
母野先輩は「そっか」とだけ呟いて続いてこんな事を伝えた。
「もし、気が変わったら相談、してきてね。そう言う時こそ心配だから」
その後、特に何事もなく時間は進んでいった。終わり際の片づけの際、金住先輩から「時間を掛けてでもいいからやるなら昨日話した課題をやってみるように」と言われたぐらいだった。
そういう理由で今、僕は部屋で一人その課題とまた向き合っていた。昨日の夜と同じく、原稿用紙の紙を机の上に置いてそのすぐ隣にはシャープペンシルが転がっていた。
始めてから結構経っていると思う。
僕は未だに二行以上の文字を埋める事が出来ずにいる。
向き合おうとする姿勢は確かにある、けれど同時にどういう答えを出せばいいのか迷っている自分もいた。
まずは、どこから手を付けてみればいいのか……。
こういう時、スラスラと書ける人は本当に羨ましいと思う。そのような芸当ができる人の頭の中は一体どうなっているのだろうか。もしかしたら、前準備をしっかりしているのかもしれないし、前準備なしでスラスラと書いているのかもしれない。
でも、どちらにしろ僕はその芸当ができるのが凄いのだと思った。
「準備……」
そうだ、まずは準備を行ってみるというのはどうだろう。
僕は一体『物語の意味』について、どういう答えを出すのか。しっかりと文章を書くために別の筋書きみたいなものを書いてみればいいのではないか。
ただ、筋書きを書いたところでどのようなことを書くかを考えなければいけないのは事実なのだが、逆にいえば筋書きさえ書ければなんとか最低限の進みはできるはずだ。
そう考え、筋書きを書き進める。
そうして、なんとか形になったものの。
「……ふむ」
「ど、どうでしょうか?」
翌日、金住先輩に見せた僕は緊張と不安の中、彼女がこの拙い論文を読み終わるのを待っていた。そして、読み終わるや否やの第一声がこれだった。僕は思わず答えを聞き出そうとする。
「ダメだね」
「そ、そうですか……」
きっぱりと断言されてしまった。はっきりと言われた事は地味にダメージがあった。
「ショックなのはわかるけれど、正直これで私はOKという訳にはいかない。一つあるとしたら」
「したら?」
「君はしっかりとこの小課題に向き合ってくれたという姿勢だ。それだけでも大きいと私は思う」
そこで、沈黙が発生する。
「……? どうしたんだい?」
「え……いや、その」
僕は純粋に驚いた。あのダメ出しから急に褒められる展開になるとは思っていなかったからだ。
「……一応、言っておくけれど結果がどれだけダメだったとしても、やるという姿勢を見せただけで充分評価できると私は考えている」
「それは……?」
僕は疑問を口にする。そして、その答えはすぐに返ってきた。
「何もやらなかったら、何も変わらないから」
金住先輩は、そう答えた。
「おーい。薫ー聞こえてるかー」
「……いずみ、どうしたの」
一人でこの間の事を考えている最中、隣の席にいるいずみは何の空気も読まずに僕へ話しかけてきた。考え事しているのだから放っておいてほしいと言っても、彼は心配して声を掛けてしまうタイプだとこの二か月間で僕は理解していたので観念する。
「いやー、何だか凄い上の空でね。何かあったのか?」
「まあ、そんなところ……」
ふ~ん、といずみは喉を鳴らす。けれど、こちらに視線を外す事なくじっくりと見続けている。……これは、もしかして何か探られているのだろうか?
「あの……何故じっくりと」
「……あ、ごめん何だか気になってさ」
正直に答えてくる。
「やっぱ悩み事でしょ?」
「当たり……だけど」
けど、今は悩みを言える気持ちではなかった。だから、心配して声を掛けてくれるいずみには悪いけれど。
「今は、ちょっと話せないから無理に聞かないでほしい」
いずみは、特に嫌な顔をせず「いいよ」とだけ答えた。彼はなんだかんだで、根はとてもまっすぐで良識なのだ。
「神代くん」
その日の部活が終わり、早速帰宅しようとした矢先に母野先輩が声を掛けてきた。
「は、はい」
僕は急な出来事に少したじろいたものの、母野先輩はそれを気にする事なく話しかけてくる。
「昨日、何かあったでしょ?」
「え」
何故、昨日に限定されているのだろう。
「……もしかして、何故昨日なのかって思った?」
「え、ええ……はい」
ふふっ、と微笑みながら母野先輩は答える。
「昨日からちょっと神代くん、ちょっと上の空みたいだったからね。多分部活で何かトラブルでは無いにしろ、悩む様な事があったのかなって」
僕はそれを聞かれてどうしようか考える。正直に話すことも確かに大事ではあるけれど、不用意に話すのもどうかと考える。
母野先輩は僕から聞いたことを言いふらす様なタイプではない……というより、人から聞いた相談は他人には絶対言わないというタイプである。それは、僕の話を聞いたのにもかかわらず、金住先輩が一応の秘密という形にしている『物語の意味を知るための課題』をあの日以来彼女は自分から話している所なんて見たことがない。
「えっ……と」
そうして、僕は選んだ。
「僕が勝手に悩んでいるだけなので、わざわざ心配していただかなくても大丈夫です」
母野先輩は「そっか」とだけ呟いて続いてこんな事を伝えた。
「もし、気が変わったら相談、してきてね。そう言う時こそ心配だから」
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