この物語の意味を知るとき

益木 永

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〈第3章 秋、変わる色〉

第27話

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「これが、彼女が一時期話題になってこの高校でちょっとした有名人になった出来事だったかな……?」

 北村先生は語り終えるとこう話した。

「あのスピーチがテレビで流されて、ちょっとした話題になった。それは確かなんだ」

 そうして、彼女はこの高校でちょっとした有名人となったそのきっかけとなるスピーチができるまでの経緯を聞いた。それを聞いて、僕は思ったのだ。

 だから、あの日僕に『文芸部に興味はないかい?』と声を掛けたのか、と。



「君がいつの間にかいなくなっていてビックリしたよ」

 部室に戻ると金住先輩がそんな風に出迎える。どうやら、僕が北村先生に止められて話を聞いていたことには気づいていなかったようだ。

「ちょっと北村先生に声を掛けられましてね……」
「へえ……そうなんだ。一体どんな内容だったんだい?」

 僕はそう聞かれて戸惑う。金住先輩の事に関する話なので、本人が知ったらやはり恥ずかしいとかの気持ちになってしまうかもしれない。

 なので僕は一応、

「それは秘密にしてください、って感じだったのでちょっと……」

 そう言って誤魔化した。金住先輩は「そうか」とだけ言ってそれ以上追及することは無かった。

 それからしばらくの間、文芸部は準備のための活動を続けていった。

 そして、遂に文化祭の当日直前になった。

  18

「さて、皆集まってくれてありがとう」

 金住先輩の第一声から始まった文化祭開催直前日のミーティング。今回のミーティングは事前確認がメインだった。と言っても直前なのでこれぐらいしかやれることがないのだけど。

 いろいろ準備を重ねてきて、遂に文化祭の開催が直前にまで迫ってきた。

 ここまでの期間で色々あったとは思うけど、今振り返ってみるとどれも良かったと思える。何が良かったか、なんて言われてもどう良かったか表現することは出来ないけれど、それでも良かったものは良かったんだ。

「……この辺りは、まあ大丈夫だとは思うのだけど」
「おっと、ここはまだ未修正だな。まあこの範疇ならすぐに直せるけどな」

 ミーティングを終えた後、母野先輩たちは冊子のデータの最終チェックで忙しい。この最終チェックが終わったら、無事に印刷する事になる。

 だからなのか、集中してデータと向き合っている様子だった。

 一方の僕は――

「カオル、これでどうかな?」
「いいと思います」

 金住先輩と共に飾り等の配置の最終調整をしていた。

 この組み合わせは金住先輩が言い出した事で決まった事なのだ。まあ、僕自身は冊子の作成にはあまり関わっておらず、補佐的な立場であったのであまり関われる事は少ないのだが。

「所で」

 すると、金住先輩はこんな事を言い出した。

「北村先生から、私のスピーチの話を聞いたんじゃないのかい?」
「え!?」

 不意打ちで驚いた。金住先輩がいきなり核心に近い事を単刀直入に聞き出してきたからだ。

「……その反応だとやっぱり聞いたみたいだね」
「え、まあ、はい……」

 しどろもどろに返答するしかなかった。一体どう答えればいいのかが全くわからない。

「……まあ、いつかは君もこの話聞くかとは思っていたけどね。この高校にいる以上は」
「は、はい……そうですね」
「まあ、その場所に居た人から生の体験を聞けたのは大きな違いだとは思う」

 それ、自分が言っちゃうのか。

 少しばかり変に思ってしまった彼女の言葉。それを発信した当人は何も気にすることなく続けて話す。

「まあ、あの先生が言う通り私は北村先生の言葉がきっかけだった。大会で自分の言葉で何かを言うのはちょっとばかしアレな気もあったけど、あの場にいる以上、私がこの物語を通して言いたかった事はどうしても譲れなかった」

 それは、金住先輩がずっと考えていた事、悩み。

「実のところ、ビブリオ大会自体は参加するかどうか悩んでいたのだけど、参加しようと決めたのはまさに北村先生のあの言葉からだったのは間違いないんだ」

 そうして、金住先輩が影響を受けたあの言葉。

「北村先生は一年生の時からずっと私の事を見守っていてくれた先生だったからね。どうしても、自分が輝いている場所を見てほしかった」

 これが、あの日のスピーチに全て詰まっていたのだろう。

「正直言って私の動機には不純な部分が混じっている。というか人によっては不純でしかないものかもしれない」
「……僕は、そう思わないです」

 だから、僕はこう思ったんだから。

「金住先輩は自分の力でそう言うスピーチをしたんじゃないんですか? 自分の考え、思いを伝えたかったから。それが不純だと、僕は思いません」

 金住先輩は一瞬たじろくと、咳払いをした。

「全く……そんな純粋に恥ずかしい言葉で人を褒めるなんて、カオルもやるね」
「……え?」

 そうやって笑顔を返してくれた。そして、金住先輩から言われた事で僕は割と他人から見たら恥ずかしくなる……微笑ましくなる様な眩しすぎる言葉を先輩相手に言ってのけてしまった事で顔が一気に真っ赤になってしまったのは、言うまでもなくだ。

 それからの作業は順調に進んでいって、遂に文化祭の準備は完全終了となった。

「じゃ、また明日な! 成果を楽しみにしてくれ!」

 行村先輩は僕にそう言い残すと、先に部室を出て行ってしまった。

「私も帰るわね。君の頑張り、とても良かったわ」

 母野先輩は帰り際に、僕を褒めてそのまま行ってしまった。

 二人とも、僕の事を結構優しい目で見てくれていた。急に僕が手伝うと言い出しても、行村先輩は嫌な顔をせずに受け入れてくれたし、母野先輩は僕の相談に乗ってくれたりもしてくれた。

 二人とも、とても良い先輩だなって思う。

「さあ、君も帰ったらどうだい?」
「そうですね……ん?」

 ズボンのポケットから振動音が鳴る。僕はポケットからその振動が鳴ったものを取り出す。それはスマートフォンで、電源を付けるとそこにはメッセージアプリからの通知が

『今日は一緒に帰ろ~!』

 いずみからこのようなメッセージが来ていた。とてもタイミングがいいと思った。

「いずみからメッセージ来たのでもう行きますね」
「おっと、いずみっていうのは君の友達だね? 良いよ、友達を待たせない様に早く行きなさい」

 そう言って、金住先輩は僕を出迎えていった。

 





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