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キャリーケースと線香

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母親が死んだ。

咳をしてたから肺炎かもしれない。まあ、寿命だよな。俺が58歳だから‥‥86歳ぐらいか?

まあいい。
それより、遺体の処理をしないとな。

母親が俺の年金を払ってくれていたから年金は貰えるけど‥‥‥確か、65歳からだったよな?じゃあ、母親の年金ないと生活できないじゃねーか。

母親が死んだの分かったら、年金は止められるよな。母親はずっと正社員で働いてたから、年金が結構でかい。

これからは一人で使えるし、パチンコにもっと行けるな。とにかく、遺体をなんとかしないとまずい。

「母さんだって国に年金取られるより、俺に使って欲しいよな?」

死んだ母親に話しかけたが返事はない。良い母親だった。父親と離婚してからも看護師として働いて養ってくれた。親子の仲も良かった。だから、俺が母親の年金で食っていく事を喜んでくれるさ。

「大体、生活保護を出さない市役所が悪いんだよ!何がまだ働けるだ。働けねえから申請に行ったのによ‥無駄足だった。」

しかし、どこに遺体を隠す?

ここは借家出しな。床下に埋めたとして突然立ち退きとかになると不味いよな。やっぱりすぐに運び出せるようにして、手近に置いとくのが安心だよな。

そういや、知り合いがでかいキャリーケースの処理に困ってたな。あれをもらってくるか。で、密閉して母親をキャリーケースに入れる。

「決まり。キャリーケースを貰ってこよ」


◇◇◇

死後硬直でキャリーケースに詰め込むのにスゴイ時間がかかった。母親には悪いと思ったが、入れるときに身体がグイグイ曲げて詰め込んだ。蓋を閉めたときには汗だくになってた。

「成仏してくれよな、母さん」

キャリーケースを横たえて、百均で買ってきた線香を空き缶の中にさした。ぼんやり線香の煙を見ていると、なんか泣けてきた。
  

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