婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)

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サイゼリヤにはまだ入れない!

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◆◆◆◆◆

サイゼリヤに到着した俺たちは、車から降りて早速入口に向かう。俺は若干スキップしている。アルファとの婚活デートが、まさか『サイゼリヤの幽霊』の聖地巡礼になるとは!

「耽美小説の聖地巡礼~♫」
「暁月さま、お待ち下さい」

不意に三日月アドバイザーに腕を掴まれる。なんだろうと振り返ると、何故か三日月の表情は暗い。どうした、三日月?

「三日月さん、どうしたの?なんか顔色が悪いけど‥‥大丈夫?」

「大丈夫ではありません。山崎さまもこちらに来て私の話を聞いて下さい」

「もう少し待ってくれ。いま、サイゼリヤの美麗写真を撮っているところだ」

俺と三日月が視線を向けると、一眼レフカメラを構えた山崎がサイゼリヤ店舗を撮影していた。

「聖地巡礼に隙なし!」

「婚活相手を放置して、サイゼリヤを撮影するアルファ。なるほど‥‥完全に結婚できない男ですね。」

撮影を終えた山崎は運転手にカメラを手渡すと、こちらに早足で近づく。そして、三日月ベータの腕を掴み睨みつけた。

「俺の婚活相手に触れるのはやめてもらおうか。腕の骨を折るぞ、ベータ」

「はっ、やれるものならやってご覧なさい。骨が折れたらすぐに警察に通報して捕まえてもらいますから。ヒエラルキー上位のアルファといえども、法のもとでは平等だ」

うぉ、ベータがアルファを煽った。確かに法のもとでは平等だけど、実際には平等じゃない。大抵のアルファは事件を起こしても不起訴になる。重大事件は別として腕を折ったくらいでは不起訴だ。

「二人ともやめてよ。三日月アドバイザーは山崎さんを煽らない。山崎さんもベータを脅さない。彼の腕を折っても不起訴に終わるだろうけど‥‥社会的制裁は免れないよ」

俺の言葉に山崎がぴくりと反応する。俺の顔をじっと見つめて口を開いた。

「なぜ‥‥山崎呼びなのですか?」
「名字呼びに降格しました」
「何故ですか!?」

「婚活相手を放置してサイゼリヤの写真撮影に夢中になっていたからです。いいですか、山崎さん。たとえ『お友達から始める婚活コース』でも、これは婚活デートです。聖地巡礼を共にするお茶飲み仲間をお探しなら、別の方を当たって下さい」

俺はこの際気になっていた事を口にした。もしも、山崎アルファが耽美小説を語り合うお茶飲み仲間を探す目的で結婚相談所に登録したのなら、それはやはり不誠実だと思う。

「それは違います、優斗さん!」
「その通りです、暁月さま!」

ベータとアルファは同時に叫ぶ。俺は軽くため息をついて言葉を紡ぐ。

「まずは二人共掴んでる手を放して下さい」

俺の言葉に山崎と三日月が素早く反応して手を放す。腕が自由になった俺はベータとアルファに話しかけた。

「俺は楽しく食事をしたいので、山崎さんも三日月さんも仲良くして下さい。はい、二人共笑って握手!」

俺がパチリと手を合わせて視線を送ると、二人は渋々握手をした。笑顔はないけど、まあいい。二人の握手が終ると、俺は三日月に話しかける。

「三日月さん‥‥やはり、顔色が悪いです。体調が悪いなら、この婚活デートを中止しましょう。貴方は俺の保護者だから、ちゃんと守ってくれないと困る」

三日月は目を見開いて俺を見つめた後に、少し俯きがちに口を開いた。

「体調は悪くありません。しかし、サイゼリヤに向かうには勇気が必要です。サイゼリヤはベータの聖地ですから」

「確かにそうだけど、オメガやアルファが店に入る事は禁じられてないよね?まあ、入店した人が何人いるのかは知らないけど。」

三日月が俺を見つめて言葉を紡ぐ。

「確かに、アルファやオメガが自ら入店することは止められない。だが、ベータが『アルファ』と共にサイゼリヤに入れば‥‥そのベータは秩序を乱した罪でブラックリスト入りするのです!そして、二度とサイゼリヤを利用できなくなる!」

「そんな!」
「それがどうした」

俺と山崎と三日月はサイゼリヤの前で、実にバカらしくも深刻な事態に陥っていた。



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