義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)

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兄上の部屋で

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◆◆◆◆◆

アルフレート兄上は語気を強めた。

「何て事を口にするんだ、ルチア!俺がお前の死を望む筈がないだろ?ルチアが自殺未遂を起こして、俺の心がどれほど揺らいだかわからないのかい?俺は兄として、ルチアを大切に思っている。ルチアの地位を奪った事にも、責任を感じている。ガーディナー家は君の生家だ。心から信頼し愛する番が現れるまで、ガーディナー家にとどまって欲しいと思っている。野垂れ死にだなんて・・ルチアは、家を飛び出すつもりだったのかい?」

「まさか。僕にはラケールがいる」

「悪いが・・俺は、二人が『運命の番』だとは思っていない。ルチアの首筋を噛んだのは、俺だ。その噛み痕にラケールは匂いをつけただけだ。そんな行為を、奴に許して欲しくはなかった」

アルフレート兄上が僕の首筋に手を宛がおうとしたので、それを手で制した。

「僕もラケールも『運命の番』なんて信じていないよ。以前にも言ったけど、僕と彼の間に肉体関係はないから。ラケールは、兄上と僕との関係を隠す為に、恋人役を買ってでてくれたんだよ。首筋に匂いをつけてと頼んだのも、僕の方なんだ。噛み痕にアルファの、その・・兄上の残り香がついていたから。そのままじゃ、まずいでしょ?だから、ラケールに舐めてもらって、アルファの匂いを上書きしてもらったんだ」

アルフレート兄上は、僕の首筋に目線を移した。だが、すぐに視線を逸らせて、少し俯きながら口を開く。

「ルチアはもう、俺と性的関係を持たないと決めたのだろ?何をきっかけにそう決意したのかは、俺には分からない。ラケールがそう説得してくれたのならば、奴に感謝をしよう。だが、二人が番でないのなら、『運命の番』などと名乗りをあげるのは今すぐにやめなさい」

「兄上には関係のないことです」

「兄として助言させてくれ、ルチア。いずれ、ラケールにもルチアにも、各々に番になりたいと望む相手が現れる時がくる。その時に、二人が『運命の番』として過ごした過去があることを相手方に知られたら、繋いだ縁が切れてしまうかもしれない」

兄上は僕の腕を捉えたまま離さない。だけど、僕との性的関係が終わることに安堵していることが、兄上からはっきりと伝わってきた。

胸がずきずきと痛い。

「過去に惑わされ切れる縁ならば、こちらから切りますよ、アルフレート兄上」

「ルチアは頑固だな」

アルフレート兄上が苦い表情を浮かべるが、僕は構わずに言葉を発した。

「それに、『運命の番』と名乗っているのには事情があるのです。ラケールに恋人の振りを頼んだのは僕です。でも、ラケールの父上に、僕たちの噂が伝わってしまいました。ラケールの父上は過激な『運命の番』論者で、遊びならば縁を切るように迫られたそうです。ラケールと僕は幼馴染です。その関係まで切れることを、ラケールは恐れたのかもしれない。とにかく、ラケールは父親に迫られ『ルチアは俺の運命の番です』と説明したそうです。これは、僕が兄上に別れを告げると決める前の出来事です。だから、僕はラケールに責任をとる必要があるのです。理解して下さいますか、兄上」


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