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別れるかべきか?
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◆◆◆◆◆
ガーディナー家に馬車が着くと、父上のエスコートで邸に入った。玄関広間では使用人が僕たちを迎え入れる。父上は使用人にアルフレートを自室に呼ぶよう伝えた。
「父上」
「なんだい?」
「陛下が仕掛けたゲームに参加するよう、兄上を説得なさるおつもりですか?」
「説得ではなく、当主として命令する」
「・・父上」
僕は子供の様に父上の腕を掴んでしまった。父上は優しく微笑み僕の髪を撫でた。
「ルチアは自室で食事をとり、今日はゆっくり休みなさい。明日から学生寮に戻ると聞いたが、自宅から学園に通ってもいいのだよ?」
「学生寮での生活は楽しいですよ、父上。学友と部屋を行き来して、会話をするのも楽しい。でも、しっかり勉強もしますよ!僕はBクラスに落ちてしまったので、早くAクラスに戻れるよう努力します、父上」
「そうか。だが、無理はしないようにね」
「はい、父上」
父上は頑張れというように、僕の肩を軽く叩いた。そして、父上は僕に背を向けて自室に向かい歩きだした。僕は父上の背中をしばらく見つめたあと、自室に向かった。
「ルチア」
「兄上!」
僕の自室の前で、アルフレート兄上が待っていた。僕は慌てて兄上の元に向かった。
「兄上、僕にご用ですか?」
アルフレート兄上は僕の顔を見つめて、しばらく黙りこんだ。僕が首を傾げて兄上を見つめ返すと、少し躊躇った後に口を開いた。
「父上に呼ばれたので、今から自室に会いに行ってくる。ルチアには黙っていたが、俺は父上にルチアを正妻に欲しいと願いでた。その場では、父上は返事を保留にされた。今回の父上の呼び出しは、その時保留となった答えを俺に伝えるものかもしれない」
それは、違う。父上はアンリを巡るゲームに参加するように兄上に命じるつもりだ。だけど、そんなこと・・言えるはずがない。
「ルチア?」
「・・アルフレート兄上。婚姻話を僕に黙ったまま進めようとしたのは何故ですか?」
「黙っていた事は謝る、ルチア。俺は父上の反応を、確認したかったんだ。もしも、俺たちが腹違いの兄弟ならば、父上はその場で婚姻話を退けたはずだ。ルチアに近づくなと、父上は俺に警告を発したはずだ。だが、父上は返事を保留にしただけだった。それは、俺たちが腹違いの兄弟ではないことの証だと思わないか?」
「兄上、あの!」
「どうした?」
「あっ、いえ・・。その、私は兄上の態度から、別れを切り出されるものだと思い込んでいました。それが突然の婚姻話になって、戸惑ってしまって・・」
「学生寮の一件以来、ルチアを目の前にすると興奮してしまって・・襲いそうになって困っていた。ルチアのフェロモンの威力は凄まじくて、最近ようやく発情が抑え込めたところだ。よそよそしい態度を取り、ルチアには辛い思いをさせたね。だが、両想いだと分かった途端にルチアに襲いかかっては、体目当てだと思われそうだから必死に耐えていた」
「あ、あう。あ、兄上!か、体目当て!?」
「誤解しないでくれ、ルチア!体目当てではなく、心目当てだ!いや、両方欲しい。くそ、駄目だ。上手く表現できない。とにかく、父上に会ってくる!」
アルフレート兄上が僕に背を向けた。本当に、兄上は不器用な人だ。
「アルフレート兄上」
「っ!」
僕はアルフレート兄上の背中に身を寄せていた。兄上の体温を感じながら呟く。
「父上のお話は別の内容です、兄上」
「え?」
「きっと、兄上は父上の命令には逆らえない。ガーディナー家で生きていく為には、命令を受け入れるしかありません。大切な母上を兄上は守る義務があるでしょ?過去の経緯から、父上は兄上に不信感を抱いています。どうか、父上の誤解が解けるように、行動してください。父上の信頼を勝ち得て、ガーディナー家の次期当主の座を磐石にしてください、アルフレート兄上」
「何を言っているんだ、ルチア?」
「お別れの挨拶です、兄上」
「ルチア!」
兄上が振り返った時には、僕は距離を取っていた。そして、自室に入り鍵を掛けた。アルフレート兄上の声が聞こえないように、両方の耳を手で押さえた。
「アルフレート兄上ぇ、ごめんなさい」
そのまま床に座り込んだ僕は、子供のように泣き出していた。
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ガーディナー家に馬車が着くと、父上のエスコートで邸に入った。玄関広間では使用人が僕たちを迎え入れる。父上は使用人にアルフレートを自室に呼ぶよう伝えた。
「父上」
「なんだい?」
「陛下が仕掛けたゲームに参加するよう、兄上を説得なさるおつもりですか?」
「説得ではなく、当主として命令する」
「・・父上」
僕は子供の様に父上の腕を掴んでしまった。父上は優しく微笑み僕の髪を撫でた。
「ルチアは自室で食事をとり、今日はゆっくり休みなさい。明日から学生寮に戻ると聞いたが、自宅から学園に通ってもいいのだよ?」
「学生寮での生活は楽しいですよ、父上。学友と部屋を行き来して、会話をするのも楽しい。でも、しっかり勉強もしますよ!僕はBクラスに落ちてしまったので、早くAクラスに戻れるよう努力します、父上」
「そうか。だが、無理はしないようにね」
「はい、父上」
父上は頑張れというように、僕の肩を軽く叩いた。そして、父上は僕に背を向けて自室に向かい歩きだした。僕は父上の背中をしばらく見つめたあと、自室に向かった。
「ルチア」
「兄上!」
僕の自室の前で、アルフレート兄上が待っていた。僕は慌てて兄上の元に向かった。
「兄上、僕にご用ですか?」
アルフレート兄上は僕の顔を見つめて、しばらく黙りこんだ。僕が首を傾げて兄上を見つめ返すと、少し躊躇った後に口を開いた。
「父上に呼ばれたので、今から自室に会いに行ってくる。ルチアには黙っていたが、俺は父上にルチアを正妻に欲しいと願いでた。その場では、父上は返事を保留にされた。今回の父上の呼び出しは、その時保留となった答えを俺に伝えるものかもしれない」
それは、違う。父上はアンリを巡るゲームに参加するように兄上に命じるつもりだ。だけど、そんなこと・・言えるはずがない。
「ルチア?」
「・・アルフレート兄上。婚姻話を僕に黙ったまま進めようとしたのは何故ですか?」
「黙っていた事は謝る、ルチア。俺は父上の反応を、確認したかったんだ。もしも、俺たちが腹違いの兄弟ならば、父上はその場で婚姻話を退けたはずだ。ルチアに近づくなと、父上は俺に警告を発したはずだ。だが、父上は返事を保留にしただけだった。それは、俺たちが腹違いの兄弟ではないことの証だと思わないか?」
「兄上、あの!」
「どうした?」
「あっ、いえ・・。その、私は兄上の態度から、別れを切り出されるものだと思い込んでいました。それが突然の婚姻話になって、戸惑ってしまって・・」
「学生寮の一件以来、ルチアを目の前にすると興奮してしまって・・襲いそうになって困っていた。ルチアのフェロモンの威力は凄まじくて、最近ようやく発情が抑え込めたところだ。よそよそしい態度を取り、ルチアには辛い思いをさせたね。だが、両想いだと分かった途端にルチアに襲いかかっては、体目当てだと思われそうだから必死に耐えていた」
「あ、あう。あ、兄上!か、体目当て!?」
「誤解しないでくれ、ルチア!体目当てではなく、心目当てだ!いや、両方欲しい。くそ、駄目だ。上手く表現できない。とにかく、父上に会ってくる!」
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「っ!」
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