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馬車での秘密話 7
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◆◆◆◆◆
父上は僕から視線を外すと静かに呟いた。
「確かに、そう言っていたね」
父上の言葉には、苦い感情が含まれている。そう感じたが、僕は溢れる気持ちを抑えることは出来ず話し続けた。
「でも、兄上の言う『愛しい』は、僕の望む『愛しい』とは少し違うようです。もしも、僕をオメガとして愛していたなら、アルフレート兄上は義兄として僕に接するとは、父上に答えなかったはずです。アルファの独占欲って、もっと感情的なものでしょ?きっと、アルフレート兄上の『愛しい』は、親愛の情に近い感情なのだろうと思います。だから、僕が義弟の座に収まれば、全てが上手くいく」
「兄弟の関係に戻れそうかい、ルチア?」
父上の言葉に、僕はポロポロと涙を溢していた。感情は思考とは別のところに存在して、心をざわつかせる。
「父上・・今の僕は自分の感情をもて余し、何も決められそうにないのです。でも、ルチアが与えてくれた時間を、僕は無駄にはできない。僕は前に進まないと駄目なんです。だから、『運命の番』を映す水鏡に、僕の恋の行方を託す事にしました」
「水鏡に?」
「もしも、『運命の番』がアルフレート兄上ならば・・その時は、兄上にもう一度告白してみようと思っています。でも、『運命の番』が別の人物なら・・しばらく恋はお休みします」
「なるほど。父としては・・ルチアの『運命の番』が、アルフレート以外の人物であることを祈りたいな。ただし、陛下は論外だ。ジャクソンも論外だな。陛下が義理の父になるなど許せない。しかし、ラケールはあそこが弱いらしいから、孫が抱けるか心配だ。まずいな。『運命の番』を映す水鏡を破壊したくなってきた・・」
「父上、駄目です~。王国の秘宝です!」
「ふふ、冗談だ。さて、そろそろ陛下の元に向かうとしようか、ルチア?」
「はい、父上!」
僕は精一杯の笑顔を見せた。そんな僕を父上がぎゅっと抱き締めてくれた。
「無理に笑わなくていい、ルチア」
「・・はい、父上」
僕もぎゅっと父上を抱きしめ目を閉じた。
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父上は僕から視線を外すと静かに呟いた。
「確かに、そう言っていたね」
父上の言葉には、苦い感情が含まれている。そう感じたが、僕は溢れる気持ちを抑えることは出来ず話し続けた。
「でも、兄上の言う『愛しい』は、僕の望む『愛しい』とは少し違うようです。もしも、僕をオメガとして愛していたなら、アルフレート兄上は義兄として僕に接するとは、父上に答えなかったはずです。アルファの独占欲って、もっと感情的なものでしょ?きっと、アルフレート兄上の『愛しい』は、親愛の情に近い感情なのだろうと思います。だから、僕が義弟の座に収まれば、全てが上手くいく」
「兄弟の関係に戻れそうかい、ルチア?」
父上の言葉に、僕はポロポロと涙を溢していた。感情は思考とは別のところに存在して、心をざわつかせる。
「父上・・今の僕は自分の感情をもて余し、何も決められそうにないのです。でも、ルチアが与えてくれた時間を、僕は無駄にはできない。僕は前に進まないと駄目なんです。だから、『運命の番』を映す水鏡に、僕の恋の行方を託す事にしました」
「水鏡に?」
「もしも、『運命の番』がアルフレート兄上ならば・・その時は、兄上にもう一度告白してみようと思っています。でも、『運命の番』が別の人物なら・・しばらく恋はお休みします」
「なるほど。父としては・・ルチアの『運命の番』が、アルフレート以外の人物であることを祈りたいな。ただし、陛下は論外だ。ジャクソンも論外だな。陛下が義理の父になるなど許せない。しかし、ラケールはあそこが弱いらしいから、孫が抱けるか心配だ。まずいな。『運命の番』を映す水鏡を破壊したくなってきた・・」
「父上、駄目です~。王国の秘宝です!」
「ふふ、冗談だ。さて、そろそろ陛下の元に向かうとしようか、ルチア?」
「はい、父上!」
僕は精一杯の笑顔を見せた。そんな僕を父上がぎゅっと抱き締めてくれた。
「無理に笑わなくていい、ルチア」
「・・はい、父上」
僕もぎゅっと父上を抱きしめ目を閉じた。
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