義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)

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王の書庫3

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◆◆◆◆◆


陛下は僕を見つめながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「確かに、ルチアの言うとおりだな。さっそく『王の書庫』に君を招待しよう」

「はい、陛下」

「寝所の奥に本棚がある。そこから『魔女の鉄槌』の初版本を見つけて、本棚から取りだしてくれ。出来るかい、ルチア?」

僕は寝所の奥の本棚に目をやった。

「書物を本棚から取り出す事で仕掛けが動き、『王の書庫』への道が開かれる訳ですね?それにしても、仕掛けの書物が『魔女の鉄槌』だなんて・・悪趣味です」

「ルチアは魔女ではないのだから、『魔女の鉄槌』を恐れる必要はないだろ?」

「『魔女の鉄槌』は、読本としては興味深いですが、魔女狩りを助長した罪深い書物です。異端者を見分ける方法が分かりやすく書かれ、民衆の心を掴む人気の書物となっていますが・・至るところに偏見がみられます。特に女性やオメガに対する蔑視がひどい。教会がこの書物に安易にお墨付きを与えたことは、間違いであったと僕は思います」

「ルチア、言葉を慎みなさい」
「父上、ですが!」
「ルチア」
「・・はい」

陛下は僕の瞳を覗きながら、口を開いた。

「ルチアは慎重さに欠ける。教会に関する事には、特に慎重であるべきだ。さて、ルチア。本棚から件の書物を見つけて、『王の書庫』への道を開きなさい」

「はい、陛下」

僕は緊張しながら、寝所の奥の本棚に向かった。そして、何かを蹴飛ばした。『運命の番』を映す水鏡だった。コロンコロンと床を転がる。

「ひっぃ!」

「ああ、すまない。ルチアがベッドに横たわるのを阻止するために、水鏡がじゃまでね。床に置いてそのままになっていた」

「父上~」

父上は転がった水鏡を床から拾う。そして、じろじろ見つめて結論をだした。

「割れてはいないようだ。ところで、『王の書庫』で水鏡を使うのなら水が必要になるが、用意はしなくてよいのか?」

「『王の書庫』に水瓶があるから、問題はない。しかし、ルチアは意外と乱暴な面があるな。水鏡を蹴り飛ばすとは意表を付かれた」

「陛下!不可抗力です!罪は全て床に水鏡を置いた父にあります。罰するなら父上を罰して下さい!」

僕の言葉に陛下はニヤリと笑った。

「冗談だ。緊張が解れたようだね?」
「緊張は・・確かにほぐれました」
「では、本棚へ向かいなさい」
「はい、陛下」

しばらく本棚の前をうろうろして、僕はようやく『魔女の鉄槌』を発見した。それを本棚から抜き出すと、カチリと音がした。音のした方向に視線を向けると、先程までただの壁だった場所に扉が出現していた。

「魔法か!?」

僕は思わず言葉を発していた。いや、このゲーム世界はふわふわ設定だが、魔法は存在しない。つまり、目の錯覚を利用した仕掛けで、元から扉は存在したのだろう。

「上手く出来ているな」

父上は興味深そうに、本棚横の壁に突如現れた扉に手を掛けた。そして、内部を覗き込む。

「暗いな」

「『王の書庫』までは、細い通路で繋がっている。大した距離ではないが、道中は暗いのでランプを使用する。『王の書庫』には明かり取りの窓があるので、ランプは一つで十分だ」

陛下は棚に置かれたランプを取ると、ローソクで火を灯した。そして、ランプを手にすると、僕に声を掛けた。

「『魔女の鉄槌』を本棚に戻しておいてくれ。そして、私に続いて秘密の通路を歩くといい」

「承知しました、陛下」

陛下の言葉に従い、『魔女の鉄槌』を本棚に戻して、僕は秘密の通路に向かった。


◆◆◆◆◆

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