84 / 119
王の書庫3
しおりを挟む
◆◆◆◆◆
陛下は僕を見つめながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「確かに、ルチアの言うとおりだな。さっそく『王の書庫』に君を招待しよう」
「はい、陛下」
「寝所の奥に本棚がある。そこから『魔女の鉄槌』の初版本を見つけて、本棚から取りだしてくれ。出来るかい、ルチア?」
僕は寝所の奥の本棚に目をやった。
「書物を本棚から取り出す事で仕掛けが動き、『王の書庫』への道が開かれる訳ですね?それにしても、仕掛けの書物が『魔女の鉄槌』だなんて・・悪趣味です」
「ルチアは魔女ではないのだから、『魔女の鉄槌』を恐れる必要はないだろ?」
「『魔女の鉄槌』は、読本としては興味深いですが、魔女狩りを助長した罪深い書物です。異端者を見分ける方法が分かりやすく書かれ、民衆の心を掴む人気の書物となっていますが・・至るところに偏見がみられます。特に女性やオメガに対する蔑視がひどい。教会がこの書物に安易にお墨付きを与えたことは、間違いであったと僕は思います」
「ルチア、言葉を慎みなさい」
「父上、ですが!」
「ルチア」
「・・はい」
陛下は僕の瞳を覗きながら、口を開いた。
「ルチアは慎重さに欠ける。教会に関する事には、特に慎重であるべきだ。さて、ルチア。本棚から件の書物を見つけて、『王の書庫』への道を開きなさい」
「はい、陛下」
僕は緊張しながら、寝所の奥の本棚に向かった。そして、何かを蹴飛ばした。『運命の番』を映す水鏡だった。コロンコロンと床を転がる。
「ひっぃ!」
「ああ、すまない。ルチアがベッドに横たわるのを阻止するために、水鏡がじゃまでね。床に置いてそのままになっていた」
「父上~」
父上は転がった水鏡を床から拾う。そして、じろじろ見つめて結論をだした。
「割れてはいないようだ。ところで、『王の書庫』で水鏡を使うのなら水が必要になるが、用意はしなくてよいのか?」
「『王の書庫』に水瓶があるから、問題はない。しかし、ルチアは意外と乱暴な面があるな。水鏡を蹴り飛ばすとは意表を付かれた」
「陛下!不可抗力です!罪は全て床に水鏡を置いた父にあります。罰するなら父上を罰して下さい!」
僕の言葉に陛下はニヤリと笑った。
「冗談だ。緊張が解れたようだね?」
「緊張は・・確かにほぐれました」
「では、本棚へ向かいなさい」
「はい、陛下」
しばらく本棚の前をうろうろして、僕はようやく『魔女の鉄槌』を発見した。それを本棚から抜き出すと、カチリと音がした。音のした方向に視線を向けると、先程までただの壁だった場所に扉が出現していた。
「魔法か!?」
僕は思わず言葉を発していた。いや、このゲーム世界はふわふわ設定だが、魔法は存在しない。つまり、目の錯覚を利用した仕掛けで、元から扉は存在したのだろう。
「上手く出来ているな」
父上は興味深そうに、本棚横の壁に突如現れた扉に手を掛けた。そして、内部を覗き込む。
「暗いな」
「『王の書庫』までは、細い通路で繋がっている。大した距離ではないが、道中は暗いのでランプを使用する。『王の書庫』には明かり取りの窓があるので、ランプは一つで十分だ」
陛下は棚に置かれたランプを取ると、ローソクで火を灯した。そして、ランプを手にすると、僕に声を掛けた。
「『魔女の鉄槌』を本棚に戻しておいてくれ。そして、私に続いて秘密の通路を歩くといい」
「承知しました、陛下」
陛下の言葉に従い、『魔女の鉄槌』を本棚に戻して、僕は秘密の通路に向かった。
◆◆◆◆◆
陛下は僕を見つめながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「確かに、ルチアの言うとおりだな。さっそく『王の書庫』に君を招待しよう」
「はい、陛下」
「寝所の奥に本棚がある。そこから『魔女の鉄槌』の初版本を見つけて、本棚から取りだしてくれ。出来るかい、ルチア?」
僕は寝所の奥の本棚に目をやった。
「書物を本棚から取り出す事で仕掛けが動き、『王の書庫』への道が開かれる訳ですね?それにしても、仕掛けの書物が『魔女の鉄槌』だなんて・・悪趣味です」
「ルチアは魔女ではないのだから、『魔女の鉄槌』を恐れる必要はないだろ?」
「『魔女の鉄槌』は、読本としては興味深いですが、魔女狩りを助長した罪深い書物です。異端者を見分ける方法が分かりやすく書かれ、民衆の心を掴む人気の書物となっていますが・・至るところに偏見がみられます。特に女性やオメガに対する蔑視がひどい。教会がこの書物に安易にお墨付きを与えたことは、間違いであったと僕は思います」
「ルチア、言葉を慎みなさい」
「父上、ですが!」
「ルチア」
「・・はい」
陛下は僕の瞳を覗きながら、口を開いた。
「ルチアは慎重さに欠ける。教会に関する事には、特に慎重であるべきだ。さて、ルチア。本棚から件の書物を見つけて、『王の書庫』への道を開きなさい」
「はい、陛下」
僕は緊張しながら、寝所の奥の本棚に向かった。そして、何かを蹴飛ばした。『運命の番』を映す水鏡だった。コロンコロンと床を転がる。
「ひっぃ!」
「ああ、すまない。ルチアがベッドに横たわるのを阻止するために、水鏡がじゃまでね。床に置いてそのままになっていた」
「父上~」
父上は転がった水鏡を床から拾う。そして、じろじろ見つめて結論をだした。
「割れてはいないようだ。ところで、『王の書庫』で水鏡を使うのなら水が必要になるが、用意はしなくてよいのか?」
「『王の書庫』に水瓶があるから、問題はない。しかし、ルチアは意外と乱暴な面があるな。水鏡を蹴り飛ばすとは意表を付かれた」
「陛下!不可抗力です!罪は全て床に水鏡を置いた父にあります。罰するなら父上を罰して下さい!」
僕の言葉に陛下はニヤリと笑った。
「冗談だ。緊張が解れたようだね?」
「緊張は・・確かにほぐれました」
「では、本棚へ向かいなさい」
「はい、陛下」
しばらく本棚の前をうろうろして、僕はようやく『魔女の鉄槌』を発見した。それを本棚から抜き出すと、カチリと音がした。音のした方向に視線を向けると、先程までただの壁だった場所に扉が出現していた。
「魔法か!?」
僕は思わず言葉を発していた。いや、このゲーム世界はふわふわ設定だが、魔法は存在しない。つまり、目の錯覚を利用した仕掛けで、元から扉は存在したのだろう。
「上手く出来ているな」
父上は興味深そうに、本棚横の壁に突如現れた扉に手を掛けた。そして、内部を覗き込む。
「暗いな」
「『王の書庫』までは、細い通路で繋がっている。大した距離ではないが、道中は暗いのでランプを使用する。『王の書庫』には明かり取りの窓があるので、ランプは一つで十分だ」
陛下は棚に置かれたランプを取ると、ローソクで火を灯した。そして、ランプを手にすると、僕に声を掛けた。
「『魔女の鉄槌』を本棚に戻しておいてくれ。そして、私に続いて秘密の通路を歩くといい」
「承知しました、陛下」
陛下の言葉に従い、『魔女の鉄槌』を本棚に戻して、僕は秘密の通路に向かった。
◆◆◆◆◆
45
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される
水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話
天宮叶
BL
腹違いの弟のフィーロが伯爵家へと引き取られた日、伯爵家長男であるゼンはフィーロを一目見て自身の転生した世界が前世でドハマりしていた小説の世界だと気がついた。
しかもフィーロは悪役令息として主人公たちに立ちはだかる悪役キャラ。
ゼンは可愛くて不憫な弟を悪役ルートから回避させて溺愛すると誓い、まずはじめに主人公──シャノンの恋のお相手であるルーカスと関わらせないようにしようと奮闘する。
しかし両親がルーカスとフィーロの婚約話を勝手に決めてきた。しかもフィーロはベータだというのにオメガだと偽って婚約させられそうになる。
ゼンはその婚約を阻止するべく、伯爵家の使用人として働いているシャノンを物語よりも早くルーカスと会わせようと試みる。
しかしなぜか、ルーカスがゼンを婚約の相手に指名してきて!?
弟loveな表向きはクール受けが、王子系攻めになぜか溺愛されちゃう、ドタバタほのぼのオメガバースBLです
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる