義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)

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喪失1

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◆◆◆◆◆


目覚めると僕は天蓋付きベッドに横たわっていた。しばらくして、そこが王の寝所であることに気がついた。

僕ははっとして右手をみた。きつく握ったこぶしを開くと、ルチアの欠片である花びらが現れた。実体を持った白い花びらが三枚。

「・・ルチア」

そう呟くと、箱庭でルチアと交わした会話が一気に脳内に甦った。

◇◇◇◇

『僕は『運命の番』としてライの首を噛む。そして、僕はライに想いを流し込む。ライの中のアルフレート兄上への愛情が消え去るまで』

『ごめん、ライ。大切な想いを奪ってごめん。ごめんな、ライ。奪ってしまて・・』

『僕が死ねば、君は僕の呪縛から解放されて、また恋ができる。誰とでも自由に恋ができるんだ。白紙の状態でライの人生を歩んで欲しいと僕は思ってる』


『ライ・・どうか、このまま逝かせて』

◇◇◇◇

「あっ、あぁ・・」

そして、気がつく。ルチアが僕の恋心を白紙に戻した事に。アルフレート兄上への想いが、アルファに向ける情愛から兄弟に向ける親愛に変化していた。

「ひどいよ、ルチア。『運命の番』のルチアを喪って、アルフレート兄上への想いも喪って・・僕に白紙の状態で人生を歩めというの?ルチアはやっぱり意地悪だ」

そう言葉にしてみたけれど、ルチアを恨む気にはなれなかった。ルチアにとっては、それが僕に対する愛情だったと分かっているから。ルチアの行動が例え間違っていても、それを全て受け入れている僕がいる。

「ルチア、寂しいよ」

『運命の番』と出逢っちゃうと、皆そうなっちゃうのかな?僕は異世界人なのに、すっかり『運命の番』の存在を信じているし、やっぱりルチアが僕の『運命の番』だと感じている。

「・・ルチア、大丈夫かい?」

父上に呼びかけられ僕ははっとした。父上が心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。僕は寂しさから、父上に甘えてしまう。

「・・父上、心が駄目になりそうです。父上と一緒に領地に戻って、引きこもりたいです。駄目ですか、父上?」

「構わないよ、ルチア」
「父上、僕は寂しくて・・」

不意に陛下の声が僕の言葉を制した。

「王国の危機を前に、現実逃避をするつもりか、ライ?」

僕が陛下の言葉に狼狽えていると、父上は陛下を睨み付け強い語気で牽制した。

「クリストフェル、止めろ!」

「王国の命運が掛かったゲームだ。そのゲームを有利に運べる重要な駒を、私が手放すと思っているのか?ライに領地に籠られては困る」

そうだった。この世界はルチアの生まれ故郷。その地を内乱状態になどさせない。でも、今は・・。

「・・わかりました、陛下。でも、半年は領地に籠らせて下さい。本当に、駄目なんです。僕はダメなんです」


◆◆◆◆◆

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