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攻めの満面の笑み

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「えっ、結婚?」

「ああ、ようやく彼女からオッケーを貰えてな。長かったよ。浮気性の俺がよく耐えた。マジで‥‥好きなんだ」

攻めの嬉しそうな言葉に、受けの胸は軋む。彼女と結婚するのか。親しげだがそこまで進んでいるとは思わなかった受けは衝撃を受ける。

それでも、親友として笑顔を向けた。

「おめでとう、攻め!」
「サンキュー、受け!」

二人の関係は幼馴染で親友。それだけの関係だ。若い時はほんの少し逸脱しそうになった関係だが、攻めはもう覚えてはいないだろう。

そう思うと受けは泣きそうになる。今でも、攻めの事が好きだから。あの青春のひと時。甘く触れ合った一瞬は、きっと幻だ。受けはそう思うことにした。

「なんでそんな顔をする‥‥」
「えっ、」
「俺の結婚が嫌なのか?」

「そんな事ないよ。なんでそのこと言うんだよ‥」

「俺はお前に振られてから、必死に気持ちを切り替えてここまで来たんだ。今更そんな顔をして‥‥俺を惑わせないでくれ」

「俺は振ってないし‥‥そんな関係はなかった。」

「あっただろ!」
「ないよ」

「キスしようとしてお前は逃げた!でも、俺の気持ちは確かにあったし‥‥お前も少しはあったはずだ。それを否定するな」

「今から結婚するんだろ?今更過去を蒸し返してどうする。やめてくれよ」

受けの動揺する肩を掴んで攻めが口を開く。

「結婚話は嘘」
「はっ?」

「お前を嵌めるために‥女と付き合ってる振りをしてた。アイツとはただの友達だ。で、それを聞いた今の気持ちは?」

受けは呆れて、でも深い安堵の息をもらして応えた。

「安心した」

その答えに攻めは満面の笑みを浮かべた。



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