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兄弟

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「マーシャ、父上が亡くなった」
「・・・?」

「マーシャ、よく聞くんだ」
「ワレリー兄上?」

「ああ、ワレリーだ。マーシャ、父上が昨夜亡くなられた。夕食の香草のスープに、セージによく似たジギタリスが紛れ込んでいたようだ。それを食して、父上は心臓の発作を起こして亡くなられた」

「ジギタリス?」

「父上は心臓が弱かっただろ?医者の話では、ジギタリスは毒にも薬にもなるらしい。父上は心臓の薬として、ジギタリスを処方されていたようだ。だけど、スープにもジギタリスが含まれていて、過剰摂取になったらしい。料理人が捕まったけど、事故で処理されると思う」

「ワレリー兄上・・泣きながら笑っているのは、何故ですか?」

「マーシャはちっとも泣いてないね?笑いもしないけど。でも、当然だよね。とてもひどい目に遭ったのだから。でも、もう大丈夫だからね」

「父上は・・もう僕を叩かない?」
「叩かないよ、マーシャ」
「兄上は僕を叩かないの?」
「叩いたりしない!」

「僕は性欲処理の壺をやめていいの?」
「っ!」
「ワレリー兄上?」

「マーシャ、俺が幸せにする。父上の事は全部忘れるんだ。父上は死んだのだから」


「死んだの?本当に?」
「そうだ。死んだ」


「まずは、医者に見てもらおう。マーシャは、痩せ細っているよ。俺は心配だ」


「父上が死んだ」
「ああ、死んだ」
「ジギタリスで?」
「ジギタリスで」

「苦しんだ?」
「少し」
「そう」

「マーシャが聞きたいなら話す。俺が父上を殺した。俺の地位を守るために殺した。俺の為に殺した。あいつは、俺を不要だと言った。だが、俺は廃嫡など受け入れられない。だから、だから・・」


「ワレリー兄上」
「内緒だぞ、マーシャ?」
「はい、兄上」

「抱きしめてもいいか?」
「っ、あの・・」
「いやか?じゃあ、手を繋ごう」
「はい、兄上」

「冷たい手だな」
「兄上の手はあたたかいです」



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