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ワレリー兄上とリナト

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ワレリー兄上の厳しい言葉に、リナトが反論しようとした。僕は口論に発展する事を嫌い、兄上の元に駆け寄った。

「ワレリー兄上、お疲れ様です。馬車の音が聞こえず、帰宅された事に気がつきませんでした。ごめんなさい、兄上。ところで、何時もよりお早いお帰りですがどうかされましたか?」

僕が早口で声を掛けると、兄上は僕の意思を察したようで穏やかな表情を浮かべた。

「ただいま、マーシャ。今日は同僚と共に仕事で郊外に出たので、帰りは同僚と辻馬車に乗って帰ってきた」

「辻馬車ですか!?」
「マーシャは乗ったことがなかったな」
「ないです。乗りたいです!」

「あまり推奨は出来ないが、護衛をつけてなら辻馬車に乗っても構わないよ。ただし、王都から出ては駄目だからね」

「色々な体験をしたいです。邸から出られるだけで、僕には大冒険です」

昔は屋敷の一室に閉じ込められて、庭に出ることさえ許されなかった。時には、両手足を拘束されベッドに縛られた。

外の世界に憧れ続けた日々。

「マーシャ?」
「僕は幸せです、兄上」
「・・そうか」

「ところで、ワレリー兄上が持っている箱には、もしやお菓子が入っているのでは?よい薫りがします~」

「同僚と昼食を食べた店で、焼き菓子を売っていてね。クッキーとスコーンを買ってきた。今から一緒に食べないかい、マーシャ?」

「食べます~!」
「リナトも食べるだろ?」
「俺は・・あー、はい、食べます」

突然ワレリー兄上に声を掛けられたリナトは、返答に困りつつも矛先を納める事にしたようだ。でも、表情は不機嫌なままだ。

「使用人がもうすぐ紅茶を持ってきます。ここで食べましょう、兄上」

「そうだな」

テーブルを囲むソファーに、皆が適当な距離を保ち座った。ちょうどその時に使用人が現れた。事前にワレリー兄上が図書室に来ていた事を知っていたようで、紅茶は四人分用意されていた。

「焼き菓子を買ってきた」
「承知しました、ワレリー様」

使用人は兄上から箱を渡されると、皿の上に綺麗に盛り付けてくれた。

「美味しそう~!いただきます!」
「俺も食べるか」
「・・・」

僕とワレリー兄上は、さっそく菓子に手をつけた。兄上は美丈夫な見た目には似合わず無類の甘党である。なぜ太らないのか疑問だ。

僕は孕み子だからなのか、太りやすい。まあ、食べるけど。


「美味いな」

「美味しいです。リナトも食べなよ。このクッキー最高に甘いよ!」

「最高に甘いって、褒め言葉なの?」
「褒め言葉だよ。はい、あーん」
「えっ、いや。え?」

「あーん」

リナトの口元にわざとクッキーをぶつけてみた。さあ、食べなさい!育ち盛り!




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