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悪魔と呼ばれた戦利品
第6話 恐れぬ王 1
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死ぬときの痛みや苦しみを思えば怖いけれど、長く生られるなんて思っていない。
父が絶対的主君たる王を裏切って処刑され、次いで母と兄達が斬首されたと聞いて、ルティシアは、次は自分の番だと覚悟していた。
ところが、迎えに来た兵らに戦利品として、ルティシアも他の姉たちと一緒に王宮へ召し上げられることになった。
道中で姉と兵がこんなことを話していた。
「別邸に住まわせていたあの子まで、陛下の御前にお出しになりますの?」
「明確な理由もなく下手に隠し立てすると、我々が陛下よりあらぬ疑いをかけられることになる。案じずともそのような娘、お目に留まることはあるまい」
「万一、お気づきになられれば?」
「あのような見目では無論、気分を害されよう。その場で処分なさるやもしれんな。せいぜい、目立たぬようにさせておけ」
「では、陛下のお目に留まらぬ時はどうなさいますの?」
「家中にも貰い手はないだろうからな。陛下より特にご命令がなければ娼館行きだな。格安にはなるだろうが、目隠しでもしてれば客ぐらいとれるさ」
王宮へ着くと、彼女達は一室に入れられた。王の御前に出る為、身奇麗にするようにと命じられ、姉達の目に火がついた。
戦利品とはいえ、王に気に入られれば、側室として後宮入りも夢ではなくなる。後ろ盾も帰る家さえ失った彼女達にとって、まさしく絶好の機会だった。
姉達が屋敷からいくらか持ち出せた自分の荷物を漁る中、一人の姉が何かを思い出して、廊下にいる騎士を連れてきた。
部屋に戻ってきた姉は、開いた扉から顔を出す騎士に、ルティシアを指差して見せた。
「この子には町娘が着るような服を用意してくださいませ」
騎士は、嫌なものを見るような目でルティシアを一瞥した。
「そうだな。陛下のお目に留まるようなことがあっては一大事だ」
そんなに嫌なら、道中にでも置き去りにしてくれれば良かったのに。
聞いていない振りをしながら、ルティシアは胸中で呟いた。
姉達は早速手持ちの中から、それぞれが最も自分に映えるドレスに着替え、時間をかけて丁寧に化粧を施していく。その間に世話役の騎士が戻ってきて、ルティシアに町娘の普段着のような婦人服を手渡した。
支度を整えることに必死の姉達は、着替えの最中に男である騎士が出入りしようとお構いなしだ。そんな姉達を他所に、ルディシアは用意された衣服に着替えた。化粧道具は一応持ってはいたが、意味がないだろうから何もしなかった。
「部屋の隅で、顔を上げないように大人しくしていなさい」
「そうよ。この国をお救いくださった陛下に、決してお前の呪われた目を御見せしてはならないわ」
「分かっているわね、間違っても王に取り入るような真似だけはしないでちょうだい。お前が陛下の怒りを買って処刑されるのは当然のことでも、わたくし達を道連れにしたらお前を決して許さないわよ」
殺気立った姉達の威圧に、ルティシアは押しつぶされそうになって身を縮めた。
「はい、承知いたしております」
姉の言いつけは絶対だった。
つまり、姉妹にとって最良な結果は、ルティシアが王に気づかれぬままやり過ごし、姉が選ばれることだ。
あるいは、姉達に影響がない程度に王の怒りをかい、ルティシアだけ捕らえられ、牢獄に入れられ後日処刑。
娼館に送られて見知らぬ男の慰み者になるぐらいなら、ルティシアは後者を望む。けれどいざ、部屋で国王を迎えると、恐ろしくてならなかった。
なにせ王は、父と母、兄を処刑させたのだ。ルティシアを一目見て、切り捨てるかもしれない。
顔を上げないように。
気づかれないように。
息を殺して、壁に縋るように身を寄せた。
ところが王は予期せぬ行動に出た。
姉達や騎士の制止を振り切り、好奇心の赴くままにルティシアに近づいて、黒髪に紅い瞳を見た。
王は、誰もが異形と畏怖する彼女の髪や瞳を見ても、いささかも気に留めなかった。
しかも、四年前に屋敷で蛮行の限りを尽くした変態男が、国を救った新王となって、いきなり目の前に現れるなど夢にも思うわけがない。
驚きのあまり、ルティシアは姉の言葉を完全に失念し、つい本音を出てしまった。
そんな反応を、アージェスは以前と同じく楽しむばかりで意に介さず、気がつけばルティシアは彼に選ばれていた。余計なことをしてくれる。彼女達姉妹にとっては、決してあってはならない最悪の事態だ。混乱したルティシアは、とっさにその場から逃げ出した。
なぜ、私なの?
なぜ、私なんかを?
私の屋敷で侍女たちだけを相手にしたみたいに、お姉様達だけを選んでくれればいいのに。
私なんかを選んでどうするのよ?
今頃お姉様達は、烈火のごとく怒ってらっしゃるに違いないわ。
真っ先に選ばれた私を、きっと死ぬまで許してくださらない。
ああ、なんてことを。
部屋から逃げ出したルティシアは、王宮の中をでたらめに走っていた。
広い殿内の廊下は延々と続き、外へ出る通路さえ分からない。
どこをどう通ってきたのかさえ分からない。
「なにあの女、真っ黒な髪、気持ち悪い」
「それにあんな格好で王宮に入ってくるだなんて」
「誰かっ、この娘を摘まみ出してちょうだいっ」
周囲にいた女官たちが騒ぎ出す。
いつのまにか立ち止まっていたルティシアは、すぐに自分のことだと気づいて俯いた。
部屋の片隅から、突然現れた害虫でも見るような、突き刺さす視線に耐えながら、目を硬く閉じる。
「あいつか」
衛兵が駆けつけ、ルティシアは再び走り出す。
少しばかり走った先で、行く手を阻むように、謁見の部屋にいた騎士が立ちはだかった。
「陛下がお呼びだ」
アーシュ……。
あなたが、国王陛下になっていただなんて……。
父が絶対的主君たる王を裏切って処刑され、次いで母と兄達が斬首されたと聞いて、ルティシアは、次は自分の番だと覚悟していた。
ところが、迎えに来た兵らに戦利品として、ルティシアも他の姉たちと一緒に王宮へ召し上げられることになった。
道中で姉と兵がこんなことを話していた。
「別邸に住まわせていたあの子まで、陛下の御前にお出しになりますの?」
「明確な理由もなく下手に隠し立てすると、我々が陛下よりあらぬ疑いをかけられることになる。案じずともそのような娘、お目に留まることはあるまい」
「万一、お気づきになられれば?」
「あのような見目では無論、気分を害されよう。その場で処分なさるやもしれんな。せいぜい、目立たぬようにさせておけ」
「では、陛下のお目に留まらぬ時はどうなさいますの?」
「家中にも貰い手はないだろうからな。陛下より特にご命令がなければ娼館行きだな。格安にはなるだろうが、目隠しでもしてれば客ぐらいとれるさ」
王宮へ着くと、彼女達は一室に入れられた。王の御前に出る為、身奇麗にするようにと命じられ、姉達の目に火がついた。
戦利品とはいえ、王に気に入られれば、側室として後宮入りも夢ではなくなる。後ろ盾も帰る家さえ失った彼女達にとって、まさしく絶好の機会だった。
姉達が屋敷からいくらか持ち出せた自分の荷物を漁る中、一人の姉が何かを思い出して、廊下にいる騎士を連れてきた。
部屋に戻ってきた姉は、開いた扉から顔を出す騎士に、ルティシアを指差して見せた。
「この子には町娘が着るような服を用意してくださいませ」
騎士は、嫌なものを見るような目でルティシアを一瞥した。
「そうだな。陛下のお目に留まるようなことがあっては一大事だ」
そんなに嫌なら、道中にでも置き去りにしてくれれば良かったのに。
聞いていない振りをしながら、ルティシアは胸中で呟いた。
姉達は早速手持ちの中から、それぞれが最も自分に映えるドレスに着替え、時間をかけて丁寧に化粧を施していく。その間に世話役の騎士が戻ってきて、ルティシアに町娘の普段着のような婦人服を手渡した。
支度を整えることに必死の姉達は、着替えの最中に男である騎士が出入りしようとお構いなしだ。そんな姉達を他所に、ルディシアは用意された衣服に着替えた。化粧道具は一応持ってはいたが、意味がないだろうから何もしなかった。
「部屋の隅で、顔を上げないように大人しくしていなさい」
「そうよ。この国をお救いくださった陛下に、決してお前の呪われた目を御見せしてはならないわ」
「分かっているわね、間違っても王に取り入るような真似だけはしないでちょうだい。お前が陛下の怒りを買って処刑されるのは当然のことでも、わたくし達を道連れにしたらお前を決して許さないわよ」
殺気立った姉達の威圧に、ルティシアは押しつぶされそうになって身を縮めた。
「はい、承知いたしております」
姉の言いつけは絶対だった。
つまり、姉妹にとって最良な結果は、ルティシアが王に気づかれぬままやり過ごし、姉が選ばれることだ。
あるいは、姉達に影響がない程度に王の怒りをかい、ルティシアだけ捕らえられ、牢獄に入れられ後日処刑。
娼館に送られて見知らぬ男の慰み者になるぐらいなら、ルティシアは後者を望む。けれどいざ、部屋で国王を迎えると、恐ろしくてならなかった。
なにせ王は、父と母、兄を処刑させたのだ。ルティシアを一目見て、切り捨てるかもしれない。
顔を上げないように。
気づかれないように。
息を殺して、壁に縋るように身を寄せた。
ところが王は予期せぬ行動に出た。
姉達や騎士の制止を振り切り、好奇心の赴くままにルティシアに近づいて、黒髪に紅い瞳を見た。
王は、誰もが異形と畏怖する彼女の髪や瞳を見ても、いささかも気に留めなかった。
しかも、四年前に屋敷で蛮行の限りを尽くした変態男が、国を救った新王となって、いきなり目の前に現れるなど夢にも思うわけがない。
驚きのあまり、ルティシアは姉の言葉を完全に失念し、つい本音を出てしまった。
そんな反応を、アージェスは以前と同じく楽しむばかりで意に介さず、気がつけばルティシアは彼に選ばれていた。余計なことをしてくれる。彼女達姉妹にとっては、決してあってはならない最悪の事態だ。混乱したルティシアは、とっさにその場から逃げ出した。
なぜ、私なの?
なぜ、私なんかを?
私の屋敷で侍女たちだけを相手にしたみたいに、お姉様達だけを選んでくれればいいのに。
私なんかを選んでどうするのよ?
今頃お姉様達は、烈火のごとく怒ってらっしゃるに違いないわ。
真っ先に選ばれた私を、きっと死ぬまで許してくださらない。
ああ、なんてことを。
部屋から逃げ出したルティシアは、王宮の中をでたらめに走っていた。
広い殿内の廊下は延々と続き、外へ出る通路さえ分からない。
どこをどう通ってきたのかさえ分からない。
「なにあの女、真っ黒な髪、気持ち悪い」
「それにあんな格好で王宮に入ってくるだなんて」
「誰かっ、この娘を摘まみ出してちょうだいっ」
周囲にいた女官たちが騒ぎ出す。
いつのまにか立ち止まっていたルティシアは、すぐに自分のことだと気づいて俯いた。
部屋の片隅から、突然現れた害虫でも見るような、突き刺さす視線に耐えながら、目を硬く閉じる。
「あいつか」
衛兵が駆けつけ、ルティシアは再び走り出す。
少しばかり走った先で、行く手を阻むように、謁見の部屋にいた騎士が立ちはだかった。
「陛下がお呼びだ」
アーシュ……。
あなたが、国王陛下になっていただなんて……。
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