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8話:魔王様はご趣味がちょっと……
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僕は円滑な人間関係を築くためににこにこ微笑んで魔王様を見上げていたけれど、あちらからは最初の一言以降なんの反応もない状態が続いた。
初めに見せていた冷ややかな瞳は、ちょっとだけ雰囲気を和らげてはいるけど、ただ見られているだけなのはどうしても居心地が悪い。
そっと魔王様から視線を逸らし、内心で首を傾げてどうアプローチしようかと頭を悩ませていると、目の端で闇が蠢いたような気がした。
何だろうと視線を流して見てみると、それは魔王様が羽織っているマントの一部だった。
表も裏も漆黒だったから、周りの闇に溶け込んでしまって見えなかったみたい。
ーーあれ、何故マントが揺れたのでしょうか?
思わず持ち主を見ると、彼は玉座から立ち上がり僕に向かって階段を降り始めているところだった。
無言のまま階段を下り僕の前に立った魔王様は、見上げるほどに大きい。
僕が年齢の割に小さい事を抜きにしても、圧倒的な体格差がそこにはあった。
「………………」
「………………」
お互いに無言で見つめあう。
え?これってどうすれば……と困惑していると、すっと魔王様の腕が持ち上がるのが見えた。
ーーもしかして今から対戦が始まるなんて言いませんよね?
何の準備もできないない僕が思わず身構えていると、彼はその腕を僕の背中へと回した。
「は?」と思う間もなく、ひょいっと抱き上げられる。
魔王様が何を考えているかなんて、初対面の僕にはさっぱり分からない。どう反応するのが正解なのかと、困ってしまった。
「あの……?」
「……お前は」
僕の困惑なんて素知らぬ顔で、ブーツのヒールをカツカツと鳴らして歩き始める。
「魔族の10の子供より小さく弱い。まずは身体を休めること、それがお前の今やるべきことだ」
十歳の子供より小さいって……。そんなに酷くはないと思うけどな、とちょっと唇を尖らせてしまう。
そんな僕の様子を見ていたのか、魔王様は口の端でふっと微かに笑った。
「お前は何もする必要はない。ただ自由に過ごしてくれれば、それでいい」
「何もする必要がない?でも目的があって呼んだのではないのですか?」
僕を魔界に連れてきた理由が分からなくて、身を捩って僕を抱える魔王様を見上げた。
魔界に行く気満々だったけど、相手の思惑が分からないのはやっぱり不安だ。
「………………人間界の奴らに何も聞いてはいないのか?」
さっき見せてくれた笑みは消え、金赤の瞳に鋭い光が宿る。
ああ、これはアレだ。迂闊に返事をしちゃうと、取り返しがつかなくなるヤツ………。
魔王様の目力の強さに、視線を逸らすこともできずに冷や汗がダラダラ流れる。
無言のまま固まっていると、彼は小さく息をついた。
「悪かった。お前を怖がらせるつもりはないのだ。許せ」
そう言うと、僕の額に唇を寄せた。
もう一度言うね。
僕の、額に、唇を寄せたんだよ!
何で!?
魔王様を上目づかいで凝視する。彼はそのまま止まることなく、僕の額に口付けを落したのだった。
え、だから、なんで!!?
魔王様はそのまま流れるように僕の頭に頬をすりっと擦り寄せた。
「お前の髪も瞳も、まだ何色にも染まっていない。美しい色のままだ。それが知れただけでも、お前に来てもらった甲斐がある」
「色?」
首を傾げると、サラリと髪が揺れる。視界に入る僕の髪は真っ白だ。
人間界において、老人の白髪以外に白い髪を持つ者はいない。ナットライム殿下も、この色味を『おぞましい』と毛嫌いしていた。
それを美しいと表現するなんて……。もしかして魔王様は……。
ーー物凄く趣味が悪……、いえ、特殊な趣味をお持ちなのかもしれません。
だから僕をわざわざ魔界に連れて来て、『見て満足』したから『あとは自由に』と言ったのかもしれない。
成る程、成る程。それなら納得できる。
うんうんと一人頷くと、僕は特殊な趣味をお持ちの魔王様に微笑んでみせた。
「魔王様のお気に召して頂けて嬉しいです。僕も魔王様の髪の色も瞳の色も大好きですよ」
うん、社交辞令って円滑な人間関係を築く上で必要だからね。
少ない話術の知識をフル活用して返事をしたのに、何故か魔王様は真顔になり歩く足を止め、瞬きを止め、何なら息も止めてしまった。
え、魔王様、息はしてくださいよ。
「………………………お前は……」
ポツリと言葉が落ちる。
「魔族である色魔よりタチが悪いな……」
すっごく深いため息をつかれた!何で!?
はわわと慌てる僕を、苦い笑みを浮かべながら見た魔王様は、その後はもう何も言わずに歩き始めてしまっていた。
無言なのは変わらないけど、もう始めに感じてた居心地の悪さは、いつの間にかすっかりなくなってしまっていた。
初めに見せていた冷ややかな瞳は、ちょっとだけ雰囲気を和らげてはいるけど、ただ見られているだけなのはどうしても居心地が悪い。
そっと魔王様から視線を逸らし、内心で首を傾げてどうアプローチしようかと頭を悩ませていると、目の端で闇が蠢いたような気がした。
何だろうと視線を流して見てみると、それは魔王様が羽織っているマントの一部だった。
表も裏も漆黒だったから、周りの闇に溶け込んでしまって見えなかったみたい。
ーーあれ、何故マントが揺れたのでしょうか?
思わず持ち主を見ると、彼は玉座から立ち上がり僕に向かって階段を降り始めているところだった。
無言のまま階段を下り僕の前に立った魔王様は、見上げるほどに大きい。
僕が年齢の割に小さい事を抜きにしても、圧倒的な体格差がそこにはあった。
「………………」
「………………」
お互いに無言で見つめあう。
え?これってどうすれば……と困惑していると、すっと魔王様の腕が持ち上がるのが見えた。
ーーもしかして今から対戦が始まるなんて言いませんよね?
何の準備もできないない僕が思わず身構えていると、彼はその腕を僕の背中へと回した。
「は?」と思う間もなく、ひょいっと抱き上げられる。
魔王様が何を考えているかなんて、初対面の僕にはさっぱり分からない。どう反応するのが正解なのかと、困ってしまった。
「あの……?」
「……お前は」
僕の困惑なんて素知らぬ顔で、ブーツのヒールをカツカツと鳴らして歩き始める。
「魔族の10の子供より小さく弱い。まずは身体を休めること、それがお前の今やるべきことだ」
十歳の子供より小さいって……。そんなに酷くはないと思うけどな、とちょっと唇を尖らせてしまう。
そんな僕の様子を見ていたのか、魔王様は口の端でふっと微かに笑った。
「お前は何もする必要はない。ただ自由に過ごしてくれれば、それでいい」
「何もする必要がない?でも目的があって呼んだのではないのですか?」
僕を魔界に連れてきた理由が分からなくて、身を捩って僕を抱える魔王様を見上げた。
魔界に行く気満々だったけど、相手の思惑が分からないのはやっぱり不安だ。
「………………人間界の奴らに何も聞いてはいないのか?」
さっき見せてくれた笑みは消え、金赤の瞳に鋭い光が宿る。
ああ、これはアレだ。迂闊に返事をしちゃうと、取り返しがつかなくなるヤツ………。
魔王様の目力の強さに、視線を逸らすこともできずに冷や汗がダラダラ流れる。
無言のまま固まっていると、彼は小さく息をついた。
「悪かった。お前を怖がらせるつもりはないのだ。許せ」
そう言うと、僕の額に唇を寄せた。
もう一度言うね。
僕の、額に、唇を寄せたんだよ!
何で!?
魔王様を上目づかいで凝視する。彼はそのまま止まることなく、僕の額に口付けを落したのだった。
え、だから、なんで!!?
魔王様はそのまま流れるように僕の頭に頬をすりっと擦り寄せた。
「お前の髪も瞳も、まだ何色にも染まっていない。美しい色のままだ。それが知れただけでも、お前に来てもらった甲斐がある」
「色?」
首を傾げると、サラリと髪が揺れる。視界に入る僕の髪は真っ白だ。
人間界において、老人の白髪以外に白い髪を持つ者はいない。ナットライム殿下も、この色味を『おぞましい』と毛嫌いしていた。
それを美しいと表現するなんて……。もしかして魔王様は……。
ーー物凄く趣味が悪……、いえ、特殊な趣味をお持ちなのかもしれません。
だから僕をわざわざ魔界に連れて来て、『見て満足』したから『あとは自由に』と言ったのかもしれない。
成る程、成る程。それなら納得できる。
うんうんと一人頷くと、僕は特殊な趣味をお持ちの魔王様に微笑んでみせた。
「魔王様のお気に召して頂けて嬉しいです。僕も魔王様の髪の色も瞳の色も大好きですよ」
うん、社交辞令って円滑な人間関係を築く上で必要だからね。
少ない話術の知識をフル活用して返事をしたのに、何故か魔王様は真顔になり歩く足を止め、瞬きを止め、何なら息も止めてしまった。
え、魔王様、息はしてくださいよ。
「………………………お前は……」
ポツリと言葉が落ちる。
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すっごく深いため息をつかれた!何で!?
はわわと慌てる僕を、苦い笑みを浮かべながら見た魔王様は、その後はもう何も言わずに歩き始めてしまっていた。
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