“絶対悪”の暗黒龍

alunam

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第31話 学術都市への旅の始まりと

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 今日も馬車に揺られてのどかな旅路だ
村を出発して3日目、学術都市までやっと半分の道のりに達した所らしい
 道中これといった事もなく3台の馬車は車輪の音をたてながらのんびり道を進んでいる
 ……そう、何事もなくだ

 「……と、いう訳で押さば引かれ、引かば悲しそうな……でもホッとした様な顔になるんだよ。どうすればいいと思う、にいさん?」

 「う~ん、まさかあのユウメが……確かに修行一辺倒で異性の異の字も無かったから、アンコウ君を連れて来たと聞いた時は驚いたもんだが……その、ヘタレだったとは……意外だよ」

 「だよね!ユウメと知り合ってそんな時間の経ってない俺だけど、まさか肩を抱いただけで逃げられるとこう……どうしたらいいもんかと……」

 「確かに、あれだけ分かりやすく狼狽えられてしまうと、男としてそれ以上進むと罪悪感に苛まれるよね……」

 「なんですよ!俺としては夫婦となった以上は堂々と!……まぁ馬車旅の集団行動中ですから、最後までは我慢するとして……もっと、こう……新婚のスキンシップを期待しても犯しくないと思うんですよ!

 「なんか響きがおかしい気もするけど、男なんだから当然だよ!僕だって妻と知り合った時にはそりゃあ!」

 「その話kwsk!」

 新婚3日目とも言える今日、俺とユウメに進展はない。そう、全くないのである!……泣いていいよね?
 ヒロインに迫られヘタレる主人公は様式美テンプレートだが、まさかヒロイックなユウメまでそのテンプレにハマるとは思っていなかった
 
 確かに今は、商人であるにいさん率いる商隊員の3名に護衛の数が6名の合計10名
 それに俺、アンリ、ユウメ、オミ、エルナの5人が加わり合計15名の大所帯のパーティは夜営等もあり、24時間ほぼ行動を共にしている
 二人きりになる時間もほぼほぼ限られている現状、初夜を……なんて事までは考えていない、もう少し先の話にする位は我慢している

 問題は、まだキスすら……肩や腰に手を回して抱き寄せるだけで、戦術級の体術を駆使して逃げられてしまう事だ!
 無理矢理なんて趣味じゃないので諦めると、どこかシュンとした表情になりちょっとガッカリした表情にも見えるので……一回、本気で迫ったら「うわあぁぁぁん///」と泣きながら逃げられた
 ……泣きたいのはこっちだし、ムード位演出したい俺だが、なんせ相手は戦術級ゴールド!人間時ならこちらも本気で掛からないと触る事すら出来ないのである……

 チートフィジカルで自信のある俺でも惚れた女に泣かれては、普通の凡人メンタルの方がベッキベキに心折られてしまったのでこうして先輩に相談している最中だ

 「……と、いう訳であの手この手で時には商人らしく財力も駆使して二人きりの夜景を窓から眺めてた時には頭の中で『今ですッ!!』って思ったもんだよ」

 「諸葛亮にいさん流石だな!俺も孔明の罠を張りたいんだけど何がいいと思うかな?」

 「そうだねぇ、ユウメは金銭じゃ靡かないからねぇ……大姉さんが病気になった時も、当然僕ら家族が援助しようとしたんだけど……彼女も戦術級シルバーだった時の腕前で高額な薬代は自力で稼いでたからね」

 「それじゃ俺やオミは必要なかったですかね?」

 「そんな事はないよ!薬と言っても治療する物じゃなかったんだ……そして治療するには高位神官クラスの力が必要だったんだけど……戦術剣士であるユウメや大姉さん、我々商人も信じるのは己の才覚と腕だけだ。宗教家に伝手のない我々は唯でさえ有名な大姉さんとユウメの足元を見られて……用意するのに時間の掛かる程の額を要求されてね……」

 成る程、困った時の神頼みに行ったら足元を見られてふっかけられたから、高額な依頼である暗黒龍討伐の依頼を受けたって訳だ
 そいつ等が適正価格で診療してたら俺達は出会っていなかったかもしれない事を考えると、感謝してやっても良い事だが当時の関係者にとっては憤慨する思いがあったのだろう

 「勿論、僕達にとっても大姉さんは大事な家族だ。お金を必死に工面していた所に、君達の登場で大姉さんが完治したんだ!アンコウ君やオミさんには感謝してもし足りない位だよ!」

 「俺達にとっても当然の事をしただけだから、感謝される事はしてませんよ」

 「それだけじゃないよ、故郷の危機と不作に苦しむ経済の危機も救ってくれたんだよ!商人としてその手助けが出来る活躍の場も僕にくれたんだ、本当にありがとう!」


 白い歯を輝かせながら満面の笑みのにいさんのイケメンオーラは凄いが、妬みがでる前に心に届く
 今では相談出来る唯一の同年代の男同士、すっかり仲良くなったもんだ

 にいさんの部下である商隊員3名中1名は女、2名は丁稚の少年と少女である。女の人は秘書で奥さんでは無い様だ、まだ産まれたばかりの娘がいるので育児にかかり切りなのだそうだ
 護衛の6人はエルナと先頭の馬車で哨戒しながら先導を行い、目の良いエルナが自ら志願して歩哨も参加している

 俺は真ん中の一番大きな馬車に乗り御者をしているにいさんの隣で会話、アンリと丁稚の少女は仲良くお昼寝中である

 最後尾の馬車に丁稚の少年が御者をして、ユウメとオミに秘書の女の人が乗っている
 偏っているが戦術級ゴールドの二人がいるので前面にだけ注意を払ってて貰う形で何事もなく平和な旅路が続いている

 「話が逸れちゃったけど、ユウメ自身妻である事は受け入れてるんだから後は覚悟の問題……やっぱり二人きりになって落ち着いてからじゃないかな?もうそろそろ中間地点の村に到着するから、今日はそこで積み下ろし等あって一泊するからその時がチャンスだよ。アンリちゃんやオミさん達はこっちで上手く引き留めておくよ」

 「にいさん素敵!抱いて!」

 頼れるイケメンのお蔭で危ない道へと進んでしまいそうだが、それ以上にあの戦術級のヘタレの対策を張り巡らさねばならん……
 にいさんが孔明なら、俺は仲達だ!慌てず騒がず、確実に仕留めねばならんのだ!


 「親方様!皆様!大変です!!」

 歩哨から戻って来たのか、エルナが俺達目掛けて走って来ている……スゲー嫌な予感がする

 「物見に出ていた所、目的の村から火の手があがっていました!喧騒も聞こえ、賊の襲撃を受けている様です!」

 おいぃ!折角のチャンスを台無しにしてんじゃねぇよ賊ッ!!何なの!?待て慌てるな、これは孔明の罠なの!?言った傍からなんでフラグ回収してんの!?

 「クソッ!何てことだ!あそこには我々の商売相手もいるんだ、助けに行く必要もある!危険だが向かう必要がある……」

 「分かった、俺達で先行する!にいさん達はこのままの速度で追って来てくれ!!」

 「済まない!アンコウ君頼んだ!」

 怒り心頭だが、そうも言っていられない
しかし、あえて言おう!俺の恋路を邪魔する賊は、俺に撃たれて地獄に堕ちろッ!今の俺は嫉妬で人が殺せる司馬懿の奥さん、張春華を凌駕する存在だっての!
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