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Episode01
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陽が暮れてきた時間帯。私の自宅である室内には私を入れて四人の少女がいた。
この集まりプラス一人を入れた五人の中でリーダーを務めることになった18歳の私ーー長月空は部屋を見回した。
よくもまあこんなダメ人間ばかりが集まったものだと感心してしまう。
「ねえ、愛はいつ帰るって言ってた? あと、床の掃除まだだからせめて座りなよ?」
男子高校生が好きそうなヤンキー漫画を読みながら、床にだらしなく寝そべったガタイの良い少女ーー荒切刹那に向かって声をかける。
刹那は178cmと女性にしては大柄で、筋肉もあり、ボサボサの短髪をしていて、その鋭い眼光からよく怖いひとだと勘違いされる。
実際に暴力沙汰で高校を退学したし、間違っちゃいないんだけど……事実はいじめられっ子を助けるために暴力を振るったのだ。
「はー? いや、あたしは知らないよ。愛のことならそこで涎垂らしてるしゃぶしゃぶにでも訊けよ」
刹那は適当に返事をして、ごろんと寝返りを打つ。
しゃぶしゃぶーー御薬袋藍は、呼ばれたのに目をトロンとさせて口から涎を垂らしたまま反応しない。
ソファーにだらしなく座り込むその姿は、このひとの内面を知らないひとが見たらびっくりするだろう。
私たちの中で唯一高校を卒業しており、140cmほどの小さな背丈で小さな唇、黒髪姫カットで愛らしい姿をしている。
今はなにか薬物をキメているため目がトロンとして半開きだが、普段はパッチリ二重に大きな瞳で、御薬袋藍にこんな愛らしい容姿を与えた神様は本当に不公平だと思う。
「藍さん! おーい……藍! 覚醒剤キメてないで返事してください!」
「そこの御薬袋藍が決めてるのは多分モルヒネ類だろ。目が蕩けてるし、シャブならむしろガンギマリなはずだよ」
「どうでもいいわよそんなこと! だいたい愛はなんでこんなひと仲間に入れたの!?」
「あうー……まぁぃ……」
「お願いだから日本語を喋ってください!」
藍さんはなにか喋ろうとしたがすぐに言葉を詰まらせた。
藍さんはこの中では一番年上で、現在19歳だ。17歳の私のほうが年下なのに、ついつい藍さん相手だと丁寧語を忘れてしまう。
と、カタカタと藍の隣でノートパソコンを弄っていた少女ーー半情七夏が指を止めた。
七夏は常時眠そうな瞳をこちらに向ける。
「愛ちゃん、もう帰ってくるよ……」
ボサボサ髪で化粧っけのない彼女は、すぐにまた指を動かし始める。彼女は高校に入った瞬間から不登校になり中退したのだ。
愛はどこからこの子の存在を知ったんだろ?
そんなことを考えていると、玄関が開きドタドタと部屋まで足音が響いてきた。
ガチャリと部屋の扉が開く。
「たっだいま~! みんなの愛ちゃんただいま帰還!」
ツインテールの香色をした髪の明るい少女ーー嵐山愛がウインクしながら部屋に入ってきた。
「愛! 遅いじゃない。どう、仕事は取れた?」
愛は、あまり人との関わりが得意ではない私たちの代わりに、他人との交渉役を務めてくれている。
といっても、この集まりが結成されたのはごく一ヶ月前。
愛がバイトに明け暮れている私に『学校なんかやめて一山当てようぜ、きらりんっ!』と誘ってきたのに騙され学校をやめ、そのときに聞いた仕事内容ーーなんでも屋ーーに暴力が必要だと考え、力持ちの噂がある退学させられた刹那を誘い三人組へ。
しかし仕事を受けようにも情報がないことに悩んでいたところ、愛が七夏を連れてきた。
そして半月前に突然、愛が『かわいいから!』と藍を連れてきて五人になったのだ。
だから、実はまだ何の仕事もしておらず実績も0だ。
このままでは亡くなった両親の少ない貯金も底を尽きてしまう。
愛は『まずは裏社会にコネをつくらなきゃいけないフェイズ!』と言っていたが、そろそろみんな我慢の限界だろう。
藍を除けば、みんな高校を中退して引きこもりやニートとして暮らしてきて、だからといって、まともなバイトはできる気がしないダメ人間の集まりだ。
だから愛が提示した『自由な仕事でお金うはうは』と言う言葉に騙されてしまった。
「そんな渋い顔しちゃ綺麗な顔が台無しだぞ?」
「うるさい。仕事はどうなのよ?」
「じゃじゃーん! 初仕事!」と、愛は物騒な顔をした男が映った写真を見せてきた。
顔面の半分にタトゥーを掘った色黒スキンヘッドの男だ。
「これはなんだよ?」
刹那が写真を見て問う。
「今回はこのひとーー黒河学を捕まえて連れてきたら100万だって! 一人頭20万の仕事!」
「え……捕まえろって……」
「だから、このひとをぼこぼこにして縛って連行するの!」
いきなりダークな仕事になってきた。
こんなときのために刹那を誘ったけど、刹那で勝てるかな……。
「居場所は? こいつはなにやらかしたの?」
だけど、刹那はやる気なのか色々と質問をする。
「わかんにゃーい。渡されたのはこれだけなのだ!」
「は?」「はい?」「ぁぃ~……」
私と刹那と、おまけで藍の声が被る。
「そんなんでどうやって探すんだよ。だいたい、あたしはなにも悪さしてねー奴は殴りたくないからな?」
「まっまっ、そこはね? みんなで協力しようじゃないかっ! この街にいるってことだけはわかってるんだから。繁華街とかで探そう」
明るさだけでカバーされても……。
ここはベッドタウンだから人通りは少ないが、繁華街のほうに出ると結構人混みで賑わっているのに。
「うっっ……!」
急に藍さんが鈍い声を上げると、冷や汗をだらだら流し始めた。
「藍さん? どうかしましたか?」
「あっわかった!」愛は藍さんのポケットや私物の鞄を漁りはじめる。「まずいよ藍ちゃん!」
「え?」
「モルヒネもうないよ!」
「知らんわ!」
心配してすっごく損した気分。
「か、鞄の中に覚醒剤あるから……えと、あと大麻も……」
「マリファナとシャブね!」
愛は藍さんの鞄から、透明な氷のような結晶が入っている小さな6cm四方のチャック付きビニール袋ーーパケと、煙草のような物を取り出し愛に渡す。
「ああ、ああ、痛い! 暑い! 寒い!」
藍さんは急いで覚醒剤を砕くと、注射器の中に覚醒剤を入れ、ふらふらな足取りで水を汲みに行った。
「あいつ、やべーだろ。なんであんなしゃぶしゃぶ連れてきたんだよ」
刹那は当然の疑問を愛にぶつける。
「だってかわいいじゃん? かわいいは正義なのだ! そ・れ・に……薬が入ってるとやらせてくれるもんねぐへぐへっ……」
「……はぁ」
そうだ、こいつもこいつで変態なんだった。
未来ない若者を集めて、自身も中退してまでやりたかったことなのかな、これがーー。
「はぁはぁ……シャブはモルヒネやヘロインの離脱症状を若干軽くしてくれる……マリファナも痛みを鈍くする」
さっきとはうって変わった藍さんはハキハキと喋り出した。
「じゃあ、もう仕方ないからこの仕事をどうするか、話をしましーー」
「おべぇっ!? おっぷげぇーろげぼぼっぶっ……ぶびょげぇっ!?」
藍は口を手で抑えたかと思うと、口からゲロが噴出し手のひらを経由して大量の吐瀉物が地面に流れ落ちた。
「ま、まあ、たまにあれだけどかわいいところもあるんだにゃん!」
「……片付けてくださいね」
私は冷ややかな目線を送りつつ、こんなメンバーで裏社会の仕事が務まるのか、いまから不安になるのだった。
陽が暮れてきた時間帯。私の自宅である室内には私を入れて四人の少女がいた。
この集まりプラス一人を入れた五人の中でリーダーを務めることになった18歳の私ーー長月空は部屋を見回した。
よくもまあこんなダメ人間ばかりが集まったものだと感心してしまう。
「ねえ、愛はいつ帰るって言ってた? あと、床の掃除まだだからせめて座りなよ?」
男子高校生が好きそうなヤンキー漫画を読みながら、床にだらしなく寝そべったガタイの良い少女ーー荒切刹那に向かって声をかける。
刹那は178cmと女性にしては大柄で、筋肉もあり、ボサボサの短髪をしていて、その鋭い眼光からよく怖いひとだと勘違いされる。
実際に暴力沙汰で高校を退学したし、間違っちゃいないんだけど……事実はいじめられっ子を助けるために暴力を振るったのだ。
「はー? いや、あたしは知らないよ。愛のことならそこで涎垂らしてるしゃぶしゃぶにでも訊けよ」
刹那は適当に返事をして、ごろんと寝返りを打つ。
しゃぶしゃぶーー御薬袋藍は、呼ばれたのに目をトロンとさせて口から涎を垂らしたまま反応しない。
ソファーにだらしなく座り込むその姿は、このひとの内面を知らないひとが見たらびっくりするだろう。
私たちの中で唯一高校を卒業しており、140cmほどの小さな背丈で小さな唇、黒髪姫カットで愛らしい姿をしている。
今はなにか薬物をキメているため目がトロンとして半開きだが、普段はパッチリ二重に大きな瞳で、御薬袋藍にこんな愛らしい容姿を与えた神様は本当に不公平だと思う。
「藍さん! おーい……藍! 覚醒剤キメてないで返事してください!」
「そこの御薬袋藍が決めてるのは多分モルヒネ類だろ。目が蕩けてるし、シャブならむしろガンギマリなはずだよ」
「どうでもいいわよそんなこと! だいたい愛はなんでこんなひと仲間に入れたの!?」
「あうー……まぁぃ……」
「お願いだから日本語を喋ってください!」
藍さんはなにか喋ろうとしたがすぐに言葉を詰まらせた。
藍さんはこの中では一番年上で、現在19歳だ。17歳の私のほうが年下なのに、ついつい藍さん相手だと丁寧語を忘れてしまう。
と、カタカタと藍の隣でノートパソコンを弄っていた少女ーー半情七夏が指を止めた。
七夏は常時眠そうな瞳をこちらに向ける。
「愛ちゃん、もう帰ってくるよ……」
ボサボサ髪で化粧っけのない彼女は、すぐにまた指を動かし始める。彼女は高校に入った瞬間から不登校になり中退したのだ。
愛はどこからこの子の存在を知ったんだろ?
そんなことを考えていると、玄関が開きドタドタと部屋まで足音が響いてきた。
ガチャリと部屋の扉が開く。
「たっだいま~! みんなの愛ちゃんただいま帰還!」
ツインテールの香色をした髪の明るい少女ーー嵐山愛がウインクしながら部屋に入ってきた。
「愛! 遅いじゃない。どう、仕事は取れた?」
愛は、あまり人との関わりが得意ではない私たちの代わりに、他人との交渉役を務めてくれている。
といっても、この集まりが結成されたのはごく一ヶ月前。
愛がバイトに明け暮れている私に『学校なんかやめて一山当てようぜ、きらりんっ!』と誘ってきたのに騙され学校をやめ、そのときに聞いた仕事内容ーーなんでも屋ーーに暴力が必要だと考え、力持ちの噂がある退学させられた刹那を誘い三人組へ。
しかし仕事を受けようにも情報がないことに悩んでいたところ、愛が七夏を連れてきた。
そして半月前に突然、愛が『かわいいから!』と藍を連れてきて五人になったのだ。
だから、実はまだ何の仕事もしておらず実績も0だ。
このままでは亡くなった両親の少ない貯金も底を尽きてしまう。
愛は『まずは裏社会にコネをつくらなきゃいけないフェイズ!』と言っていたが、そろそろみんな我慢の限界だろう。
藍を除けば、みんな高校を中退して引きこもりやニートとして暮らしてきて、だからといって、まともなバイトはできる気がしないダメ人間の集まりだ。
だから愛が提示した『自由な仕事でお金うはうは』と言う言葉に騙されてしまった。
「そんな渋い顔しちゃ綺麗な顔が台無しだぞ?」
「うるさい。仕事はどうなのよ?」
「じゃじゃーん! 初仕事!」と、愛は物騒な顔をした男が映った写真を見せてきた。
顔面の半分にタトゥーを掘った色黒スキンヘッドの男だ。
「これはなんだよ?」
刹那が写真を見て問う。
「今回はこのひとーー黒河学を捕まえて連れてきたら100万だって! 一人頭20万の仕事!」
「え……捕まえろって……」
「だから、このひとをぼこぼこにして縛って連行するの!」
いきなりダークな仕事になってきた。
こんなときのために刹那を誘ったけど、刹那で勝てるかな……。
「居場所は? こいつはなにやらかしたの?」
だけど、刹那はやる気なのか色々と質問をする。
「わかんにゃーい。渡されたのはこれだけなのだ!」
「は?」「はい?」「ぁぃ~……」
私と刹那と、おまけで藍の声が被る。
「そんなんでどうやって探すんだよ。だいたい、あたしはなにも悪さしてねー奴は殴りたくないからな?」
「まっまっ、そこはね? みんなで協力しようじゃないかっ! この街にいるってことだけはわかってるんだから。繁華街とかで探そう」
明るさだけでカバーされても……。
ここはベッドタウンだから人通りは少ないが、繁華街のほうに出ると結構人混みで賑わっているのに。
「うっっ……!」
急に藍さんが鈍い声を上げると、冷や汗をだらだら流し始めた。
「藍さん? どうかしましたか?」
「あっわかった!」愛は藍さんのポケットや私物の鞄を漁りはじめる。「まずいよ藍ちゃん!」
「え?」
「モルヒネもうないよ!」
「知らんわ!」
心配してすっごく損した気分。
「か、鞄の中に覚醒剤あるから……えと、あと大麻も……」
「マリファナとシャブね!」
愛は藍さんの鞄から、透明な氷のような結晶が入っている小さな6cm四方のチャック付きビニール袋ーーパケと、煙草のような物を取り出し愛に渡す。
「ああ、ああ、痛い! 暑い! 寒い!」
藍さんは急いで覚醒剤を砕くと、注射器の中に覚醒剤を入れ、ふらふらな足取りで水を汲みに行った。
「あいつ、やべーだろ。なんであんなしゃぶしゃぶ連れてきたんだよ」
刹那は当然の疑問を愛にぶつける。
「だってかわいいじゃん? かわいいは正義なのだ! そ・れ・に……薬が入ってるとやらせてくれるもんねぐへぐへっ……」
「……はぁ」
そうだ、こいつもこいつで変態なんだった。
未来ない若者を集めて、自身も中退してまでやりたかったことなのかな、これがーー。
「はぁはぁ……シャブはモルヒネやヘロインの離脱症状を若干軽くしてくれる……マリファナも痛みを鈍くする」
さっきとはうって変わった藍さんはハキハキと喋り出した。
「じゃあ、もう仕方ないからこの仕事をどうするか、話をしましーー」
「おべぇっ!? おっぷげぇーろげぼぼっぶっ……ぶびょげぇっ!?」
藍は口を手で抑えたかと思うと、口からゲロが噴出し手のひらを経由して大量の吐瀉物が地面に流れ落ちた。
「ま、まあ、たまにあれだけどかわいいところもあるんだにゃん!」
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