前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(改正版)

砂風

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第一章/葉月瑠衣

Episode08/(2/4).友達(前)

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(27.)
 瑠衣のほかにも既に二人ーー三年の図書委員の男の先輩と、二年の同級生の女子がいた。
 せっかく来たんだからと僕も手伝うことにした。

 ただ、僕含め四人いるのに三人での作業になってしまっているんだけど……。

「葉月瑠衣さん? 来てくれるのは嬉しいんだけどさ、毎回毎回寝てるだけなのやめようよ」

 同級生の女子が瑠衣の肩を叩きやんわり叱る。
 瑠衣はなんと図書室の貸し出しテーブルの椅子に座るなり、テーブルにうつ伏せになり寝始めてしまったのだ。

 それには僕も文句を呈したい。
 図書委員の仕事があるからと連れて来られたのに、肝心の本人は寝てしまっているじゃないか。

 何にもしないならそもそも図書室に来る意味がない。

「それより、杉井と葉月さんの妹って知り合いだったんだ? どういう関係? 葉月さんが教室に来て杉井を連れて行ってる場面も見てたけど、葉月さんのクラスに行ってたの?」

 ……?
 え、僕の名前知ってるの?

「いやちょっと待って? もしかして杉井さ? 同じクラスメートの名前覚えてないの?」
「え、あ、いや、ちょっと待って……」

 クラスメートの中で宮下と裕璃以外普段から全く関わりが無さすぎて、名前を記憶しているクラスメートが半分に満たないとは言いにくい。
 でも、なんだかうっすら覚えがある。

「あ、蒼井(あおい)さんだ! 蒼井碧(あおいあお)さん!」

 クラスの名簿欄で二番の赤羽裕璃より上に書かれている蒼井さんだった。
 蒼井さんは頭を掻いて長い髪を揺らし、ため息を溢す。

「あのさ、仲良くしろとは言わないよ? でも最低限同級生の顔と名前くらいは覚えようよ。せっかく同じクラスになった仲間なんだし」
「ご、ごめん……」

 結構当たりがキツイ。

「まっ、葉月さんの妹の代わりに働いてくれるのは素直に助かるよ。ありがと」

 蒼井さんはカウンター奥の部屋に手招きして僕を呼ぶ。
 素直に従い僕も奥の部屋に入る。

 上級生の男子が中に先に入っており、室内のテーブルに置かれた本を僕に示した。
 
「本来なら葉月くんがやるべき仕事なので申し訳ないが、ここに積んである返却された本を棚に戻すのを手伝ってくれ。漫画はこの部屋の棚にしまうが、それ以外の本は外だ。棚の場所は背表紙を開くと番号が書いてあるから、それを見ながら頼む」
「はい、わかりました」

 漫画はどうして隔離されているんだろう?

 まあいい。
 そもそも毎回こうなんだろうか?

 もしかして、瑠衣は楽そうだからと入ったものの、放課後残る日があるだなんて……みたいな流れで図書委員になったのかもしれない。
 とりあえず、僕は積まれた本を一気に運ぼうとーー男時代の筋力で計算して持っていこうとしたせいで、思わぬ重さに本を崩して散らばらせてしまった。

「杉井、あんたそんな華奢な女の子になってるんだから無理しちゃダメでしょ。なんかこう……普段から違和感はあったけどさ。男子トイレに入ろうとしたり」

 見られていた……。
 いや、だってまだ女の子になって僅かだよ?
 なかなか慣れないよ。

 蒼井さんに拾うのを手伝ってもらう。
 と、蒼井さんのポケットからなにかが転がり落ちた。
 じゃらじゃら音を鳴らしているーー錠剤入りの薬の瓶?
 ああ、風邪薬か。

 なぜか蒼井さんは焦った表情を浮かべ、慌ててそれを拾いポケットに押し込む。

「別にメンヘラとかじゃなくて飲まないとやる気出ないと言うかでも毎日でも量はセーブしてるし問題ないから誰にも言わないで」
「ちょ、ちょっと待って。別に風邪くらい誰でもひくし、一々言わないよ。蒼井さん?」

 蒼井さんは妙に早口で意味がよくわからないことを捲し立ててきた。
 冷や汗まで流している。
 どういうこと?

 ただ、僕がそう言うとなにかにホッとしたのか、表情から焦りが消えた。

「そうそう咳が酷くて。でも一応誰にも言わないでよ?」
「? うん、わかった」
「あと、クラスメートにさん付けなくていいからさ。蒼井でいいよ」
「それは抵抗感があると言うか……」

 自分でもよくわからないけど、瑠璃に対しては会った日に葉月と呼び捨てにし始めたし、今なんて名前呼びだけど。
 なんだろう……瑠璃とはすぐに親しい関係を築けたんだよな。

 でも初対面じゃないうえ、今までクラスメートだったのに話したことのない女子相手に、いきなり呼び捨ては逆に抵抗感を覚えてしまう。 

「異能力者になっちゃったのは悲劇かもしれないけど、女の子になった事実は変えられないんだし、せっかく可憐な容姿になれたんだから、少しはクラスメートとの仲の輪を広げていくべきじゃないかな?」
「う、うーん……わかった。蒼井さ、蒼井」
「うん。あと咳止め薬のことは絶対に誰にも言わないで」

 妙に風邪薬を言うなと強調してくるなぁ。
 咳が酷いのがバレたくないんだろうか?
 咳が酷くてーーってことは風邪じゃない。

 咳止め薬とも言っていた。
 毎日飲むけど云々言っていた事から、蒼井には持病かなにかがあるけど、周りには隠してて知られたくないのかな?

 再三頷き、『絶対に喋らない』と蒼井と約束を交わした。
 床に落とした本を集め終わり、無理のない量を両手で抱え、蒼井さんと共に本棚に戻しに行った。



 20分くらい経った頃、棚に本を戻しながら、漫画を読みに来ている不良風の上級生の生徒二人が話しているのを偶然耳にした。

 それは、最近あまり気にしていなかったひとに関係する話題。
 しかし、同時に僕にも深く関係のある話だった。

「おまえは行かねーのか? 金沢のヤツ、誰でもやりたきゃやらせてやるから来いって言ってたじゃん」
「あー、金沢の彼女(おんな)だろ? バカだろあの子、赤羽だっけ? 金と顔しかねーヤツに騙されてよ。結局きょう、みんなにまわされるんだろ。金沢も酷ぇヤツだな。金があればなんだってしていいわきゃねーのに」
「でもアイツ二人孕ませてんのに停学や退学になってねーよな? むしろ元カノが二人とも学校やめただろ?」

 ーーえ、赤羽?
 ーー金沢の彼女の赤羽って……まさか、赤羽裕璃のこと!?
 みんなにヤられるって、まさか、そんな……。

 気になってしまい、男たちの話に耳を傾ける。 

「そうそう。そろそろまわされている時間だろ。おー可哀想に、誰の子かわからねー赤ちゃん孕まされるかもな。俺にゃ無理だね」
「俺も無理だわ。みんなしてあそこおっ立ててる臭い場所になんて入りたくねーわ。男の人数増えたらもはやホモ会場だろ」
「そっちかよ。ぎゃはは!」

 ーーま、まま、まわされる!?

 さすがに無視できない。
 いくらもう気にならなくなったからといって、幼なじみを無視することなんて不可能だ。
 だって、だって幼馴染みとして過ごしてきた思い出は今だってあるんだ。

 僕はいきなりの事態に混乱しながら、上級生たちの話に割って入った。

「すみません! それどこの部屋でやってるんですか!?」
「は? おまえも混ざーーって女子じゃねぇか」

 不良みたいな姿をした二人組の片方に問いかけてしまった。

「女は関係ねーだろ? ましてやおまえ、多分そのなりじゃ一年……いや二年か」

 上履きの色を確認した上級生はそう呟く。

「もしもヤりたいんだったら、俺たちとヤろうぜ? 金沢なんて親父と姉貴の腰巾着の金だけアマチャンだからさ」
「……いえ、違います。と、とにかく、教えてくれませんか?」教えてもらうには、やってみるしかしかない!「お願いします」

 瑠衣みたく上目遣いで頼んでみた。
 なるだけ可愛さを醸し出すように、低姿勢で。

「は? 知らねーよ。あっちいけーー」
「知りたいならいいぜ。ほらあそこ、こっから上がって三階の端に第一特別室があるだろ? 普段使われてない部屋。あそこの鍵、金沢がパクって使ってるらしいからさ」片方の不良が僕の髪を弄る。「それよりきみ、かわいいね~、本当。今の彼女振って付き合いたいくらいかわいいわ」

「ロリコンかよてめぇ。つか、教えたことが金沢にバレたらウゼーことになるだろ?」
「ちっげぇよ。見た目ロリだけど、身体も心も実年齢は高校生だぜ? 失礼なのはそっちだろ? なあハニー、今度デートしない?」

 やたらと不良の片方が熱心にアピールしてくる。
 でも、こちとらコイツらに対しては微塵たりとも興味ない!

「あ、あはは……ありがとうございます。でも僕、用事ができたので……」

 なにがハニーだ!
 ハニートーストでも頬張ってろ!
 あと、身体は高校生じゃないです。そこはすみません先輩Bさん。

 僕は苦笑いを浮かべて感謝を述べると、急いで三階へ向かうことにした。

「ん? なにかあったの?」

 蒼井が訊いてきたが……。

「ごめん! ちょっと第一特別室に行ってくる! あっ、ここにある箒借りてくねっ!」
「あ、ちょっと!」

 僕は蒼井の返事を待たずして、なにも考えずに図書室から飛び出し三階へと向かった。

 そう、なにも考えず……教師を呼ぶなどもっと良い対処法はあったと思うのに……。
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