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第三章

幸せのカレー1

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 午後のクリニックの休憩室には、ちょっとした嵐が訪れていた。
 いきなり休診になったことを不審に思ったスタッフが次々に集まった。そして顛末を聞いたスタッフは口々に山本さんを
 芽衣さんは「わたしだって頼りないかもしれないけど、ちょっとだけでも力になれたかもしれないのに」と唇を尖らせ、ゲンキくんは「どうして言ってくれなかったんですか!」と詰め寄り、悟先生は「ひとりでつらかったんだねぇ」と肩をたたき、晴美さんは目に涙を浮かべて無言で山本さんを抱きしめた。
 山本さんはここでも号泣しながら、みなからのいたわりを一身に受けた。当たり前だが、誰も山本さんと働き続けることを拒否するスタッフはいなかった。
 ちなみに俺の怪我も心配されたが、車椅子を疾走させた挙句勝手に転んだだけだと言ったら、スタッフは何とも微妙な表情を浮かべた。
 安心したスタッフが帰ったあと、休憩室には俺と香織さん、そして山本さんが残った。
「ねぇ山本さん。お腹、空かない?」
 唐突な香織さんの質問に驚きつつも、山本さんは素直に首を縦に振った。
「そういえば、昨日から食欲がなくて何も食べていなかったんですが、安心したらお腹空きました」
「じつはあたしたちもなの。ね、真也くん」
 くすっと笑った香織さんが、俺に視線を向ける。香織さんがしようとしていることにピンときた俺は、笑みを浮かべた。
「十五分、いや十分待ってて」
 そして香織さんとともに休憩室をあとにして住居に戻った。
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