政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話

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1.フィリベルト


 自由に恋愛ができる者もいれば、ままならない者もいる。相思相愛の大恋愛がしたいかといえばそうでもなくて、恋に落ちるような出会いすらないままこの歳になってしまったな、と。だからといって僕の中に悲壮感があるわけじゃなかった。
 伯爵とは名ばかりで古くから続いているが広い領地はあれども権力や太い人脈を持たない伯爵家。僕、フィリベルト・ローゼンハイムの生家のことだ。卑下しているわけじゃなくて、そういったことにはこだわらない我が家。平穏なこの領地を僕は好ましく思っている。

 しっかり者の姉とかわいい妹、僕は四男で容貌だけは整っていると幼い頃からよく言われていた。
 成長した今、姉は他家へ嫁いでいる。兄たちも領地運営や文官や騎士など手にした職が適しているようで、それぞれが忙しくしていた。そういうわけで全員の顔が揃うことは稀だった。

 ところが。ほんの数分ではあるものの、姉や兄たちが邸に全員揃った。おやまあ珍しい。僕に侯爵家から縁談の話が届いていると耳にしたようで、緊急招集がかかったのだ。
 そのようなわけでしっかりした体躯の兄たちが、居間であーだこーだと膝を突き合わせている。少々暑苦しい。

兄①「どこでフィリベルトを見初めたんだ……学園じゃなく家庭教師をつけて学ばせていたというのに」

兄③「たまに貴族街へ行ってただろ。そのときじゃないか?」

兄②「いや、店を貸し切って誰とも顔を合わせないようにしていた。俺も付き添ってたし馬車から降りるときはフード付きの外套を着せていたんだがな」

 兄たちのピリピリした空気はともすれば喧嘩に発展しそうで、当人であるはずの僕が口をはさむ隙がない。
 ちなみにこうなることは予見できていたのか、姉は顔を出してそうそうに茶会へ向かう準備、妹は友人と花摘みの約束があると既に外出済。父はどなたかとお会いになるとのことだし、母は『あらあら』とこの光景を気にしている様子はなかった。

兄①「問題は侯爵家ということだ。それで、どこのどいつから来たんだ? うちのかわいいフィリベルトに釣書を持ってきた奴は」

兄③「ちょっと兄さん、言い方」

兄①「あー、すまん。つい本音が」

兄②「病弱のため伴侶の務めを果たせません、って断ればいいんじゃないか?」

兄①「だよな。それが手っ取り早い」

 僕をおいてきぼりにして話が勝手に進んでいく。走り回れるくらい元気なのに病弱かあ……そんなことをぼんやり思いながら、最近浮かんだ新しい商品の案を兄さんに伝えられるのはいつになるやら。なんて考えていた。

 そろそろこの話を切り上げてもいいだろうか。だって、兄たちのあーだこーだはたぶん無意味だから。なにしろ……

「あのね、兄さんたち」

兄②「フィリベルト、この縁談は俺たちが阻止するから安心しろ」

兄①「そうだぞ」

「あのね、僕『お受けします』ってお返事してます」

兄①「そうか、そ……はっ? なんて言った?」

「お受けします?」

①②③「「「…………」」」

 三人が同じ顔をして同じように固まっている。仲良しだね。そして次兄が絶叫。僕はそれより新しい商品を試作してほしい、って固まっている長兄に笑顔で提案したのだ。


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