政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話

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2.釣書が届く


 遡ること数日前。
 侯爵家を名乗る使いの者が釣書と共に来訪なさった。珍しく僕も応接室に呼ばれ、使いの方からご丁寧なアピールを受けたのだ。その際の印象は悪くなかった。驚きはしたもののお話に耳を傾け、真摯に受け止めた。

『白銀の髪に紫水晶の瞳、名はフィリベルト様とおっしゃるご令息を我が主は探しておいででした』

 その方によると、アルノルト・クラインシュミット――クラインシュミット侯爵家だという。……聞いたことがない。そんな侯爵家、あった? まずそこで僕は首を傾げた。隣に座る父と母をチラッと見てみると、僕とは違い存じ上げているのか表情からは読み取れない。特に訝しんでいる様子はなかった。僕だけが『どちらの?』と最後まで家系が思い浮かぶことはなかった。

 そのクラインシュミット侯がお探しの人物は確かに僕の容貌と違わず、名前まで一致しているとなれば人違いということはあるまい。いつどこでお会いしたのかさっぱり記憶にはないけれど。
 そもそも兄たちが過保護で心配性。僕が一人で外出することはほぼない。幼い頃、高熱で生死をさまよったことが原因だろう。未だ子供扱い。それに加えて、攫われそうになったことや、ガーデンパーティーのような場で『我が家へ来ないか』などの誘いが重なり、周りを警戒するようになってしまった。
 というわけで、作法も学問も邸で家庭教師から学ぶことになったわけだが、そこは伯爵家の名に恥じないよう僕なりに励んだ。穀潰しの四男と言われて父に恥をかかせたくないしね。読書が好きなこともあり知識だけは増えた。
 そんな僕も十八を迎え、商会で扱う品の考案を担うことに。たまたまそれらは評価を得ることができ、商会の売上へ貢献できた。どうやら商品を創り出す作業は僕に向いていたらしい。

 ああ、話が逸れてしまった。
 そういう経緯があり夜会などには行ったことはないから他家のご子息ご令嬢との交流もなく、詳しく存じ上げてはいないが、兄たち基準によると僕の顔は整っているそうだ。印象に残るらしい。だからこっそりでかけた際に、僕の気づかないところで侯爵閣下のお目に触れたのだろうと推測するしかなかった。

(これはいい機会なんじゃないかな。僕のことは気にせず、兄さんたちは結婚するなり階級を上げて任務に就いてもらいたいし。それに……)

 僕のことを探してまで望んでくれたのなら、その方の元へ行くのも悪くない。兄たち宛の釣書の存在は知っているが、僕宛てはないようだし。

 相思相愛の大恋愛に憧れているわけでも、恋に落ちてみたいわけでもない。

 けれど、こんな風に求められたのは初めてだ。いや、最初で最後の可能性だってある。
 何より侯爵家からの打診ということは余程のことがない限り断れないんじゃなかろうか。クラインシュミット侯爵家がどのような立場なのか存じ上げないが、父が僕を席に呼び、こうして話を伺っているということは、お受けするためなのかもしれない。

 姿絵には金髪碧眼の誠実そうなお姿が描かれている。実際お会いしたときに印象が変わるにしても、そこまで大きくたがわないだろう。

(あ、政略的な結婚というやつだったりする?)

 だとすると返事はひとつしかないわけで。こういうことは勢いと自分の直感を信じるに限る。

「光栄なことでございます。謹んでお受けしたいと存じます」

 僕が諾を伝えると、父はなんともいえないスンッと凪いだ顔をしていた。え、そういうことじゃないの? それはどういう感情の顔なのだろう。

 聞けばクラインシュミット侯は若くして爵位を継いだため、僕より七つ年上。お人柄は厳しくも優しい方で、口数は少ないかもしれないとのことだ。特に悪癖があるようには感じられず、会うことなく決めてしまったが、うまくやっていけるのではないかと思えた。

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