政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話

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4.初夜。初夜です。

 さて。お聞きしたいことや話したいことはいくつもあり、ようやくアルノルト様と共に過ごせる時間ができると思っていた。ところが驚いたことに、こんなことをおっしゃった。
 まさか。自分の耳を疑った。

『明日の婚姻式が楽しみだ』と。

 はい? 明日ですか、寝て起きたら翌日になる明日でしょうか。何も知らされておりませんでした。
 お披露目だの招待客だの、対外的なことは後日だそうで、とにかく婚姻を結んでしまいたいとのことだった。

 そういうわけでの急展開。お聞きしたいことは山ほどあるのに、アルノルト様はにこやかに部屋から僕を送り出した。
 敏腕の侍女たちに囲まれる。湯浴みからいつも以上に丁寧な施術によって磨かれ揉まれ、髪にも体にも何かを塗りたくられた。前日準備というやつだ。気づいたときには慣れない準備のせいか、僕は眠りについていた。

 翌日。朝早くからこれまた張り切った侍女たちにより、髪から何から整えられた。侯爵家から縁談の話をお受けした際、採寸などは済んでいる。アルノルト様が誂えてくださった婚姻の衣装はとても繊細なもので、刺繍や輝く飾りが縫い付けられていた。職人の手によって丁寧に仕上げられている美しいものだった。

 アルノルト様とは別の馬車に乗り一人で揺られ、着いた先は大聖堂。そこには長身に婚姻の衣装を纏っておられるアルノルト様がいらっしゃった。絵画かな。異国の王子殿下を彷彿させるような立ち姿だった。
 僕に向かって手を差し伸べている。そこに歩み寄り手を重ねると、きゅっと指先を包み込まれた。

 誰もいない。僕たち二人だけだ。
 大司教様も家族も招待客だっていない。そして僕はこの婚姻式のことを何も聞いていなかった。アルノルト様、実はサプライズ好きなのかもしれない。

「フィリー……フィリベルト。君に誓おう。永遠に愛すると」

「アルノルト様、僕も誓います。貴方を愛し続けると」

 アルノルト様が僕の左手を取る。薬指には銀色のリングが嵌められた。僕も同じようにアルノルト様の左手にリングを嵌める。
 二人で見つめ合ってから僕たちはそっと口づけた。

 二人だけで誓い合った婚姻式。
 この日、僕は初めて幸せで胸がいっぱいになるという体験をした。



 無事に婚姻式を済ませ、名を記した書類を提出して邸へ戻った。そして夜です。そうです、初夜なんです。
 僕は純潔を守っているから、この体は誰のことも知らない。知識として閨の作法は学んでいるが、なにぶん座学のみで実地はなかった。
『相手にお任せしてください。どうにかなりますので大丈夫です』
 といった具合だ。同性同士の場合、後ろを使って慰めてさしあげるとのこと。それから香油や道具を使って拡張し、受け入れる準備をしておくとよい。そのくらい知識くらいだ。
 おそらくそれで間違ってはいないだろうが、何しろ張り型を入れる勇気もわかず、アルノルト様のお戻りが急なこともあって準備など何もしていない。

 湯浴みを済ませ身を清め、いつもと違う香油で今夜も肌を磨かれた。それから寝台の上でアルノルト様を待っている。
 お会いしたばかりだというのに、急速に惹かれている自覚はあった。アルノルト様の顔がよすぎる。もちろん執事や侍女たちが主を尊敬していたように、アルノルト様は人として大変魅力的な方だ。本当に、僕でよかったのだろうかと戸惑うほどに。

 そういえば僕を探しておられた理由をまだお聞きしていない。どこで目にされたとか。銀髪に紫水晶の瞳という容貌は確かに僕ではあるけれど、顔が好みだからというだけで婚姻を結ぶだろうか。いやもうしてしまったけれど。そして初夜。あー。

 気を紛らわせながら覚悟を決めていると、内扉が開いた。廊下を使わずともアルノルト様の部屋と僕の部屋はドア一枚で繋がっている。いわゆる夫婦の続き部屋というものだ。いつでもこちらへ訪れることができるように。

「フィリー、今日は疲れただろう」

 パタリとドアは閉まり、部屋に入ったアルノルト様は、僕の隣に腰をおろした。寝衣の姿にどうしたって意識してしまう。
 僕の頬へ伸ばされた手が触れ、それだけでビクッと反応してしまった。
 伴侶となった今、この身を差し出すことに躊躇いはない。ただ、知らない閨事への緊張から体は勝手に震えてしまう。決して嫌だとは思っていない。
 するとアルノルト様は『今夜は君を抱きしめて寝るとしよう』とおっしゃり、僕を腕の中へ抱き込んだ。横たえ僕の髪へ唇で触れ『おやすみ、よい夢を』と、目を閉じてしまった。

(えっ、このまま……何もせず?)

 伴侶としてまず最初の務めでは。これで役目が務まっているのかおろおろしていたが、アルノルト様から漂う甘い白檀の香りと体温に安心してしまい、僕はそのうち眠っていた。
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