政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話

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6.そうだ

 婚姻の打診はアルノルト様からではあったが、彼の人柄に触れていくうちに惹かれていった。ところが求められていたのは僕ではないとわかり、このまま一緒にいてよいのか迷いが生じている。
 わかっている。これは僕だけの問題ではない。それでも。

 いくら容貌が似ていたとしても僕とマルティス様は別人である。だから同衾したってアルノルト様は手を出さなかったのだ。眺めるだけなら、会話をするだけならば、代わりになれるのかもしれないが、いざ腕に抱いてみたらその違いに萎えたのだろう。

 このまま婚姻関係を続けられるだろうか……どれだけ僕がアルノルト様に好意を抱いても、返されることのない想いだ。きっといつかは辛くなる。
 今ならこの想いを消せるのではないか。傷が深くなる前に引き返せば。婚姻を結んだといっても、体を繋いだことのない白い関係だ。形だけの婚姻だとしてもアルノルト様は僕のことを大切にしてくださった。
 けれどアルノルト様もきっと虚しさは感じていらっしゃるはずだ。だって僕は別人なのだから。それに気づいたとき、アルノルト様も傷つくことになるだろう。お互い他人であったなら……

 そうだ、離縁しよう。

 それがいい。
 思い立ったら即行動。細かいことは気にしない。僕の容貌から慎ましく謙虚な印象を思い浮かべる方もいらっしゃるらしいが、実は頑固で突き進む性格である。考えている時間があるなら動け。
 僕はすぐさまアルノルト様がいらっしゃる執務室へ向かった。躊躇っている時間はない。

 コンコンッ、バタンッ──

 ノックはしたものの、主の返事を待たずにドアを開ける。無作法だけれど今はそれどころじゃない。こっちは急いでいるのだ。緊急案件です。

「失礼致しますっ。さあ離縁いたしましょう!」

「は? フィリー、何を突然……」

 机に向かっていたアルノルト様が、騒がしい物音と突然入ってきた僕に驚いて顔を上げる。机の前までツカツカ歩き進み、僕はバーンと手をついた。
 それからずずいっと少し身を乗り出して、アルノルト様の目をしっかり見る。ちゃんと耳を傾けて僕の望みを聞き入れてほしいから。

「アルノルト様と僕は想い合っていないのです。ならば、婚姻関係ではいられません!」

「……待て。想い人がいるというのか?」

「お答えできません」

 あなたですから。目の前にいるアルノルト様のことが好きなんです。しかもあなたは既に婚姻なさっている方を好いている。アルノルト様だって見込みないじゃないですか。僕より。言わせないでくださいよ。もう。

 せめてもの矜持とばかりに僕はアルノルト様に対する気持ちを告げなかった。これくらいのこと、許してほしい。

 すると、ペンを静かにコトリと置き、ふぅっと息をひとつ。すぅっと目を細めたアルノルト様は立ち上がり、机を挟んで向かい側にいる僕の方へ回り込んだ。

 あれ? いつもと違う。
 目が、雰囲気が。

「……あのときの誓いも、俺に向ける笑顔も、偽りだったというのか? 攫うように婚姻を結んだんだ、いつまでも待つつもりで……こんなことなら悠長に時間をかけず、抱いてしまえばよかった」

「何を、っあ」

 僕の手首を掴むとアルノルト様は執務室の隣にある寝室へ向かった。僕が踏みとどまろうとしても力の差、体格の差は歴然で、抵抗しようにもまったく敵わなかった。

「アルノルト、様っ」

 掴まれた手首が痛い。引きずられるようにぐいぐい進む。僕の声なんか届いていないようで聞いてもらえなかった。こんな風に扱われたことなどなく、荒々しいアルノルト様の行動なんて初めてだ。

「ぅ、わっ……!!」

 乱暴に寝台の上へ放られた。ギシッと音を立てはしたが、打ち付けたわけではないので僕に痛みはない。

「フィリベルト……」

 首元の釦を外しタイを緩め、僕を見下ろすアルノルト様の瞳はギラギラ滾っている。怒りなのか欲望なのかわからない圧に囚われそうだ。

「やっと見つけたというのに」

「やっ……やめてくだ、さいっ」

「どれだけ探したと、」

 動けずにいる僕へ手が伸ばされた。
 剥ぎ取るように上衣を開かれる。釦が弾け飛び、左右へ広げられた。アルノルト様の腕や服を掴んで抗うが、肌を露わにされてしまった。僕の両手は邪魔だとばかりに、顔の両側へ縫い付けられる。
 瞠目する僕と、なぜか傷ついた表情を浮かべているアルノルト様の視線が重なる。力尽くでされている僕よりも、よほど悲しそうな目をしていた。

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