アイノカタチ

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桃味

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 諸説あるものの、バレンタインって祈りを捧げる日が、愛を誓い合う日になったらしい。なにはともあれ、感謝だったり告白であったり、相手に気持ちを伝える日に変わりない。チョコレートは背中を押すアイテムのひとつだ。ただし、菓子メーカーの販路拡大により一大イベントになった側面もあるだろう。『自分ご褒美』なるものが近年では当たり前になったことでもよくわかる。

 で。バレンタインの対としてホワイトデーがあるわけで。いただいた何かしらのお返しを、しれっと渡すことのできる日だ。いただいたから、という理由を存分に使える。口実がほしい面々にとってはありがたい日なのである。

(やっぱりやめとくか……)

 コンドームにローション、バスボム、泡立てネットとボディソープ。目の前にずらりと並べたものがあからさますぎて、自分で買い揃えたにも関わらずドン引きする。目的が隠しようもない。選択を間違えたかな。

 先月、『肉と魚どっちがいい?』って聞かれたから、肉と答えた。そうしたらバレンタインに鉄板焼をご馳走してくれたのだ。酒も嗜んだことからほろ酔い気分になり、機嫌よくバーで飲み直して、気づいたらホテルで抱かれていた。いや、もちろん無理矢理とかではなく、相手は俺の恋人だ。ちゃんと意識も正常だった。ちなみにたくみという。俺ははる

 だけど『晴が心配だから一緒に入ろ?』と言われても、風呂だけは断固拒否した。その日だけじゃない。これまでもシャワーだけにするからって一人で入る。

 あのときの匠は大型犬が耳を垂らしてしょぼーんとしている姿のようで、俺が悪いことをしている気持ちになった。何回か『一緒に入ってもいい?』と聞かれているが、すべて拒否。それもあって、どこもかしこも知られているのに今更隠すようなものでもないし、痴態も醜態も見られてるんだから、と今回の発案に至った。

 これがバレンタインのお返しになるかはともかく、今までしたことのない行動は恥ずかしさを伴う。しかも、自分からこれを差し出すんだぞ。

 決めたはずの覚悟が崩れそうになり、俺は目の前にあるものすべてを紙袋へぞんざいにしまった。



 ただいま、と夜に帰ってきた匠がリビングに顔を出した。おかえり。俺は二人分の夕飯を温め直し、テーブルの上に並べていく。

 手洗いや着替えを済ませた匠が、俺の後ろから腰に手を回し、髪にキスしたり首筋をスンスン嗅いだ。こういうところも犬っぽい。

『いただきます』手を合わせ、伝えておいた方がよさそうな予定や一日の出来事を互いに話しながら、夕飯を済ませた。

「はい、これ」
「これ?」
「バレンタインのお返し。見るのは後にして。俺がいいよって言うまで待って」
「ありがとう。見ちゃダメなんだ」
「うん。色々覚悟と準備したいから」
「覚悟……?」

 お返しとして渡されたのに待てをされ、匠は不思議そうな顔をしている。図体はでかいけれど、こういう顔はかわいい。

 慣れないことをするもんじゃないな。やっぱりやめたい。とにかく落ち着かない。いやいや。いい加減、腹を括らないと。

 そわそわしながら俺は自分の準備を始めることにした。トイレを済ませ、着替えを持って風呂場へ向かう。



「匠ー、見ていいから来てー」

 照れ隠しもあって素っ気なく呼ぶ。どう言おうが、イコール抱いてくれなのだ。湯を張りながら、先に身体を洗っておくべきか迷ってやめた。

 色々先走りすぎていたらどうしようという不安がないわけじゃない。一緒に風呂へ入りたいという話だけで、風呂場でどうのこうのしたいわけではないかもしれない。ただ、俺が匠にすべてを明け渡していることが伝われば、ちょっとくらい喜んでくれるかな、というだけなのだ。

 匠に声をかけてから一分くらい。浴室ドアの半透明な向こう側から、ガタンッ、バタンッ、ドサッ──物静かな匠にしてはけっこうな物音を立てて、脱衣所にやってきた。けれど匠からの言葉は何もない。

「匠……?」

 ちょっとあれだったか、ドン引きされたのかも。匠へ渡したものは今すぐ使う必要はないものだ。バスボムは使いたいときに使えばいい。ローションだって、普段セックスに使っているものと同じだし、もしかしたらそういう意味として受け取ったのかもしれない。それならそれでいいんだけど。

 しかし、カシャッと浴室のドアが開き、匠が入ってきた。もちろん全裸。両腕に俺が渡したものを抱えている。

「晴、これ……これさ、使っていいってこと?」
「うん」

 どうやら俺の意図は通じたようで、匠は浴室の段差にボトルや泡立てネットを置いた。心なしか興奮しているように見える。

 バスボムを浴槽へポイッと入れ、しゅわしゅわ立ち上る気泡と共に、透明な湯が色付いていく。

「晴……洗っていい?」
「うん」

 何度も体を重ねているが、それとこれとは別だ。酔っているわけじゃないし、快楽に溺れているわけでもない。お互い全裸でしかもめちゃくちゃ冷静。薄暗い寝室ならともかく、浴室はそれなりに明るい照明だってある。

 匠の体がしっかり見えてしまい、恥ずかしさで俺は俯いた。そうすると今度は匠の下半身が見えて、それはそれで視線がうろうろ彷徨う。半勃ちしてるし。

 俺が渡したボディソープを泡立て、それで優しく洗われていく。首や肩から順にやわやわと。向かい合ったままでは洗いづらいようで、くるりと向きを変えられた。

 後ろから包み込むように全身を撫でられる。わざとらしく胸は執拗だ。感じていることがわかっていて何度も擦られた。

「あっ、ぁ、そこばっか……っもう、いいって」
「そう? ほら、立ってきちゃってる……気持ちいいよね。洗ってるだけなのに」

 それは洗っているとはいわない。匠の指先で爪弾かれ、くにくに摘んでいた。

 足の力が抜けそうなのに、目の前には縋るものがない。するとそれに気づいた匠に腰を支えられた。それから空いている反対の手は下方へ伸び、反応している俺の半身を握られた。

「ひ、ぅっ」
「えっちだなぁ、もうこんなになってるよ」

 上下にしごかれると、くちゅりくちゅり音をさせた。ボディソープのヌメリもあって、匠の指が淫猥に動く。俺の悦いところをよく知っているだけあって、的確に快感を与えられた。

「はっ、ま、って……で、出そうっ」

『体冷えちゃう』とシャワーから湯を出し、体中に付いていた泡が洗い流される。刺激は続けられ、上気した肌に匠が吸い付いた。首筋、肩。甘噛みのように歯を立て、舌先でぐにぐに押される。

 そうされるとくすぐったさにじわじわした快感がまざり、食べられそうでおかしくなる。

「う~~っ、それ、やっ……ぁ、ぁっ」
「はる、かわいい……」

 嫌じゃないけど、いやって言葉は出てしまう。射精を促されると肌を震わせて、俺はちんこから精液を吐き出した。

 くたりと力が抜けた体を支えられ、浴槽に腰をかけた匠を跨る体勢にされた。首に腕を回してしがみつく。全身で寄りかかってもびくともしない。

 ぼんやりしているうちに、棚へ置かれたボトルからローションを取り後孔へ塗られた。

「ん、ふっ」
「痛い?」
「い、たくない。キス、して」

 指先がゆっくり入ってくる。口を塞がれているから、漏れる声はすべて匠に飲み込まれた。舌を絡めて吸われて、やっぱり歯であむあむ噛まれ、そういうひとつひとつのことがとにかく気持ちよいと思えた。

「ん、んっ」

 ナカを探る指が浅く深く、内壁を撫でる。くぷくぷ差し入れながら、指を増やされた。俺と匠の勃ち上がっている陰茎をまとめて掴み、一緒にしごかれていく。

「あ、あっ、ぁっ……たくみ、たくみっ」
「うん、きもちいいね」
「んっ、うんっ、いいっ」

 うしろの孔とちんこと、くっついた唇。いっぺんに気持ちのよいものを与えられ、頭の中が茹だりそうだ。

「ま、た……イキそっ」

 ぞわぞわしたものが背中を走る。それなのに、もう少し、というところで匠の手が止まった。

「やぁ、なんでっ」
「ん、晴のナカに挿入させて?」

 俺の両脚に手をかけ、ひょいっと体を持ち上げられた。それから匠のちんこを後孔へあてがう。

 たしかに匠は俺のことを軽々と抱き上げる。しかしそれは両足で立っているとき、体勢が安定しているからできることだ。こんな体勢でいきなりそんなことをしたら、自重で──

「っひ……っ、~~っ!」
「あはっ 奥まではいちゃった」

 一気に串刺され、衝撃で俺は達した。

「トンでる? はる、かわいい……その顔、最高」

 それから何度も揺さぶられ、下から突き上げてくる。最奥をトントン打つから、ずっとイッたままだ。
 ぎゅっとしがみついているのに、自分がどこかへいってしまいそうで不安になる。ふるふる顔を振って終わらせてほしいと懇願した。

「じゃあ、あとはゆっくりシようか」

 うん。この体勢はやめてもらえるらしいが、どうやら終わりではないようだ。



 俺は床に尻をつけソファーに座る匠の足の間で、髪を乾かしてもらう。湯船でも匠に抱き込まれていたが、俺がのぼせていることに気づいてすぐに引き上げられた。それから甲斐甲斐しく世話を焼かれているところだ。

 ブォーッとドライヤーの温風をあてられながら、アイスを食べている。小さなカップのシャーベット。桃味。口の中がひんやりして、火照った体温を落ち着かせてくれる。

「はる」
「んー?」

 呼ばれて後ろを仰ぎ見れば、すかさず匠にちゅっと唇を吸われた。

「美味しいね、これ。また買っておくよ」
「ん。あと、レモンと葡萄も食べてみたい」
「了解」

 ドライヤーが再開され、匠の手が髪を梳く。『ホントごめん。今夜は大人しく寝ようね』って自分へ言い聞かせるように温風にまぎれた声。残念そうだ。きっとへにょりとした顔なのだろう。

 俺はくるりと向きを変え、そんな匠に伝えた。

「気持ちよかったよ? 俺がいいって言ったんだし。また入ろ?」

 長風呂はよくないと学べたのだ。次回はもうちょっと計画的に。というか、ほどほどに切り上げればいい。

「もうホント、晴……大好き」

 むぎゅむぎゅ抱きしめられて、俺も抱きしめ返した。今夜は大人しく寝ようねと言っていたのに、匠の『ちょっとだけ』というキスや愛撫が延々と続いたのはいうまでもないだろう。

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