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本編
1.恋の種
しおりを挟むボードゲーム部という、緩いお遊び部の活動日。黒板を部員が囲んで意見の出し合いをしていた。
その人数は十名ほど。男子校だから全員男子である。それなりに身長のある高校生男子が集結していれば、いくらイケメンが混じっていようとも暑苦しく感じる空間だ。
「そうだね、いいと思う」
そこへ同意する如月の声が小さく聞こえた。皆より高音で掠れのない声だ。とはいっても、ひとつの涼し気な声くらいで暑苦しさを打ち消せやしない。
「じゃあ次はこれに決めよう。陸堂もいい?」
「ああ、別にそれで構わない」
部長の弥永から尋ねられ、陸堂は同意した。
皆の希望をまとめた結果、来月の物品購入はカードゲームに決定となった。
この部には長幼の序といったものはない。活動自体が緩いため、相談事項は誰かが言い出せば概ねそれに決まる。今回も一年生が見付けてきたカードゲームだった。
「文山、予算の確認しといて。買い物は陸堂と如月が当番だからよろしく」
「はい」
「うん、行ってくるね」
部費を管理している二年生の文山と、買い出し担当になった如月が了承の返事をする。陸堂も頷いて弥永へ承諾の意を返した。
隔月毎に学校側へ活動状況を示さなくてはならず、そのペースで新しいゲームの準備をしているのだが、トランプやカードゲームなどは市販のものを購入すればよい。イチから自分たちで考えて作るオリジナルゲームにする場合もあり、そういうときは制作の材料を買い揃えに行く。
今回は前者で、量販店か玩具を扱うような店へ行けば購入できるはずだ。購入係は学年に関係なく当番制となっていた。
「後で日にちと時間決めよう。僕はいつでも平気だから、陸堂に合わせるよ」
「返事は夜になってもいいか?」
「もちろん」
陸堂はひとつ未確定の用事を確認してからメッセージを送ると伝えた。
如月はあまり強く自分の意見を主張したことがないなと、陸堂はこれまでのことを振り返って思った。今回もこちらに合わせると言っている。
出し合った意見に異を唱えることなく同意を示すし、委員会でもそういった場面をよく見る気がした。
誰も引き受けない係、誰かが頷けばまとまる話、どうでもいい雑談の同意。
大したことではないが、基本的に何もかもが受け身だ。多くの中から選ぶときには我先に飛び付かず、先にどうぞと皆に譲っていた。
(無口ではないんだよなあ)
如月はどことなくぼやっとしている。性格が抜けているとか意志が弱いというものではなく、存在そのものがふんわりしていた。とにかく雰囲気が柔らかい。
騒ぐでもなく目立つでもなく、だからといって孤立しているわけじゃない。盛り上がる面々を呆れた様子で見るのではなく、いつも物静かに微笑んでそれとなく近くにいる存在だった。
ちなみに陸堂がそういったイメージを持っているのであって、誰かと話したことはない。勝手な印象という意味だ。
(指が細くてきれいだよな。色も白いし華奢だし……)
まったく部活に関係のないことを考えているうちに、今日の活動は終わりの時間となっていた。
借りた教室の片付けをして、備品をロッカー棚へしまう。教室の施錠はないため全員廊下へ出て終了だ。
部長の弥永が『解散』と告げたことにより各自だらだら昇降口へ向かった。
「じゃあな」
「うん、ばいばーい」
自転車通学とバス利用と電車と、通学方法で帰路が異なる。電車組は最寄り駅までいつものメンバーで歩き、改札でそれぞれが使うホームへと分かれた。
如月と反対方向になる陸堂はザワザワする喧騒でも聞こえるよう『後で連絡する』と耳元で告げ、自分が使うホームへ向かった。
如月のことを意識し始めたのはいつからだろう。顔半分が隠れるほどもっさり伸びた前髪と、丸くて大きなレンズの眼鏡を掛けている。
素顔は誰も見たことがないんじゃないだろうか。あのカーテンのような前髪が拒むように遮断していた。
かくいう陸堂だって、まともに見たことはなかった。何故なら、眼鏡を外したことが一度もないからだ。ついでに髪をかき上げたことすらなかった。
平均的な数値よりは少し低い身長と、無難で当たり障りないが特にこだわりもないらしい私服姿。これだけ要素が揃えば、見た目はまごうことなき陰キャだ。
ちなみに休日にも自由参加の部活動があり私服姿は見ている。無料開催のスタンプラリー的なものや、各所を回って謎を解くリアル系などに参加していた。
ボードゲーム部とは総称のようなもので、対戦ゲームやアプリゲームなどそういう類まで含め、皆で遊んでいることを活動と呼んでいるのが実態だった。
運動部のように試合があるわけでもなく、文化部のように成果を披露するものがあるわけでもない。ただ集まって遊んでいる部活動だからこそ、居心地のよい場所なのだ。
そこでの関わりくらいしかない如月に、特別な感情が動いたことはなかった。一見すると陰キャのどこに興味を惹くものがあったのか。
陸堂へ変化をもたらしたのは、ふと目にした何気ない……そう、如月の仕草だった。
一月ほど前――
代わり映えしない昼休み。
無意識なのだろう、たまたま如月が横髪を耳にかけた。邪魔だったのか暑かったのかわからないが、その時の仕草が何ともいえない色っぽさで、陸堂を撃ち抜いた。
(おい、待て)
自分は耳フェチだったのか?
いや指フェチ?
自問自答しながら、髪の隙間から見える白くて薄い耳殻に陸堂はどうしようもない欲望が湧いた。
触ったら――――
高校生男子なぞ体力を持て余し下半身はいつでも臨戦態勢みたいなものだ。無駄に想像力だけは優秀な時期でもあった。
チラリズムを刺激したのだろうか。
如月をよく見れば、自分とは違う細くて白くなめらかな肌をしていた。ゴツゴツしていない指や、柔らかそうな髪、肩だって薄く簡単に両腕で囲えてしまえる。
(ドンピシャのサイズ感……)
陸堂は自分の考えに眉根を寄せた。
更にはクラスメイトが笑って背中をバシバシ叩き、如月と頭を寄せながら談話していた。どうということのない日常を目にしただけなのに、頭の後ろで鈍痛がした。
何かを、握り潰したくなる衝動。
それが何なのか、陸堂自身は答えを知らなかった。
イケメンでもなく美人でもない、地味でもっさり。いや、素顔を見ていないからイケメンかもしれないし、美人の可能性だってある。
よく考えれば如月は優しく穏やかで、頭の回転も早く聞き上手。気使いもでき、何気に器用だった。
(実はめちゃくちゃ優良物件では?)
陸堂は騒がしいタイプより、しとやかな方が好きだ。一緒にいるなら物静かで落ち着く方がいい。
どうもおかしい。
考えれば考えるだけ、陸堂の眉間にシワが寄る。
如月に対する感情は戸惑いこそすれ、嫌悪も驚愕もない。むしろ隠された素顔を暴いたらどうなのかという興味が捨て切れないし、触りたいという感情があることも事実だ。
それはいわゆる『好意』じゃないのか、それとも単なる『興味』なのか判別できなかった。
(わからん)
気になる。しかし何故なのかわからない。
このときの陸堂は意識こそすれ、まだ自分の気持ちを理解しきれていなかった。
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