Sランクパーティーを追放された暗殺者は、お世話になった町で小さな英雄になる

白季 耀

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孤児院の子ども達、渓谷

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孤児院の子ども達と顔合わせした所で、ニコルさんの提案で互いの親睦を深める為、少し遊ぶ事となった。

「それじゃ、ルシアちゃんが鬼決定、みんな!くれぐれも渓谷の方には言っちゃダメよ?逃げて~!」
「「「「わぁ~い!」」」」
「逃げろ~!」
「ルシアから逃げろ~!」

内容は隠れ鬼ごっこで、鬼は5人…の筈だったのに。

ジャンケンで鬼を決める事となり、案の定ルシアは一人負け。
「ルシアちゃんなら一人で大丈夫よね?」というニコルさんの発言により、鬼5人制は即廃止され、鬼は俺ただ一人となった。

親睦を深める為と言っておきながら、当事者である俺をハブにするのは本末転倒なのではないだろうか?

子供達が俺から逃げていく。
決して寂しい訳ではない!
いやほんとだよ?

1、2、3、4、5、6、7、8、9、10秒!

まぁ子供達が楽しければそれで良いか。

さて!

鬼ごっこの醍醐味は何と言ったって鬼勢力の台頭だ。(ガチってます)
鬼ごっこが楽しいか否かは、全て鬼に掛かっていると言っても過言ではない!(子供達にハブられて情緒不安定です)

ここで俺が引き立て役になって、子供達の心を鷲掴みにしてやる!

行くぜ!(クラウチングスタート)

Go!


数分にして決着は着く。

無論、ガチった暗殺者に子供達が逃げ切れる筈が無く、箍が外れたルシアに一網打尽に終わる。

ニコルさんも「ちょっとやりすぎたか~」と反省する始末である。

それ程までに、圧倒的だった。

「はぁ~はぁ~、ルシアのバカぁ~!はぁ~はぁ~、あんなの逃げ切れるわけないじゃん!」
「はぁ~はぁ~、はやすぎだろ!はぁ~はぁ~、目でみえなかったぞ!」
「きずいたら、やられてたはぁ~はぁ~」

子供達はみな地面から尻を離そうとはせず、ルシアに不満をぶつける。

一方のルシアは先程まで精神が狂っていた為、よく覚えていないと豪語している。

これが痴漢などの犯罪だったら死刑ものである。

「ルシアちゃんごめんね!流石に少しやり過ぎだったわ!今度はちゃんと5人制にしましょう!」

そう言って数十分後、隠れ鬼第2セットが始まった。

今度はニコルさんが一人負けをして、「ニコルさんだったら一人で大丈夫ですよね?」というルシアの発言の元、鬼はニコルさんオンリーである。

全員が庭から逃げ、閑散とする広場の中、
一人木の陰に佇むニコルさんは、ルシアの心の傷を身をもって体験したのであった。




◾️◾️◾️



それから約30分が経過し、全員が捕まり終了した。

ニコルさんは先の大人気ない俺の鬼っぷりとは対照的に完璧な手加減をしてみせた。

ニコルさんはやっぱり大人なんだなと思った。

子供達は俺の時とは違い満足した様だ。
その事に対して、惨めながらもニコルさんに嫉妬してしまう。

「ルシアお兄ちゃんって凄いんだね!」
「えっ?」

一人落胆していると、赤髪の女の子、シルフィーナがそう言ってきた。

「凄い?俺が?」
「うん。だってわたしたちにアドバイスしてくれたじゃない?あれでわたし最後まで捕まらずに済んだんだよ?」
「俺も俺も!ルシア兄のアドバイス通りにしたらうまくいったよ!今までいつも最初に捕まってたのに今回は中盤まで残れたもん!」

実は隠れている最中にルシアは近くに居た子供達にアドバイスをしていたのだ。

隠れ鬼は実は常に動いていた方が捕まりにくいんだよ?とか、草木の影はすぐに見つかっちゃうよ、など本当に軽いアドバイスだったが、それを実行した数人はどうやら満足のいく結果を得られたらしい。

アドバイスをした数人の子供達がルシアにお礼を言いながら足に抱き着いてくる。
その姿がとても微笑ましく、そしてとても嬉しく感じた。

「そっか。それは良かったよ」

そして頭を撫でる。

「ふぉぇ~」

シルフィーナは気持ち良さそうに目を閉じて身を委ねてくれる。

可愛いすぎる!

いけないいけない!このままだと、何かイケナイ物に目覚めてしまう気がすると思い、手を離すと…,

「あっ、もっと。もっとしてぇ」

よっしゃあ~!
言質とったぞ!言質とったからな!
俺は悪くないからな!シルフィーナがしてって頼んだから大人として俺は答えたまでだ。

「あっシルフィーナずるいよぉ~!わたしもわたしも、ルシアして!」
「あっじゃあ俺も!」

ルシア株急上昇!
キタァァァァ!
来ました!初日から子供達の心を鷲掴みできました!

そんな心が和む光景を嬉しそうに見つめているニコルさんは子供達の人数を数え始めて…手が急に止まった。

「どうしたんですか、ニコルさん?」
「ねぇルシアちゃん。孤児院の子供達って34名いるはずよね?」

何を当たり前の事を聞いているんだ?

「そうですけど?それがどうかしたんですか?」

徐々にニコルさんの表情が青ざめ始めた。
どうしたんだ?体調でも悪いのか?

「どうしよう、どうしようルシアちゃん!ここにいる子供達、32人しかいないの!」
「えっ!」

俺は直ぐにこの場にいる子供達の数を数える。

「ほっホントだ!いない、後2人いない!」

数えると確かにこの場には32人の子供達しかいない。

誰だ?誰が居ない?
必死になって一人一人の顔を見て確認していく。

「ニコルさん、ロンとミーナが居ません!」
「本当ね、ルシアちゃんあの子達がどっちの方角に行ったか分かる?」
「すみません、分かりません」
「誰か?ロンとミーナと一緒にいた人いない?」

ニコルさんの言葉に子供達はお互いの顔を見始めた。

どうやら皆知らないらしい。
これはいよいよまずいぞ!
この孤児院を囲む森の奥には少なくない魔獣がいる。もし、あの子達が遭遇したら…

ロンとミーナの消息に何の兆しもなく、徐々に焦燥が心を駆り立てる。

すると、金髪髪を肩辺りまで伸ばした可愛らしいぬいぐるみを抱くティナがゆっくりと手を挙げた。

「はい、最初の時だけ少しだけ、一緒にいたよ?」
「本当にティナ?」
「うっうん。西側の森の方に行ったよ?」

その言葉に俺とニコルさんは血相を変える。
そっちの方角には確か…。

「「渓谷!」」




◾️◾️◾️




俺とニコルさんはティナ以外のみんなに絶対にここを離れない事をあの手この手で説得して、ティナを連れて全力疾走でロンとミーナを探しにいく。

「大丈夫ですか?ニコルさん?」
「大丈夫よ、このくらい!」

強がってはいるが結構キツそうだ。
俺は現役引退して未だ間もないが、ニコルさんは数年前に引退しているから体力も筋力もかなり落ちているのだろう。

いつも温厚で笑顔を絶やさないニコルさんが苦しそうな顔をしている。

スピードを下げようか、と逡巡しているとニコルさんがそれに気付いたか一喝をしてくれた。

「ルシアちゃんあんまり侮らないで!こんなの、子供達と比べたらどうって事ないわ!」

いつになく本気の目をしている。
絶対に見つけてみせるという信念が感じられる。
きっと責任を感じているのだろう。

「分かりました。俺も手抜きはしません」
「えぇ…そうしてちょうだい」

ほぼ全力疾走の状態で西側に真っ直ぐ向かっていると、木の陰に人の気配を感じた。

「ニコルさん、木の陰にロンが居ました」
「あっニコルお姉ちゃん、ルシアお兄ちゃん!うわぁぁぁん!」
「もう大丈夫よ!怖かったわね、無事で良かったわ!」

ロンは木陰に身を縮めて座っていた。
まだ昼の1時とはいえこの辺りは妙に暗いから、余計に怖かっただろう。

「ロン?ニーナは何処にいるんだ?」 

この場にはロンしかいない。ニーナが何処に行ったのかを聞いてみる。

「うっえっ、お姉ちゃんはこの先の方に走って行っちゃったよ…」
「ルシアちゃん、先に行って、私はロンを落ち着かせてから直ぐに追うわ!」
「分かりました!」

それが一番の判断だと思い、俺はその場を後にし疾走する。

ロンの衣服から微かにニーナの匂いが付いていたから、まだ離れて時間は経っていない!
ニーナ足の速さも踏まえれば、全力で駆ければ追いつける!

光が見えた、川の匂い、もうすぐだ!

林を抜けて、渓谷に到着して、直ぐにニーナの名前を叫ぶ!

「ニーナ!何処にいるんだ!ニーナ!!」

反応はない。

魔法付加エンチャント
全神経集中、聴力強化!

エンチャントのスキルを発動させ、感覚強化の魔法を付与する。

気味が悪いくらい静かな渓谷に耳を澄ませ、微細な声をキャッチした。

「…す……ぇ、…すけて、たすけて!」

いた!

渓谷の下を覗く様に見ると、ニーナが崖の壁の岩に張り付く様な形で立っていた。
おそらく足を踏み外し落ちてしまったのだろう。

「ニーナ!」
「あっ!ルシアお兄ちゃん!たすけて!」
「今助けるからな!」

ワイヤーを懐から取り出そうとした、その時!

「あっ、キャァァァァァー!?」

ニーナが崖から遂に落ちた。


その時、俺はニーナを助けたいの一心で、気付いたら…自らダイブしていた。


「ニーナァァァァァァー!、掴まれ!」
「ルシアお兄ちゃん!」


落下している中、俺はニーナの手を掴み、抱きしめ庇うようにして川に落ちた。

「ルシアちゃん!大丈夫!」

ニコルさんの声、どうやら追い付いたみたいだ。
後ろには何十人もの人影が薄っすらと見える。
誰だろうか?

「ぶはっ!」

水中から顔を出した。
その様子を見て、ニコルさんが安堵の溜息を吐いた。

俺は自分の体を確認する事なく、抱きしめているニーナの安否を確認する。

「ニーナ?」
「うっうぇっグスん、ルシア…お兄ちゃん」

今にも途絶えてしまいそうな、弱々しい声。
顔は既に涙や鼻水などでめちゃくちゃだ。
折角可愛い顔立ちなのに。

俺はニーナの頭をそっと撫で、再び抱き締める。

「もう、大丈夫だよ。怖かったね、よく頑張ったね。本当に…本当に良かった」

臨界寸前だった涙は、無限のように溢れ出してニーナは顔を俺の服に埋めた。

「ありがとう、ありがとうルシアお兄ちゃん!助けてくれて、ありがとう!!」

本当に無事でよかった。

これでもし、ニーナが助からなかったら、軽いトラウマを植え付けられていた事だろう。
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