ソロモン校長の七十二柱学校

ヴェノジス・デ×3

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第二章 不死鳥護衛編

二十三話 情報

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「オセとアミー、その他の部員十人の第三部室動組が生徒会に捕らえられた」

薄暗い謎の部屋は暗殺部が貸し切っている部室。スナイパーのオセに空間魔術師のアミー、そしてアミーが連れてきた十人の暗殺部部員が捕まったと、黒い翼を生やし、左腰に剣を鞘に差している男が部長に報告した。

「……カイム。これはお前の責任だぞ。お前が不死鳥の血を求めるあまり、部員をゴミのように使って、挙句部員が捕まってしまった。どうするんだ」

暗殺部部長のアンドロマリウスが冷静な怒りで叱責。だがカイムはこれを全く反省の色を示さず、ニヤリと表情を浮かべた。

 このフェニックス暗殺の主犯格は三年生のカイムである。暗殺部副部長を務める、クロウタドリの化身者。空を自由に飛び回る剣士だ。

「ゴミはいくらでも学校内に転がっている。人材に悩むことでもないだろう」

カイムはアンドロマリウスの面と向かったソファに座り、足を組む。アンドロマリウスはカイムの反省の色気のなさに呆れ、溜息をついた。

「そもそも、暗殺部はヒトが多ければいいってもんじゃない。多いと目立つだろ」

「仲間は大事にしろ。部員の皆それぞれが仲間だ。ゴミ等と言うな」

「仲間想いだこって」

アンドロマリウスの発言を全く受け入れようとしないカイムに、アンドロマリウスは再び溜息をつく。

「確かに、不死の血は魅力的だ。俺もほしいと思う。だが、その分不死は多くの悲劇を経験する。それを分かって手に入れるつもりでいるのだな?」

「ふん、悲劇? それは違うな。喜劇だ。弱き者に人間に、殺すという喜劇を多めに経験できる、の間違いだろ」

するとカイムは左の鞘から魔剣を引き、鋭く響く金属音を発した。その魔剣は両刃で内側にカーブして剣先は尖っている。

「このダーインスレイヴは血を吸う魔剣だ。血は遺伝子。個体の様々なデータが含まれてある。俺はこのダーインスレイヴの特徴を生かし、能力を得た。あのアモンの死体にブッ刺し、アモンの血をダーインスレイヴから通して俺の体内に入れてな」

右手を上げると、右手からアモンと同じ紅の炎が出た。カイムはレハベアムに殺されたアモンの能力を、ダーインスレイヴで血を吸い、手に入れた。

「あとは不死鳥の血のみ。これでこの俺が本物の不死鳥になるということだ」

「……計画は潰れたクセによく言うな。オセアミーコンビが消えた時点で、善魔生徒会の空間魔術師が創り出す守りの壁は越えられないんだぞ。どうやってフェニックスを手に入れるつもりだ」

シトリーという護衛の壁がいる限り、フェニックスは常に安全圏に居る。無敵の壁を唯一消去することができるアミーという術を失った暗殺部は、フェニックスを暗殺することはできなくなっている。

「だったらその魔術師を殺すまでだ。授業を抜けても」

「単位を落とすつもりか」

「一つの授業抜けたところで高が知れている。何の影響もない」

「無計画にもほどがある。授業を抜けると後々痛い目に遭うぞ」

「……ならば我が手を貸そう……」

アンドロマリウス、カイム以外誰もいないはずの第三者の声が部室内に響いた。

「誰だ!」

カイムは立ちあがり、ダーインスレイヴを構え、謎の第三者を威嚇した。

「我が名はヤロベアム……歴史を越えた魔王なり」

未だに声だけが部室内に響き渡り、その姿は見えない。

「魔王……?」

「魔王だあ? 阿保かてめえ。今は魔王なんていねえんだよ」

ソロモン亡き後、この魔界を統一させている魔王はいない。今この凹成という時代に魔王は存在していないのだ。

「待てカイム。ヤロ……ベアムと名乗ったっけか。『歴史を越えた』とはどういうことだ。ただの魔王ではない、ということか?」

アンドロマリウスは冷静に判断し、ヤロベアムに質問をした。

「アンドロ、なに素直に聞き返してんだよ。魔王はいねえんだぜ今の時代よお」

「ククク……我のことより、カイム。貴様のことが重要だ。そのフェニックス暗殺に、この我が手を貸そう」

強引に話をすり替える謎のヤロベアムに、カイムは舌打ちし、怒りを身に任せる。

「手を貸すだあ? ざけんじゃねえ! いい加減姿を出せ、ブッ殺すぞ!」

「いいぞ、その威勢だ。いいか、貴様らの任務フェニックス暗殺は失敗に終わった。この我が手を貸さなければ失敗は永遠に成功に変わらない。あの空間魔術師の小娘がいる限りな……」

「じゃあ、お前が手を貸してくれればカイムは本当に不死鳥になれるのか?」

冷静に話を聞くアンドロマリウスは、ヤロベアムに問いだした。

「おいアンドロ、頼むから素直に余計な事言うなよ」

「この闇を受け取れ」

そのとき、テーブルに紫色の魔法陣が出現し、そこから黒い粘土が現れた。

「これは……?」

アンドロマリウスはそれを掴むと、アンドロマリウスは表情を少し驚きに変えた。

「……能力が……出ない?」

「なに? お前の能力が出ないって、どういうことだ」

アンドロマリウスはカイムに黒い粘土を投げた。カイムは燃える右手でそれを掴んだ途端、その火炎は消えてしまった。

「なに、俺の炎が消えただと……? おいヤロベアム、こいつはなんだ!」

「我が魔法の一部だ。いいか、それをバリアーに塗れ。そうすればバリアーは消滅し、小娘の魔法を無力化させることができる」

アンドロマリウスとカイムは、その発想に静かに仰天し、そしてニヤリとカイムが頬を上げた。

「へえなるほど。そういうことね。そういう使い道をしろってこと」

「これで、カイムはフェニックスに近づくことができる、というわけだな」

「いいか、貴様らは何が何でも目的を達しなければならない。そして、必ずあの人間を殺すのだ」

「人間……? ああ、レハベアムのことか」

「黒獄の天秤でウァサゴを追い詰め、そして善魔生徒会に入ったあの噂の人間か」

「人間レハベアム・モーヴェイツを殺せ。それが、我の依頼である。暗殺部なら、この依頼を受け取れるな?」

「報酬は?」

部長のアンドロマリウスが迷わず報酬を聞いた。

「一億シェケルだ」

「い、一億……?! おいてんめえ冗談言ってんじゃねえぞ! 本当に払えるのなら、依頼より先に払え金を! 払えるもんならな」

カイムが文句を言うと、テーブルに再び紫色の魔法陣が出現した。その魔法陣は一瞬で消え、テーブルには分厚い札束の山が置かれていた。

「じょ、冗談……だよなこれ……」

嬉しいはずの現実を受け入れる自信を持たないカイムは口からよだれを出し、アンドロマリウスは山の札束から一枚を引っ張り、感触を確かめた。

「……本物の金だ」

「あはは……本当に……い、一億なのかよ……おい、こ、これじゃあ遊び放題じゃねえか……おい!」

「では、健闘を祈るぞ。若き少年たちよ……ククク……」

そしてヤロベアムの声は消え失せた。

 カイムはダーインスレイヴを鞘に戻し、ソファに左足を乗せる。

「よし殺るぜ! お金見たら無性にやる気が出てきた。こいつさえあれば、あの無敵の壁を無力化させることができ、護衛を崩せる!」

ソファを飛び越え、部室の扉を突き破り、そのままの勢いで部室を後にした。

「不死の血とお金にくらんだ奴め……どうなってもしらんぞ」





















「ではフェニックスの護衛成功を祝して……」

ウァサゴがテーブルの前に立ち、コップを右手に持ち、

「かんぱあい!」

勢いよく右手を上げた。するとヴァプラ、シトリーが続いてノリよくコップを持つ右手を上げた。

「「乾杯!」」

三人はコップを当てた後、口に傾かせ、ゴクゴクとジュースを飲みほした。

「かああ美味いっ! お仕事終わりの乾杯はっ」

「お前らフェニックスを護衛してから一日だぞ。なぜ祝う」

俺は冷静に、護衛一日目の夜の祝会にツッコミをかました。しかも俺の城で。

「何を言う、護衛に成功したからさ!」

「いや、まだフェニックスは安全になったわけじゃ……」

「そうですよレハさん。護衛に成功したからこそ祝う価値があるんですよ」

「成功は暗殺部を滅ぼしてから祝え。フェニックスはまだ安全になったとは限らない」

今日はスナイパーと空間魔術師とその他の部員から護衛に成功しただけであって、今後もまだフェニックスを狙ってくるかもしれない。それに、俺は後方を見た。後方には捕えた暗殺部の部員総勢十九人をまとめて縄で縛り、固定させている。皆尻餅ついて座っている。

「それに、なぜ暗殺部の部員まで連れてきたんだ」

「何をって、そりゃあ拷問するためよ」

「そうだレハ後輩。この俺の雷で、暗殺部の居場所を突き止めてやる」

「いやだからといって、俺の城に連れてほしくなかったんだが……」

俺たち善魔生徒会は、あのゲーティア高校のどこに暗殺部の部室があるのか把握していない。だからこの十九人の部員を、雷の拷問で吐き出させてやるのが狙いか。

「いやだって、悪い悪魔は牢屋に入れるべきでしょ? ここ牢屋あるじゃない」

「……そういやあったっけな」

牢屋を使う機会などないから、俺自身牢屋があったこと自体忘れていた。確かこの城の地下に牢屋があったと思う。

「まっ、まずは祝ってから拷問しましょ」

「普通拷問してから祝うだろ。仕事を先伸ばしするな」

今夜のメインディッシュはウァサゴの強い要望と祝会のため、怪獣の巨大な鳥を捕まえ、姿の丸焼きにした。三人はテーブルに座り、巨大鳥の姿焼きを分け合って食し始めた。

「なんだか悪いなフェニックス。たかたが護衛一日目で派手にはしゃぎ、挙句、今夜の飯も鳥で」

「いえいえ、そんなこと」

フェニックスは謙遜し、すかさず次の言葉を発した。

「それに、私のためだけにこんなに祝ってくれるだなんて……私、嬉しいです。生きててよかったと初めて思えました」

満面の笑みを思い浮かべてくれた。護衛させられる者からすればたった一日目の護衛ではしゃがれたら困惑するだろうに。なんか申し訳ない。更には今夜も鳥肉料理で、再び共食いさせてしまうだなんて。せめて共食いさせないように晩飯を要望させないようにしてくれよ。

「では、いただきます」

フェニックスはフォークとナイフを持ち、テーブルの中心にある怪獣鳥の姿焼きの皮をナイフで横にのこのこと切り始めた。

「その……聞くが、フェニックスは鳥なんだよな。共食いは気にしないのか?」

するとフェニックスは静かに真顔で俺を見つめてきた。

「……そんなこと気にしていたらなんでも食えないじゃないですか?」

「お、おうそうか」

本人はあまり気にしていないらしい。とはいえ、牛に馬に兎に豚に、肉の種類は豊富なのだがな。食えるものはいくらでもある。

 皮を斬って、フォークで軽く刺し、口に運ぶ。

「ううんうまあいです! 肉汁豊富でそれですっきりしていて、スパイスが効いてます」

「おおい俺たちにも食わせてくれー!」

「俺たちもお腹空いたよおおおおお」

満足に食べるフェニックスやウァサゴたちの背景の裏には、十九名の暗殺部の部員がお腹を空かして彼女らを羨ましそうに見つめてくる。

「お前らにこの肉を食わせてやる資格はない!」

ウァサゴがフォークで肉片を刺して、口に入れながら答えた。

「それでも食いたければ言いなさい。暗殺部の部室を!」

交換条件として部室の場所を聞いた。

「し、知らねーよ!」

「ヒラ部員にも本部室の場所分かんねえよ!」

それに対し、部員ともあろう者が正直に『知らない』『分からない』と答えた。

「なぜ知らないんだ? お前ら部員だろ」

「暗殺部は人気な部活動なんだぜ……ヒトを殺せるしな」

「だから部員が多すぎて、第一部室とか第二部室とか複数の部室に分かれているんだよ。俺たちぁ第三部室のメンバーで、それぞれの部室でメンバーが違うんだ」

「しかも、学級によって暗殺部内の地位が分けられ、上学年ほど偉いんだ」

「俺たちヒラ部員は上学年の先輩から命令を受け、暗殺の武器としてこき使われて、その評価によって良い待遇を貰って部活動しているんだ」

複数の部員が分けて暗殺部の構造を教えた。こいつらの話によると、ヒラ部員が命令を受ける側で地位は低い。となると一年生となるのか。当然命令を出す側が三年生ということになる。暴力団の仕組みと同じだな。

「じゃあ、そもそもフェニックス暗殺の命令を出したのは誰なんだ?」

「カイム先輩だ!」

馬鹿正直に答えてくれた。拷問を受けたくないから正直に話しているのやらお腹相当空かしているから話すのやら。どちらにせよ暗殺部という組織に魂まで売って忠誠を誓っている姿勢は見られない。

「ウァサゴ、カイムって何者だ?」

暗殺部の部員に聞くより、同じ三年生のウァサゴに聞いた方が早いと思い、聞いてみたがウァサゴは「分かんない」とはっきりと答えた。

「だってクラスがあなたたちもそうだけどA組からH組まであるのよ。多いから顔分かるわけないじゃない」

「そ、そりゃそうだな。聞いて悪い」

基本的に学生が多いこのゲーティア高校はA組からH組までクラスが分けれている。当然顔が見たことのない生徒同士もあるに決まっているか。

「言っとくが俺たちも顔知らねーよ!」

「姿は俺たち一年生には見せねんだ!」

改めて部員に聞こうと思ったが先に言ってくれた。

「なるほどな」

偶然にも誰も顔を知らないとされているカイム。せめてウァサゴが同クラスで見たことがあると言ってくれれば良かったのだが。

「部室が複数に分かれていると言っていたな。どこの部室に居るのかは分かるのか?」

ダメ元で聞いてみる。ただでさえヒラ部員が多い謎の組織暗殺部だ。上学年の先輩の顔すら知らない一年生が居場所まで分かれば顔を見るのは容易いことだ。

「三年生は本部室という、暗殺部の本事務所があるんだ。恐らくそこにカイム先輩がいる」

「だが俺たちぁ本部室の居場所は知らねえ!」

「……ま、当然か」

これで聞けるものは聞けた。話をまとめると、このフェニックス暗殺の主犯格はカイムという三年生で、一年生を使ってフェニックスを殺そうとした。カイムの顔や姿は一年生たちは見たことが無く、偶然にもウァサゴも見たことが無い。そして、暗殺部の本部室に居るという。しかし肝心の本部室の場所すら知らない。つまり手詰まりだな。

「それより食わせてくれよ! 話せるもの全て話したぜ!」

「お腹空きすぎて下痢がきたあああ」

「さっきからいい匂いがして羨ましいんだよ!」

強引に暗殺部第三部室部員らが飯を食わせろと要求してきた。まあ、聞けるものすべて聞いたし、俺はこいつらに飯を恵んでもいいと思った。がウァサゴはどうだろうか。

「ダメよ!」

交換条件として話したのにもかかわらず拒否した。

「なんでだよおおお!」

「だってこの姿焼きをあなたたちにも与えたら、私たちの分が無くなるじゃない!」

「「「「「「えええええええええええええええええええっ! そんな理由?!」」」」」」

なんて強食なんだ。さっきとは違う話ではないか。本当に善魔なのかこいつは。

「おいウァサゴ、おかわりくれてやるからいい加減恵んでやれ」

「ほんとぉ!? やった嬉しいわあ」

こんなこともあろうかと、怪獣鳥を二体捕まえておいたのだ。どれ、今から焼くかね。

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