八咫烏 〜神になるか、人として戦うか〜

秀零

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第39話 胸に灯る微かな熱

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食堂を出て、女性メンバーの皆と地上で夕日を見た後、地下へ戻る通路を歩いていた。

(……少し気分が楽になった……皆、優しい……)

そんなことを考えていると、前方から数人の気配が近づいてくる。

「ねぇ、あれ……」

桔梗さんが目を細めると、そこには汗を拭きながら歩いてくる煌さん、水輝さん、八雲さんの姿があった。

(……訓練終わり……?)

男性陣は上着を脱ぎ、インナーも脱いでいて、上半身が裸だった⸺。

逞しい腕、鍛え上げられた胸板、滴る汗。

「「……」」

私と凛子さん、千歳さんは思わず固まった。

「ふぅん……なかなか見応えあるじゃない。」

絢華さんは平然とした顔で呟く。

「お、お疲れ様ですっ……!」

顔が熱くなるのを感じながら、思わず声を張った。

水輝さんがいつもの調子でニカッと笑う。

「おっ、天音ちゃん!今、見てた? 俺のこの筋肉!」

「み、見てませんっ……!」

慌てて視線を逸らすと、八雲さんが無表情のままタオルで首筋を拭いていた。

「……邪魔だ、どけ。」

その言い方は冷たいけれど、怒っているわけではないらしい。

八雲さんとは、これが初めての会話だけど、冷たい言葉とは裏腹に、その視線には小さな優しさが滲んでいた。

煌さんは私を一瞥すると、口元だけで笑った。
その瞳はやっぱり何を考えているのか分からない。

「……そんなに恥ずかしがらなくていいんじゃない?こいつ等なんて、訓練終わりはだいたいこの格好よ……。紫苑も含めてね。」

「あ、絢華さんっ……!」

(いつも、この格好なの?!)

絢華さんの、衝撃の事実に私は更に顔が熱くなるのを感じた。

桔梗さんが呆れたようにため息を吐き、肩をすくめる。

「さっさと戻るわよ。」

「はい……!」

女性陣とすれ違い、曲がり角を曲がった瞬間。

「……あ。」

通路の奥から、ゆっくりと歩いてくる気配があった。

見上げると、そこには紫苑さんが居た。

汗で髪が少し乱れ、鍛え上げられた上半身が露わになっている。

(……紫苑……さん……?)

夕暮れの薄明かりが、紫苑さんの体を淡く照らしていた。

「……どうした。」

低く落ち着いた声が響く。

目が合った瞬間、胸の奥がきゅっと締め付けられる。

「っ……あ、い、いえ……!」

慌てて視線を逸らす。

(……駄目だって……こんなの……)

なのに、頬が熱くなるのを止められなかった。

紫苑さんはそんな私を見下ろし、無言で横を通り過ぎる。

通り過ぎる一瞬、微かに香る汗と体温の匂いに、心臓が跳ねた。

──でも。

(……紫苑さん……)

振り返ることもできず、私はただ、その背中が遠ざかっていくのを見送った。
(……紫苑さん……どうして……こんなにも……)
名前を呼ぶと、胸の奥がジリジリと熱くなる。
その熱を必死に堪えようとする自分が居た。

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