桜花狐鳴~幼子からチート級の狐の幼神へ。理を上書きして人生神からやり直し?!~

ましゅまろぽてち

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第3章

第30話

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高天原たかまがはらの最下層。光に満ちた神威かむいと、地上を結ぶ岩戸鳥居の前で、密命を受けた3人が立ち尽くしていた。鳥居の先には、重く淀んだ大気が広がり、黄泉の因果が滲み出ている。

桔梗ききょうは、深い金色の瞳で先を見据える。
「ここより先は、黄泉の因果が混じり、ことわりが不安定な領域。神威かむいは、常に極限まで研ぎ澄ませるべきだな」

月読命つくよみも、顔色一つ変えずに鳥居の結界を精査していた。
「穢れは、神々のことわりすら蝕むもの。細心の注意を払うべきだ……よし、まずは鳥居の先の状態を確かめるとしよう」

​「桜花おうかも、強くならなきゃ……!」
桜花おうかは、急成長した身体に合うように衣装を新しくした。朱雀すざくが、成長速度が早い桜花おうかの為に、大人になるまでの衣装を既に用意していたものだ。
​彼女の華奢な体に纏われた、赤と白の神々しい巫女装束は、後ろで半分束ねた白銀の長髪とよく似合い、幼さと神々の巫女としての威厳を併せ持っていた。

​3人が鳥居をくぐり、黄泉比良坂から少し距離のある、古びた鳥居の前に出た。

桔梗ききょうが現状を確認する。
「ふむ。この場はやはりあまり手入れがされておらぬな。先ずはすぐにここから西へ……ん、何か、妙な声が聞こえぬか?」

桔梗ききょう月読命つくよみの表情がだんだんと険しくなり、敵襲に備えて身構えていると……。

​「うわあああぁぁあーーーんッ!!」

​凄まじい号泣と共に、鳥居の中から白虎びゃっこが、勢いよく飛び出してきた。

​「嫌だーーッッ!! 置いてかないでェーーッッ!! 桜花おうかちゃんが頑張ってるのに、しーろだけ呼ばれてないーッ!! 何も教えないひおりんは意地悪だーっ!! うわぁぁん!」

月読命つくよみが、冷静さを保ちつつも困惑の声を上げる。
「ひ、ひおりん……。流石に退化してしまった白虎びゃっこは連れて行けぬぞ……」

桔梗ききょうは、顔をしかめ、眉間に深い皺を刻んだ。
「こらーっ!お主はまた性懲りも無く無茶をしおってーっ! あの時は助けられたが、その体をどれだけ心配しておると……」

​予想外の事態に、桔梗ききょうのお説教が止まらなくなってしまった。しかし、ここで桜花おうかから助け舟が出る。
​「もう、しーろったら。また転んだの? ほら、おいで」

桜花おうかに手を優しく包み込まれると、白虎びゃっこはピタリと泣き止み、「ほ、ほんと!? やったー! 桜花おうかちゃんが心配だったのー!ありがとう!」と抱きついた。

​姉妹のようなやり取りに、どちらが年上か困惑する桔梗ききょうは、深く息を吐いた。
​「……はぁ。致し方ない。では、白虎びゃっこ桜花おうかと同じように、儂の言う通りに指南を受けよ。しかし、自分の状態はわきまえておるだろう?もし穢れを溜めるようであれば、問答無用で高天原たかまがはらへ送還する!」

桔梗ききょうがそう厳命し、一行は黄泉比良坂の洞窟へと続く道へと踏み出した。

​しばらく歩き、瘴気しょうきの影響を確認しながら桔梗ききょうが進言する。
​「この瘴気しょうき、我らが感覚に影響を及ぼし始める。桜花おうか白虎びゃっこ、内に秘める神威かむいを常に張り巡らせるように意識せよ」

月読命つくよみが厳しい口調で呟いた。
​「これが、姉上が危惧していた、根源の崩壊か。須佐之男すさのおが治める根の国へと至る前に、この因果の歪みを肌で感じる必要がある」

​その横で、桜花おうか月読命つくよみへと顔を向け、少しだけ口角を上げた。
​「ねぇ、よみちゃん」

​その呼び方に、月読命つくよみの静謐な表情が、一瞬で固まった。
​「……な、なな、なん……!?」
月読命つくよみは、稀有なほど大きく目を見開く。

​「よみちゃんって、月読命つくよみのことだよね? ききょうが月読命つくよみのことを話してくれる時、そう呼ぶのがなんだか可愛かったから、私も呼んでみたの」

​横で聞いていた白虎びゃっこが、その様子を見て、パッと目を輝かせた。
​「わあ、よみちゃんだ!いいね、桜花おうかちゃん! しろも、よみちゃんって呼ぶ! よみちゃんだねー!」

月読命つくよみは、二人の幼い神に挟まれ、顔面を蒼白にさせた。彼は常に冷静沈着であり、神々からは厳格な月の神として恐れられていた存在のはずだった。
​「き、桔梗ききょう! なぜ貴様は……この幼神に幼少期の呼称を教えたのだ! この、我の威厳を著しく損なう呼び名……月の神のことわりに反する!」

桔梗ききょうは、月読命つくよみの困惑を、冷ややかな視線で見つめた。
​「ふん!何をいまさら。儂がそう教えたのは、幼い桜花おうかに分かりやすく神々の事を学ばせるためよ。それに、そなたの威厳など、既に天岩戸の時から失せておるであろう。」

月読命つくよみは必死に反論するが、桜花おうか白虎びゃっこは、楽しそうに笑い合った。

​この一瞬の和やかな光景は、しかし、すぐに破られた。

​一行が、大きな岩山のふもとに差し掛かった時、突如として周囲の瘴気しょうきの濃度が、尋常ではないレベルにまで高まった。

​「……来たか。瘴気しょうきの淀みに誘発された、荒ぶることわりを持つ者共よ。月読命つくよみ、警戒を強めよ!」
桔梗ききょうが、鋭い目つきで周囲を警戒する。

​その瞬間、岩山の影から、もはや数を数えるのも馬鹿らしくなるほどの、およそ数十体もの気性の荒い妖怪の群れが姿を現した。

​先頭にいたのは、狂気に染まった野犬のような姿をした野狗やこうの群れだ。その体からは黒い瘴気しょうきの煙が絶えず立ち上り、狂ったように吠えながら一行へと突進してくる。久しぶりの食事とばかりに、桜花おうか白虎びゃっこに標的を定めた。

さらに、その背後からは、泥田坊どろたぼうの変異体と思われる、粘液状の体を持つ数体が、腐敗臭を撒き散らしながら、共に迫っていた。

​「貴様らごときが、儂の娘に手を出すか!」
桔梗ききょうが、雷鳴のような咆哮を上げた。桔梗ききょうは武具を召喚せず、金色の神威かむいを全身に纏う。

​「まずはお主らに基本の戦い方を見せてやる!神威震電かむいしんでん!」
桔梗ききょうの全身を激しい神威かむいが覆い、荒れ狂う野狗やこうの群れに瞬時に接敵し、稲妻を纏った蹴りで蹴散らし、粘液状の泥田坊どろたぼうの変異体を浄化の炎で蒸発させる。一撃で数体を吹き飛ばし、周囲の瘴気しょうきを一時的に浄化するが、彼女の神威かむいの奔流は激しく、消耗も大きかった。

​「月読命つくよみ! 桜花おうか白虎びゃっこを護れ! 儂が道を開く!」

月読命つくよみもまた、虚空から八咫鏡やたのかがみを召喚し、分鏡ぶんきょうの防御結界を展開した。しかし、狂乱した野狗やこうの攻撃は予測不可能であり、瘴気しょうきや粘液が鏡の清涼せいりょうな気を穢そうとするため、防御の維持に力を要していた。

​結界の死角から、一体の野狗やこうが高速で白虎びゃっこの懐へ潜り込んだ。鋭い爪が白虎びゃっこの眼前まで迫り来る。

​―その時だった。

白虎びゃっこが反応できない寸前のところで、桜花おうかが自身の意思ではないかのように、反射的に身体が動いた。彼女は全身に神威かむいを覆うことなく、器用に右手に神威震電かむいしんでんの稲妻を収束させ、それを鞭のように振り払った。
​鋭い稲妻は、迫りくる野狗やこうに直撃し、瞬時に粉微塵の灰と化した。
​予想外の出来事に、桔梗ききょう月読命つくよみ、そして白虎びゃっこまでもが驚愕きょうがくに呆気に取られる。桜花おうか自身も驚愕きょうがくし、小さな体を震わせた。

​―だが、すぐに彼女の目は大きく見開かれ、まるでこの神威かむいの扱い方を完全に理解したかのように、その表情に確信が宿った。

桜花おうかは残りの妖怪の群れへと視線を向け、再び手先に神威かむいを集中させた。その銀色の髪が一瞬、淡く、桜色に発光する。

​遠距離から放たれた稲妻は、鞭のようにしなるどころか、一本の光の糸のように完璧な精度にまで達し、敵の霊核を貫いた。狂乱した野狗やこうや、動きの鈍い泥田坊どろたぼうの変異体を問わず、触れた瞬間、妖怪は呻き声一つ上げることなく、穢れだけを抜き取られ、まるで救済されたかのように、穏やかな表情で塵となって霧散した。

​光の糸は数十体の妖怪を瞬時に捌き切り、瘴気しょうきの群れは一掃された。まるで、世界を創る神が、魂から不要なゴミだけを払うがごとき、無駄のない所作だった。

桔梗ききょう神威震電かむいしんでんが全身を激しい神威かむいで覆い、大量のエネルギーを消費する力の奔流であるのに対し、桜花おうかが放った稲妻は、手先のみの最小限の神威かむいで、穢れを浄化するという因果だけを極限まで増幅させた、異質な現象だった。

​「な、なんと……!」月読命つくよみが純粋に声を震わせる。
「ひょえっ……ォェ゛ッ」白虎びゃっこは目の前がびかびかして気持ち悪くなってしまった。

​そして桔梗ききょうはただただ驚愕きょうがくする。
​(なんだ、この力は……! 儂の権能けんのうとは、根本的にことわりが違う。効率、精度、そして、神威かむいの消費量。全てが規格外……)

桔梗ききょうは、内心の戦慄を抑え込み、一瞬の沈黙の後、深く息を吐きながら、誇らしげに口角を上げた。
​「……ふむ。見事な応用よ、桜花おうか。側面だけではない、ことわりの本質を理解したようだな。流石、儂の娘よ」

​―数刻後。
​「ふむ……予想以上の消耗であったわ」
桔梗ききょうは、涼しい顔をしてはいるが、肩を僅かに上下させ、静かに息を吐く。
桜花おうかことわりの本質を理解したかと言ってはいたものの、内心、疲労と、先ほどの戦いでの底知れない驚愕きょうがくを隠すので精一杯だった。
​(黄泉比良坂よもつひらさかや、あの瘴気しょうきの影響が地上にも溢れ出しておるのか……?負荷が予想以上にかかっている中で、桜花おうかは儂よりも遥かに神威かむいの制御が出来ておる……それに比べて儂は、ただ垂れ流しているようなものか。いや、あれは制御などという生易しいものではない。まるで、新しいことわり……)

月読命つくよみも、厳しい表情で桔梗ききょうを見つめた。
​「桔梗ききょう。貴様の神威かむいの消耗は元々燃費が悪い。自慢の娘の前で羽目を外したか?」
​「……致し方ない。儂の娘を、この穢れの地で一歩でも進ませるためだ。それに、須佐之男すさのおを説得するには、これ以上の力と覚悟が必要となろう」
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