イメージファイター

滝乃睦月

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山田雄介2

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 山田がゆっくりと体を離すと神さんはドアに挟まれていた足をさすりながら「信じるものは救われますよ?」と言った。山田は半信半疑のまま仕方なさそうに中に招き入れる事にした。
「それでは。お邪魔します」
「靴、靴脱いでください!」 
 あ、そういう感じ? なんか靴脱ぐみたいなイメージ無かったわ、失礼失礼と呟きながら神様は中に入っていく。山田はテーブルの上の百万円の事を思いだし「あ、ちょっとかたずけるんで」と言って先に中に入り、百万円の束をソファの下にさっと隠した。こうなってるんだあ、とか言いながらソファに勝手に座りテレビをつけた神さんは手にもっていた袋からピザとコーラを取り出してテーブルの上に置く。ついでに山田が買ってきた物もテーブルの上に広げる。それを横目に見ながら山田は狭いキッチンの引き出しから取り皿やらグラスやらを準備する。この人はヤバイ。死ぬこと以外はかすり傷だ、成るようになる、そんなことを考えながら。
「これ食べたら帰ってくださいね」
「そう言わずに仲良くしましょうよ、お隣さん同士」
 ささっとグラスにコーラを注ぐ神さんに僕はこれ飲むんでと床の上に座った山田は慣れた手つきでウイスキーの蓋を開け、エナジードリンクと混ぜてハイボールを作った。昔先輩に酔いたいときはこれがいいと聞いて以来良くも悪くも感情が高ぶった時はこれと決めていた。
「それじゃ乾杯」
 神さんはグラスを山田の前に差し出す。
「あ、どうも」
 山田もそれに合わせるようにグラスをコツンとあてお互い一気にそれを飲み干した。
「山田もピザ買ってきたんだ。合うよね炭酸と」
 別にあんたに食べてほしくて買った訳じゃない。神さんの馴れ馴れしい態度に腹をたてながら山田は二杯目のハイボールを作る。
「さっきの話なんですけど、何で知ってるんですか? 説明できます?」
「聞きたい? あーでもどうしよっかな、説明できないもん。絶対しんじないもんなあ」
 いやいや、ちょっと待ってくれ。それじゃ今何のためによく知らない怪しい奴を自分の部屋にいれてると思ってるんだ。その説明次第ですぐにでもお帰りいただく心構えはできている。山田はあせる気持ちを落ち着かせようとまたハイボールを流し込む。
「信じます、信じますよ」
「イメージ。山田あのとき神様ってお願いしたじゃん。それ」
 左手に持ったピザをもっちゃもっちゃ食いながら空いた右手で山田を指差す。
「……確かに。でもあれはいつもの事で」
「気まぐれみたいなもんだよ。君らの感覚でいうなら、あ、百円落ちてるみたいなさ」
 それ飲んでもいい? なんていいながら山田のハイボールを喉を飲み干す神さん。
「そんなもんで……」
「そんなもんなんだって。満たされたんでしょ? いいじゃん、山田はくじが当たって嬉しい。私はこうしてピザを食ってコーラが飲める」
「じゃあ、神さんにお願いしたら何でも願いが叶うんですか?」
 食いぎみに返す山田に神さんは少し考えた風な間をあけてこう言った。
「叶うっちゃあ叶うけど厳密にはそうじゃないんだよね。私がえいやぁっていって何かが起こるわけではなくて、あくまでそういうイメージがあってそこから沢山ある現実の中の一つに落ち着くみたいな感じ? さっき言った百円拾っちゃおうかみたいな」
 山田はだんだん訳がわからなくなっていった。アルコールがまわってきたこともあってさらに思考が鈍くなる。
「神さんは神様じゃないの?」
「私が、神だ」
 急に真顔になる神さんはすぐ表情をくずしてなんちゃって、と舌をだして笑う神さん。何を聞いても腑に落ちない答えばかり返って来るので山田はだんだんどうでもよくなってきた。もし本当にこの人が神様だったら仲良くして願いを叶えて貰えるかもしれないという下心もどこかへいってしまった。     
「まあ、何でもいいです。これからお隣さんって事で仲良くしましょうか」
 そういうと山田はさっさとテーブルの上の物を消化し始めた。食べるものが無くなれば神さんも帰るだろうと、そのあとはテレビのニュース番組を見ながらどうでもいい世間話で時間を埋めた。エナジードリンクで割ったハイボールのおかけで山田はいい感じにキマッテていた。
「神さんって何してる人?」
「私はなにもしてないよ。ただここにいるだけ。イメージだから」
「そっかあ、んじゃイメージすれば自分も神様になれんのかな」
「なれるなれる何年も、何十年も続けられたら」
「マジか、ヤバイね」
 そんな話で笑い合う二人は完全に酔っぱらっていた。
「でもね、悪いイメージはやめた方がいい。神様ってのは気まぐれだから」
「へぇー、そうなんだぁ」
 眠くなったのか山田は床の上に伸びて雑に返事をする。
「世の中の出来事なんて全部じゃないけど人がイメージしたことが形になってるんだよ。私たち神様が決められる事なんてないんだから。数あるイメージの中の一つなんだよって、おい! 寝んなよ!」
 山田はすでにイビキをかいて夢の中だった。
「……まあ、それでも選ぶことはできるんだよね」と言って神さんはテレビを眺めながら呟いた。
 某国が大陸間弾道ミサイルを発射したというニュース速報を眺めながら。 
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