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第一章「闇割鬼往来(やみをさくおにのゆきき)」
【魂魄・壱】『輝く夜に月を見た』15話「輝夜の君」
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キザシとキジ、それにトキは貴武に憑いた「禍々しく邪悪な気」の正体を探ることを水面下で探る一方、命じられた朝廷軍部の仕事をこなす必要があった。
直近に命じられた指令がこの宝探し……輝夜の君が求めたという「仏の御石鉢」だ。それにしても輝夜の君とは何者だろうか。
数年前、獣の村の一角に住む老人が山で竹を採集していた際に光り輝く一本の竹を見つけた。不思議がり割ったところ中から珠のような赤ん坊が出てきたという。
その赤ん坊はスクスクと美しく成長し各村々にまでその評判が広がり、それはついに朝廷にまで及んだ。
キジは市中に広がった噂話を広く収集しまとめたものを簡潔に説明した。彼女は機動力に優れ、思慮深く、冷静に物事を分析するのが得意だ。
キザシはいつも諜報活動の際には彼女に判断を一任していた。そんな聡明なキジは話を続ける。
「仏の御石鉢、蓬莱玉の枝、緋鼠の裘、龍首の珠、燕が産し小安貝……それらを婚姻の条件として五人の公達にお求めになったそうです」
朝廷は国皇を筆頭に日ノ本を五つの地域に分断し自分の息子達に治めさせている。輝夜の君が獣の村出身である事から、狂都を治める貴武には仏の御石鉢が求められたのだった。
「……すでに次兄である紗君様は蓬莱玉の枝に見当が付いたとのことです。貴武陛下はひどく焦っておいでかと……」
キジは理知的に分析し説明する。国皇の次男である紗君は幼い頃から優秀で麒麟児とも呼ばれ、長兄である貴武はいつも追い抜かれる恐怖で弟を疎んじていた。
もちろん、これは朝廷の中枢に深く入り込んでいるキジだからこそ得られる情報だった。
彼女は続ける。
優秀過ぎる紗君は先頭を走る長兄貴武の背後をピタリと追走し、兄が愚かな失敗をしようものなら、いつでもその後嗣権をかすめ取ろうと虎視眈々と算段を練っているという。
彼は狂都を主都とする貴武支配の地域以東を治めており、穢土と呼ばれる都を主とした関東全域を統括している。
「紗君閣下が先に宝を手に入れたら貴武陛下は大きな恥をかいてしまうでしょう。輝夜の君の評判は今や天下に広く知れ渡っていますので……」
「そうだね。何はともあれ僕達は仏の御石鉢を探そう。見当はついているかい」
「はい。仏とは死者のことを指していると思われます。輝夜の君が提示した宝物はどれも聞いたことのないものばかり。おそらく存在しない類か希少性の著しく高いもの……ですから名称にも捻りが加えられているはずと思いまして」
「なるほど、キジの分析はいつも素晴らしいね。確かに輝夜の君が結婚の条件に提示した物はどれも不思議だ。もしかすると結婚を拒んで考えたのかもしれないね」
「はい。結婚に対する真偽は分かりませんが穢土の更に北にある地域には、万物の命を操る『殺生石』という岩があるそうです。この岩を削り出して作られた鉢が……」
「仏の御石鉢か……穢土には移動するだけでも数日はかかる」
「ハンッ、何をゴチャゴチャと面倒なこと言ってやがる」
ずっと口を閉ざしていたトキが少しイライラとした様子で切り出した。
「輝夜の君は狂都にいるんだろ? 他の皇子より陛下の方が有利、直接会って仏の御石鉢の正体を聞けばいいじゃなねぇかッ」
「……」
確かにトキの言う通りである。獣の村出身の輝夜の君は都にいる。ならば本人に直にあって聞き出すのが単刀直入なのではないか。少なくとも見当外れのものを探す時間は免れる。物事を難しく考える二人はポカンとして単純な思考のトキを見つめた……。
○
貴武が治める狂都は国皇が居を構える御皇所を中心に衛士達による守りが固められた堀内、そして都人が暮らす堀外に分かれている。
その少し西、竹林が荒れた山奥に皇子貴武の本拠地がある。その鬱蒼とした竹林に包まれた広大な山に聳え立つ大きな屋敷の一部屋に……輝夜は監禁されていた。
(なぜ、こんな事になってしまったのだろう)
思えば卯の村で祖父母と過ごしていた頃は幸せだった。
豪華とは言えないけれど慎ましくも清い暮らし。少しの野菜と雑炊だけの朝食を食べたら近所の子供達と野山を駆けて動物と戯れる。そんな当たり前の日常が朝廷の使いが迎えに来てからガラリと変わってしまった。
見るから高価な召し物に一日に三度出る贅沢な菓子付きの御馳走。起床すると女中が髪を整え化粧も施してくれる。
そして日に一回は「皇子」と名乗る男が来て執念深く求婚しにやってくる。その男が来る度に断っていたのだが、最近は男の弟と名乗る者が日ノ本の各地からやって来るようになった。
彼女は思う。銭と位で威張り散らす男との結婚なんて真平御免だ。だから絶対に手に入らない宝を手に入れた者となら結婚する……という無理難題を提示した。
どうせ誰も手に入れることはできないだろう。輝夜の君は小さな窓の横で溜息をついた。
(何より、私には「アレ」が必要だ。早く見つけないと……)
嘘には真実を匠に織り込むことで信憑性が増す。五つの宝の中に彼女自身が欲しがる、実際に存在するアレを混ぜておいた。監禁されている今は自分で探すことはできない。ならば求婚してくるバカな皇子にそれを探せよう……という算段だった。
輝夜の君はふと鏡を見る。そこには上品な身嗜みの美しい少女がいる。頭にはピョコンとウサギ耳が可愛らしく伸びており、長い黒髪は胸の下まで垂れ物憂げな表情は御伽噺に出てくる姫のようだ。
まだ幼さが残る顔は艶々としていて、星が煌めく瞳、それに唇には控えめな紅が引かれている。ふと窓から外を眺めると月が見えた。頬に温かいものが流れるのを感じた。
「君だったのか」
誰もいないはずの部屋。
この屋敷には多くの侍女がいるが輝夜の住まいには彼女しかいない。一人にして欲しいと言い何人をも寄せ付けなかったのだ。そんな静寂を破ったのは誰の声であろうか。振り返った輝夜の瞳に飛び込んできたのは、数日前に卯の村で出会った青年だった。
「あなたは……卯の村で会った」
「キザシといいます。あの時の処置は見事だったね」
「それにしても……どうやってこの部屋に」
キョトンとするウサギ耳の少女。彼女が幽閉された塔は貴武屋敷の中でも隔離された場所にあり、一つだけある扉は門番によって厳重に警備されている。皇子と侍女以外は登って来れないはずだ。
「お初にお目にかかります。私はキジ、この翼でここまで飛んで参りました」
「まぁ発案したのはオレだけどな。夜だから人目に付かずに来れたぜ」
「驚いたよ。キミが輝夜の君だったんだね」
少女は美しい白い翼を持つキジという女性を見てなるほどと思った。
「……そういえば、自己紹介してなかったわね」
そう呟くとウサギ耳の少女は長く伸びた美しい後ろ髪を後ろに払い、コホンと息を整えてキザシ達の顔を交互に見た。
直近に命じられた指令がこの宝探し……輝夜の君が求めたという「仏の御石鉢」だ。それにしても輝夜の君とは何者だろうか。
数年前、獣の村の一角に住む老人が山で竹を採集していた際に光り輝く一本の竹を見つけた。不思議がり割ったところ中から珠のような赤ん坊が出てきたという。
その赤ん坊はスクスクと美しく成長し各村々にまでその評判が広がり、それはついに朝廷にまで及んだ。
キジは市中に広がった噂話を広く収集しまとめたものを簡潔に説明した。彼女は機動力に優れ、思慮深く、冷静に物事を分析するのが得意だ。
キザシはいつも諜報活動の際には彼女に判断を一任していた。そんな聡明なキジは話を続ける。
「仏の御石鉢、蓬莱玉の枝、緋鼠の裘、龍首の珠、燕が産し小安貝……それらを婚姻の条件として五人の公達にお求めになったそうです」
朝廷は国皇を筆頭に日ノ本を五つの地域に分断し自分の息子達に治めさせている。輝夜の君が獣の村出身である事から、狂都を治める貴武には仏の御石鉢が求められたのだった。
「……すでに次兄である紗君様は蓬莱玉の枝に見当が付いたとのことです。貴武陛下はひどく焦っておいでかと……」
キジは理知的に分析し説明する。国皇の次男である紗君は幼い頃から優秀で麒麟児とも呼ばれ、長兄である貴武はいつも追い抜かれる恐怖で弟を疎んじていた。
もちろん、これは朝廷の中枢に深く入り込んでいるキジだからこそ得られる情報だった。
彼女は続ける。
優秀過ぎる紗君は先頭を走る長兄貴武の背後をピタリと追走し、兄が愚かな失敗をしようものなら、いつでもその後嗣権をかすめ取ろうと虎視眈々と算段を練っているという。
彼は狂都を主都とする貴武支配の地域以東を治めており、穢土と呼ばれる都を主とした関東全域を統括している。
「紗君閣下が先に宝を手に入れたら貴武陛下は大きな恥をかいてしまうでしょう。輝夜の君の評判は今や天下に広く知れ渡っていますので……」
「そうだね。何はともあれ僕達は仏の御石鉢を探そう。見当はついているかい」
「はい。仏とは死者のことを指していると思われます。輝夜の君が提示した宝物はどれも聞いたことのないものばかり。おそらく存在しない類か希少性の著しく高いもの……ですから名称にも捻りが加えられているはずと思いまして」
「なるほど、キジの分析はいつも素晴らしいね。確かに輝夜の君が結婚の条件に提示した物はどれも不思議だ。もしかすると結婚を拒んで考えたのかもしれないね」
「はい。結婚に対する真偽は分かりませんが穢土の更に北にある地域には、万物の命を操る『殺生石』という岩があるそうです。この岩を削り出して作られた鉢が……」
「仏の御石鉢か……穢土には移動するだけでも数日はかかる」
「ハンッ、何をゴチャゴチャと面倒なこと言ってやがる」
ずっと口を閉ざしていたトキが少しイライラとした様子で切り出した。
「輝夜の君は狂都にいるんだろ? 他の皇子より陛下の方が有利、直接会って仏の御石鉢の正体を聞けばいいじゃなねぇかッ」
「……」
確かにトキの言う通りである。獣の村出身の輝夜の君は都にいる。ならば本人に直にあって聞き出すのが単刀直入なのではないか。少なくとも見当外れのものを探す時間は免れる。物事を難しく考える二人はポカンとして単純な思考のトキを見つめた……。
○
貴武が治める狂都は国皇が居を構える御皇所を中心に衛士達による守りが固められた堀内、そして都人が暮らす堀外に分かれている。
その少し西、竹林が荒れた山奥に皇子貴武の本拠地がある。その鬱蒼とした竹林に包まれた広大な山に聳え立つ大きな屋敷の一部屋に……輝夜は監禁されていた。
(なぜ、こんな事になってしまったのだろう)
思えば卯の村で祖父母と過ごしていた頃は幸せだった。
豪華とは言えないけれど慎ましくも清い暮らし。少しの野菜と雑炊だけの朝食を食べたら近所の子供達と野山を駆けて動物と戯れる。そんな当たり前の日常が朝廷の使いが迎えに来てからガラリと変わってしまった。
見るから高価な召し物に一日に三度出る贅沢な菓子付きの御馳走。起床すると女中が髪を整え化粧も施してくれる。
そして日に一回は「皇子」と名乗る男が来て執念深く求婚しにやってくる。その男が来る度に断っていたのだが、最近は男の弟と名乗る者が日ノ本の各地からやって来るようになった。
彼女は思う。銭と位で威張り散らす男との結婚なんて真平御免だ。だから絶対に手に入らない宝を手に入れた者となら結婚する……という無理難題を提示した。
どうせ誰も手に入れることはできないだろう。輝夜の君は小さな窓の横で溜息をついた。
(何より、私には「アレ」が必要だ。早く見つけないと……)
嘘には真実を匠に織り込むことで信憑性が増す。五つの宝の中に彼女自身が欲しがる、実際に存在するアレを混ぜておいた。監禁されている今は自分で探すことはできない。ならば求婚してくるバカな皇子にそれを探せよう……という算段だった。
輝夜の君はふと鏡を見る。そこには上品な身嗜みの美しい少女がいる。頭にはピョコンとウサギ耳が可愛らしく伸びており、長い黒髪は胸の下まで垂れ物憂げな表情は御伽噺に出てくる姫のようだ。
まだ幼さが残る顔は艶々としていて、星が煌めく瞳、それに唇には控えめな紅が引かれている。ふと窓から外を眺めると月が見えた。頬に温かいものが流れるのを感じた。
「君だったのか」
誰もいないはずの部屋。
この屋敷には多くの侍女がいるが輝夜の住まいには彼女しかいない。一人にして欲しいと言い何人をも寄せ付けなかったのだ。そんな静寂を破ったのは誰の声であろうか。振り返った輝夜の瞳に飛び込んできたのは、数日前に卯の村で出会った青年だった。
「あなたは……卯の村で会った」
「キザシといいます。あの時の処置は見事だったね」
「それにしても……どうやってこの部屋に」
キョトンとするウサギ耳の少女。彼女が幽閉された塔は貴武屋敷の中でも隔離された場所にあり、一つだけある扉は門番によって厳重に警備されている。皇子と侍女以外は登って来れないはずだ。
「お初にお目にかかります。私はキジ、この翼でここまで飛んで参りました」
「まぁ発案したのはオレだけどな。夜だから人目に付かずに来れたぜ」
「驚いたよ。キミが輝夜の君だったんだね」
少女は美しい白い翼を持つキジという女性を見てなるほどと思った。
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