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第四章「三竦蠱毒闇(さんすくみこどくのくらがり)」
【魂魄・壱】『輝く夜に月を見た』27話「穢土事変」
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「サトリ……元気でしょうか……」
フサは竜宮で看病されたあと懐かしい名前を聞き穢土を目指していた。海の都と同じ構造であろう呼吸可能な球体に乗り、海妖精達に穢土近海まで送って貰ったのだ。
浅瀬で彼女達と別れ得意の犬かきで近くの浜を目指した。浜では漁師と思しき影が幾つか見えたが、穢土の人々は半獣に対し友好かどうか定かでないので隠れて上陸した。
負傷した二人の異人のことも気になっていたが、龍宮にいれば安心できるし旧友であるサル族の半獣サトリと是非とも会いたかったのだ。
かつて一緒に冒険をしたキザシやキジとも再会できたことを話したかったし、安否を確認し昔話に花を咲かせたかった。けれど頑固者の彼は一筋縄ではいかないだろう。面倒くさい性格のかつての盟友の事を考えてフサはクスリと微笑んだ。
「ここが穢土ですかっ」
西国の都は貴武のもと半獣達の住む十二の村が形成されヒトがそれを統治していた。
生まれや種族による位の違いは多くの半獣の反発を買いフサやサトリのように朝廷に敵対心を持つ者も多く、虫怪羅と蔑称され最下層の生物として扱われた土蜘蛛のような存在もいた。
しかし、この紗君の治める穢土における種族間の関係にフサは驚きを隠せなかった。なぜならここでは半獣がヒトを管理していたのだ。それも西国ではおよそ見たことのない異形の者たちであった。
ある者は体中にザラザラとした鱗のようなものがあり、魚の背びれや角をもつ者もいた。多くの半獣は鋭い爪を持ち目付きは鋭く、話しかけるのも躊躇するほどであった。
「この半獣達は……」
「お前さん、どこから来た」
目を遣ると不思議な姿の半獣がフサを見上げていた。ザラザラの皮膚をした大きな顔に視点の定まらない大きな二つの瞳、顔の半分以上もある大きな口からニョロリと長い舌が垂れ下がった初老の半獣がいた。
「うっ」
「吾の姿を見て驚くとは……獣のような耳、フサフサの尻尾、お前さんは西国の半獣だね」
「あ、あなたは……」
「吾は東国の竜人、カメレオン族のピッポコと申す者。穢土の賢者とも人は呼ぶな……」
「私はフサです。東国の……竜人?」
「左様。お前さん達が暮らす狂都とここ穢土は様子が違うことに驚いたであろう……左様、ここでは我ら竜人がヒトを管理しておる」
「半獣が……ヒトを……」
「否、半獣ではない。我らは誉れ高い竜人じゃ。一緒にするでない」
「では、ここでは半獣は……」
「我らよりは下じゃがヒトよりは上じゃ、見てみい」
フサは行き交う者達を観察してみた。確かに道端に座り農作物や道具を売っているヒトは泥だらけでボロボロの汚れた布切れを体に巻いていた。
ヒトが売る商品を手に取り吟味して乱暴に扱っているのは高級そうな衣服の竜人だったが、彼らの手には紐が握られており先には首輪で繋がれた半獣達がいた。
「首に輪っかだと……なんたる侮辱っ」
「驚くのも無理はないが……ここでは当然のことよ。紗君様の方針でな……『竜人は半獣を従わせ、ヒトを道具として扱え』という法律がある」
「え、紗君もヒトではないのですか」
「紗君様はヒトじゃ。それには理由があってな……あわわっ、うんにゃそういう決まりじゃ。つまらぬことを聞くでないっ」
「決まり……」
「それはそうと、お主は穢土に来て何をしておるんじゃ?」
「私は旧友を探しています……海妖精達に東国にいると教えて貰って」
「海妖精っ、お前さんもしや竜宮から来たのか?」
「え、はい」
「そうか。ならばあの城へ行けるかもしれん。半ば諦めていたが……お前さん、吾に協力しろ」
「話が見えませんが……」
「お前さんと吾の利害が一致したのじゃ。考えるほどの事ではあるまい。お前さんとて慣れぬこの地で協力者が必要じゃろ」
「しかし……」
「ええぃ煮え切れぬ奴じゃっ、急がぬと奴らが来るぞ」
「奴ら?」
「……しまったっ奴らじゃ。云わぬことではない……フサよ、これを付けろっ」
「首輪……?」
突然の出来事にキョトンとするフサを無視してピッポコは彼に首輪をつける。ガチャンと鈍い音がして、強く紐を引っ張られると思わずキャンと鳴いてしまう。
「おやおや、自称賢者のピッポコではないか。みすぼらしい半獣を連れて竜人きどりか」
「これは竜人衛士の方々……へぇ、ようやく吾も半獣を得まして」
ピッポコが竜人衛士と呼んで跪いた武人達はヤモリやトカゲの半獣で同じ甲冑を身に付け、いかにも偉そうな態度をとっていた。
彼らは「目障りな竜人モドキめ」と侮蔑を込め憎々しげにピッポコを睨みつけると彼を足で踏みつけた。
「ぎゃふぅッ」
「紗君様のお陰でギリギリ生きていられるお前が立派に半獣連れだと? 笑わせるな、冗談は顔だけにしておけっ」
「元は卑しいヒトに仕えていたくせに、穢土に住めるだけ有難いと思え」
「びでぶっ」
地面に顔を押し付けられたピッポコが苦しそうに呻いた。そんな哀れな半獣に竜人衛士は笑いながら唾を吐き苛め抜くと、興ざめして飽きたのか去っていった。
「今のは……」
「……見苦しいところを見せてしまったな」
「何か事情がありそうですね……話してください」
フサに促されてピッポコはたどたどと穢土事変について話し始めた。
フサは竜宮で看病されたあと懐かしい名前を聞き穢土を目指していた。海の都と同じ構造であろう呼吸可能な球体に乗り、海妖精達に穢土近海まで送って貰ったのだ。
浅瀬で彼女達と別れ得意の犬かきで近くの浜を目指した。浜では漁師と思しき影が幾つか見えたが、穢土の人々は半獣に対し友好かどうか定かでないので隠れて上陸した。
負傷した二人の異人のことも気になっていたが、龍宮にいれば安心できるし旧友であるサル族の半獣サトリと是非とも会いたかったのだ。
かつて一緒に冒険をしたキザシやキジとも再会できたことを話したかったし、安否を確認し昔話に花を咲かせたかった。けれど頑固者の彼は一筋縄ではいかないだろう。面倒くさい性格のかつての盟友の事を考えてフサはクスリと微笑んだ。
「ここが穢土ですかっ」
西国の都は貴武のもと半獣達の住む十二の村が形成されヒトがそれを統治していた。
生まれや種族による位の違いは多くの半獣の反発を買いフサやサトリのように朝廷に敵対心を持つ者も多く、虫怪羅と蔑称され最下層の生物として扱われた土蜘蛛のような存在もいた。
しかし、この紗君の治める穢土における種族間の関係にフサは驚きを隠せなかった。なぜならここでは半獣がヒトを管理していたのだ。それも西国ではおよそ見たことのない異形の者たちであった。
ある者は体中にザラザラとした鱗のようなものがあり、魚の背びれや角をもつ者もいた。多くの半獣は鋭い爪を持ち目付きは鋭く、話しかけるのも躊躇するほどであった。
「この半獣達は……」
「お前さん、どこから来た」
目を遣ると不思議な姿の半獣がフサを見上げていた。ザラザラの皮膚をした大きな顔に視点の定まらない大きな二つの瞳、顔の半分以上もある大きな口からニョロリと長い舌が垂れ下がった初老の半獣がいた。
「うっ」
「吾の姿を見て驚くとは……獣のような耳、フサフサの尻尾、お前さんは西国の半獣だね」
「あ、あなたは……」
「吾は東国の竜人、カメレオン族のピッポコと申す者。穢土の賢者とも人は呼ぶな……」
「私はフサです。東国の……竜人?」
「左様。お前さん達が暮らす狂都とここ穢土は様子が違うことに驚いたであろう……左様、ここでは我ら竜人がヒトを管理しておる」
「半獣が……ヒトを……」
「否、半獣ではない。我らは誉れ高い竜人じゃ。一緒にするでない」
「では、ここでは半獣は……」
「我らよりは下じゃがヒトよりは上じゃ、見てみい」
フサは行き交う者達を観察してみた。確かに道端に座り農作物や道具を売っているヒトは泥だらけでボロボロの汚れた布切れを体に巻いていた。
ヒトが売る商品を手に取り吟味して乱暴に扱っているのは高級そうな衣服の竜人だったが、彼らの手には紐が握られており先には首輪で繋がれた半獣達がいた。
「首に輪っかだと……なんたる侮辱っ」
「驚くのも無理はないが……ここでは当然のことよ。紗君様の方針でな……『竜人は半獣を従わせ、ヒトを道具として扱え』という法律がある」
「え、紗君もヒトではないのですか」
「紗君様はヒトじゃ。それには理由があってな……あわわっ、うんにゃそういう決まりじゃ。つまらぬことを聞くでないっ」
「決まり……」
「それはそうと、お主は穢土に来て何をしておるんじゃ?」
「私は旧友を探しています……海妖精達に東国にいると教えて貰って」
「海妖精っ、お前さんもしや竜宮から来たのか?」
「え、はい」
「そうか。ならばあの城へ行けるかもしれん。半ば諦めていたが……お前さん、吾に協力しろ」
「話が見えませんが……」
「お前さんと吾の利害が一致したのじゃ。考えるほどの事ではあるまい。お前さんとて慣れぬこの地で協力者が必要じゃろ」
「しかし……」
「ええぃ煮え切れぬ奴じゃっ、急がぬと奴らが来るぞ」
「奴ら?」
「……しまったっ奴らじゃ。云わぬことではない……フサよ、これを付けろっ」
「首輪……?」
突然の出来事にキョトンとするフサを無視してピッポコは彼に首輪をつける。ガチャンと鈍い音がして、強く紐を引っ張られると思わずキャンと鳴いてしまう。
「おやおや、自称賢者のピッポコではないか。みすぼらしい半獣を連れて竜人きどりか」
「これは竜人衛士の方々……へぇ、ようやく吾も半獣を得まして」
ピッポコが竜人衛士と呼んで跪いた武人達はヤモリやトカゲの半獣で同じ甲冑を身に付け、いかにも偉そうな態度をとっていた。
彼らは「目障りな竜人モドキめ」と侮蔑を込め憎々しげにピッポコを睨みつけると彼を足で踏みつけた。
「ぎゃふぅッ」
「紗君様のお陰でギリギリ生きていられるお前が立派に半獣連れだと? 笑わせるな、冗談は顔だけにしておけっ」
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