魂魄シリーズ

常葉寿

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第二章「極道兆空刃(きわむみちきざしのそはや)」

【魂魄・肆】『鬼神啼く声儺にて聞く』16話「ヴィジャヤ」

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 ――ふり返ること数時間前

 溟真山の中腹にある溟真神社くらまじんじゃ溟真寺くらまでら。この二つは数名の烏天狗からすてんぐたちによって営まれていた。

「ふぅ、巫女の仕事にもだいぶ慣れてきたわね」

 カグヤは境内けいだいの落ち葉をほうきで一か所に集め、神を迎えるように準備をしていた。初めこそ寒いと思われた巫女装束も、身を清める修行のうちの一つと思えば、聖衣に護られた気さえしてくる。

 カカの考えは正解だった。

 キザシたちが修行に励むなか、ここで巫女の仕事をしているうちに発見した技がある。

 治癒の気操術「雪月花せつげっか」を自分なりに解釈し、多少の変化を加えて編み出した「月雪花つきゆきはな」は魄力はくりょくを癒す前者と異なり、魂力こんりょくを癒す。

「ヨイチも少しは成長したかしら」

「おぉい、カグヤぁ」

 ちょうど、彼のことを思い出していると、当の本人が嬉しそうに神社へとやってきた。彼はこの数日間、寺にこもり、精神統一のために座禅を組み、意識を更に鋭く研ぎ澄ませる修行に明け暮れていたと言う。

「一流の狙撃手スナイパーになった気分だぜ。まぁ、見てなよ」

 すると彼はいつもの雷神ではなく片手を拳銃ピストルのように握ると、境内の楓に標準を合わせて見事に気を放ち撃ち抜いた。

 すると一枚の真っ赤な紅葉が、ヒラヒラとカグヤの掌に落ちてきた。

「左右の手で今までの雷神の威力と同様の気操術を簡単に放つことができるんだ。目をつむってても背後の標的を的確に貫けるぜ。雷神を使えば連射も可能になったし……」

 ヨイチは数日前とは比べ物にならないほどの魂魄力こんぱくりょくを漂わせていた。カグヤは嬉しそうにしていたが、突然の声に思わず身を強張こわばらせる。

「カグヤくん、ヨイチくん、大変だッ……木葉天狗このはてんぐが攻めてきた。ものすごい数だぞッ!」

 それは神社で世話になっている烏天狗の神主かんぬしであった。彼は黒い翼を羽ばたかせて二人の元に駆けよるが、その彼を白い翼を羽ばたかせた木葉天狗の一撃が貫いた。

「ゥ……クィ……ンンァ」

「ミィ……ッッ……キキ」

 木葉天狗は言葉を話すほどの知能を持ち合わせていないが、その代り、烏天狗たちより残忍で狡猾だ。数も数倍数十倍はあり、いまだかつてない圧倒的な物量で押し寄せて来る。

 他の烏天狗が言うには、妖怪道の異なる彼らは、人里を襲撃しては夜な夜な子供を魔界に連れ去っていた。烏天狗は凶行を見つける度に阻止してきたので、これは報復であろうと話す。

「神社と寺を奪いとるつもりですッ、力を貸してください」

「もちろんですッ……ヨイチが攻撃してッ、私は回復にまわるッ」

「了解っとッ」

 ヨイチは雷神をとり出すと、空を赤く染める木葉天狗に標準を合わせることなく乱れ撃つ。彼が引き金を引く間、気が幾千の弾丸となり木葉天狗の鼻を吹きとばしていく。

「ケキャ……キッ」

 木葉天狗の一人が羽団扇で陣風を起こすと、地上で彼らを迎え撃つ烏天狗たちが吹き飛ばされた。烏天狗も術を発動させ、数珠じゅずを捻じり木葉たちを迎撃する。

火遁かとんの術ッ」

「ィナウッ……ァ」

 烏天狗の放った炎が数十匹の木葉天狗を火達磨にする。しかし、圧倒的な物量は、この程度では怯むことなく、勢いよく数を増やしていく。

「くそッ……多勢に無勢だ。このままじゃ俺の魂力が尽きちまうッ」

「わかったッ――月雪花ッ」

 カグヤは癒しの力でヨイチの魂力を回復させる。体中の気が魄から離れ一時的に裸体となるが、雪月花と微妙に意匠が異なる気の振袖が彼女を包む。月に照らされ、雪がヨイチに降り注ぎ、足元には色様々な花々が咲き乱れ、彼の魂力を回復させていく。

「サンキュッ……よし、新しく習得した技をお見舞いしてやる。これがインドラの矢ともうたわれた気操術……ヴィジャヤだァァァァッッ」

 ヨイチの咆哮と共に、赤い気を帯びた巨大な円柱型の柱が雷神から放出される。それは従来の雷神による弾丸に対してまるで砲撃のように発射され、一瞬にして木葉たちを焼き尽くす。

 枝と大木ほど異なる巨大な気の一撃は、百を超える木葉たちを一瞬にして消滅させた。

「ハァハァ……住職に教えて貰った異教の神から着想を得たんだが……魂力の消耗が激しいのが難点だ」

「スゴいじゃないっ!これなら敵を殲滅せんめつできるわっ」

「カグヤ、もう一度回復してくれ。あと一回のヴィジャヤで終わる」

「それは無理よっ、私自身も魂力を回復させる必要がある。私の技には時間が必要なのっ」

「なんだってッ!」

 ヨイチは目を見開き叫ぶ。

 ヴィジャヤは強力だが魂力消費も大きい。頼みの綱の月雪花に時間がかかるとなると、再び敵の襲撃を受けたら終りだ。

 ギリッと唇を噛むが、目の前に広がる絶望的な光景に瞬く間に戦意を失ってしまう。

「また……増えただとッ?」

 そう。

 烏天狗と力を合わせて、すでに数百は駆逐しただろう木葉天狗たちは、さらに数百の軍勢を伴って空を赤く染めていた。

 もう終わりだ……と、その場の誰もが悲観した瞬間、絶望が希望へと変わる。

「……間に合ったッ!」

「キザシくんッ、マミさんもッ……それに」

 カグヤが白馬の王子の登場に瞳を輝かせると、彼の師匠であるカカの背後から、見知らぬ半獣の姿を見つけて立ち止まった。

 飯綱いずなは、驚くカグヤたちの横を颯爽とすり抜けて、向かい来る木葉天狗たちの真下まで到達すると、身を屈んで拳を地面につき秘術を発動させた。
「秘術――鎌居太刀かまいたちッッ」
 
 ――ヒュンヒュンヒュンヒュンッ
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