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第二章「極道兆空刃(きわむみちきざしのそはや)」
【魂魄・肆】『鬼神啼く声儺にて聞く』18話「陰陽」
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黒く巨大な空弧がキザシにまとわりつく天狗たちを駆逐する。
それはムジナの放つ空弧の何倍も大きく、重低音を放つ漆黒の空弧だった。騒速はマミを抱き上げたままのキザシから放たれると、雪山に集められた無数の楓を巻きあげて、二人を取り囲んだ天狗を一人残さず狩っていく。
最後の一匹が断末魔の声をあげるとサラサラと風に消えていった。
「キザシ、お前ならかつて俊宗が編み出した騒速を扱えると思っていた。私が目を付けた二人の弟子のうち、ヒトである弟弟子がまたもや習得するとはな」
「……カカさまッ」
するとキザシの腕の中で気絶していたマミが目を覚ました。
「う、うぅん……パパっ、パパはッ?」
「……マ……ミ……マミ‥‥‥」
二人が駆け寄ると、虫の息で横たわる飯綱は娘の手を握って呟いた。
「ハァ……ハァ……お別れだ、マミ。今まで厳しく当たったのは、お前に……お前こそが私の技を……信念を継承する力があると……信じていたからだ」
「うんッ……うんッ……」
「願わくば……同じ道を歩んでくれることを、正道を歩んでくれることを望む……大嶽丸らが歩み損ねた……妖怪の正しい道をな」
「うッく……」
「そろそろ、お別れだ……フッ……己の死に時は己で見つけよか……カカさま、あなたの言うとおりだ……これで安心して死ねる」
「パパァァァァッッ、パパァァァァァァッッッッ!」
娘の成長した姿を見る事ができたムジナは静かに息を引き取った。こうして伝説の男と謳われた半獣は、娘に秘術を託し本手と派手の理を伝え、彼女の弟弟子に、かつて自分を慕った弟弟子と同じように騒速の閃きを与え、その天寿を全うした。
「……マミよ、飯綱の意思を受け継ぎ、立派に己の道を歩むのだ」
「はい……カカさま、ありがとうございます」
「そして、キザシ」
「はい」
キザシは立ち上がってカカの眼を真っ直ぐに見る。
「騒速は刀にして刀に非ず。陰三刃のうちの一つとされる魔剣だ。なんの因果か、お前はそれを会得するに至った。大嶽丸は残りの二つを血眼になって探すだろう。かつて自分を封じた騒速に対抗するには、それしかないからな」
「え、陽三刀ではなく、陰三刃を……?」
キザシは疑問に思った。
陰陽は相反する要素なのではないか。だとすると陰の騒速に対抗すべきは、陽の刀を持つ方が自然で納得がいく。
「陽極まりて陰となり、陰極まりて陽となる。二つの要素は表裏一体の関係にある」
「極まりて……」
「そうだ。この二つは対立しているように見えるが実態は同じだ」
「同じ……もの」
「ああ、だから今は残りの陰三刃を求めるのだ。大嶽丸に先を越されるでない」
「わかりましたッ」
そう言うとキザシはふり向いてカグヤとヨイチを見て頷いた。マミもまたそんな弟弟子の真っ直ぐな視線を受け止めるのだった。
それはムジナの放つ空弧の何倍も大きく、重低音を放つ漆黒の空弧だった。騒速はマミを抱き上げたままのキザシから放たれると、雪山に集められた無数の楓を巻きあげて、二人を取り囲んだ天狗を一人残さず狩っていく。
最後の一匹が断末魔の声をあげるとサラサラと風に消えていった。
「キザシ、お前ならかつて俊宗が編み出した騒速を扱えると思っていた。私が目を付けた二人の弟子のうち、ヒトである弟弟子がまたもや習得するとはな」
「……カカさまッ」
するとキザシの腕の中で気絶していたマミが目を覚ました。
「う、うぅん……パパっ、パパはッ?」
「……マ……ミ……マミ‥‥‥」
二人が駆け寄ると、虫の息で横たわる飯綱は娘の手を握って呟いた。
「ハァ……ハァ……お別れだ、マミ。今まで厳しく当たったのは、お前に……お前こそが私の技を……信念を継承する力があると……信じていたからだ」
「うんッ……うんッ……」
「願わくば……同じ道を歩んでくれることを、正道を歩んでくれることを望む……大嶽丸らが歩み損ねた……妖怪の正しい道をな」
「うッく……」
「そろそろ、お別れだ……フッ……己の死に時は己で見つけよか……カカさま、あなたの言うとおりだ……これで安心して死ねる」
「パパァァァァッッ、パパァァァァァァッッッッ!」
娘の成長した姿を見る事ができたムジナは静かに息を引き取った。こうして伝説の男と謳われた半獣は、娘に秘術を託し本手と派手の理を伝え、彼女の弟弟子に、かつて自分を慕った弟弟子と同じように騒速の閃きを与え、その天寿を全うした。
「……マミよ、飯綱の意思を受け継ぎ、立派に己の道を歩むのだ」
「はい……カカさま、ありがとうございます」
「そして、キザシ」
「はい」
キザシは立ち上がってカカの眼を真っ直ぐに見る。
「騒速は刀にして刀に非ず。陰三刃のうちの一つとされる魔剣だ。なんの因果か、お前はそれを会得するに至った。大嶽丸は残りの二つを血眼になって探すだろう。かつて自分を封じた騒速に対抗するには、それしかないからな」
「え、陽三刀ではなく、陰三刃を……?」
キザシは疑問に思った。
陰陽は相反する要素なのではないか。だとすると陰の騒速に対抗すべきは、陽の刀を持つ方が自然で納得がいく。
「陽極まりて陰となり、陰極まりて陽となる。二つの要素は表裏一体の関係にある」
「極まりて……」
「そうだ。この二つは対立しているように見えるが実態は同じだ」
「同じ……もの」
「ああ、だから今は残りの陰三刃を求めるのだ。大嶽丸に先を越されるでない」
「わかりましたッ」
そう言うとキザシはふり向いてカグヤとヨイチを見て頷いた。マミもまたそんな弟弟子の真っ直ぐな視線を受け止めるのだった。
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