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番外編 なくなってしまった未来②
死臭
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「んっ……ふぁっ、んんっ」
ねちっこいキスだった。唾液がダラダラ、顎を伝うのがわかる。地下室の、カビの生えた古びたソファにアルチューロ叔父さんが座って、俺は彼に跨って唇を貪っていた。
口は噛むなって以前キツく言われたから、吸血衝動に襲われてもグッと我慢する。目を閉じて、彼の首筋にゆっくり移動する。
「おいおいまたかよ。最近多いんじゃねーの?」
叔父さんの軽口が聞こえたが、水の奥底の叫び声が聞こえないのと同じ要領で、まったく頭に入ってこなかった。歯を立てると、一瞬だけ身体がこわばるのがわかった。
「いっ、た……」
腕を掴まれて、爪を立てられる。いつものことだから、まったく気にならない。そんなことより、口の中に入ってくる生ぬるい溶けたバターのような血液を堪能することのほうが大事だった。
アルチューロ叔父さんは、俺が吸い始めたら、絶対に中断させようとしない。爪こそ立てるものの、抵抗らしい抵抗はそれだけで、振り払ったり突き飛ばしたりしない。やろうと思えばいくらでもできるのに、俺が満足するまで吸わせてくれる。
このままだといつか、殺してしまうんじゃないかって心配になる。いつだったかそう言うと、「そのほうがスリルがあって楽しいじゃん」なんて答えてきて、調子が狂う。
皮膚がどんどん青白くなってはじめて、やっと我に返る。唇を離すと、皮膚が一部、紫色に変色している。
「吸いすぎだろ、今日」
首を抑えて、ふらふらと焦点の合わない視線を向けられる。ソファの背もたれに、ぐったりと頭を預けた。
「ごめん、つい」
「あーはいはい、生きててよかった~。生命に感謝」
いつもの軽口。俺がソファから降りると、頭を抑えてゆっくり立ち上がった。叔父さんは、いつも夜中に仕事をする。というか、昼間はほとんど寝ている。昔よりも眠っている時間が長い。死が近づいている人間は、睡眠時間がどんどん長くなるって噂を聞いたことがあるけれど、本当なんだろうか。
「同性愛は犯罪だって、また言われるぜ」
まだ少しふらつきながら、戸棚から肉切り包丁を取り出して、無造作に部屋の中央にある机に置いた。首からの血が滲んで、彼がいつも着ている喪服の襟を汚した。
「メアリー、あいつだって似たようなもんだ」
俺は小さく舌打ちをした。妹のメアリーは、学校とかいう場所に通うようになってから様子がおかしい。勝ち気な性格はなりを潜め、美人だがそれを鼻にかけている、おまけに成金の非摘出子の小娘の顔色を伺って生活をしている。
アルチューロ叔父さんは砥石に包丁を乗せ、何度も往復させた。鋭い金属が擦れるような音が部屋に響く。
「ま、俺たちは特別なんだから、多少のことは許してもらえるだろ」
「そうだね」
多少のことは許してもらえる。ブラッドリー家の子供たちにはそんな特権があった。歳を取らず、魔法を操り、ある程度のことは許される。そんな立場に憧れる人々は後を絶たない。これはそんなにいいものじゃないってことを、俺たち家族だけが知っている。
地下室へ続く階段がギシギシと鳴った。叔父さんはニヤリと笑って包丁を研ぐ手を止めた。軽く首を回して傷口を抑え、俺に向かって小さく手招きをする。
こうなると厄介だ。気分が少しだけ落ち込む。ため息をついて、俺は叔父さんの元へ歩を進めた。地下室はそんなに広くない。数歩も歩けばすぐにアルチューロ叔父さんの元へ辿り着く。
「ん、ら……ん、んんっ」
背伸びをして、またしても唇を重ねる。倒錯感で脳が支配される。首に手を回して、さらに深くキスを続けた。部屋のドアが開く音などおかまいなしに。
「なにしてるの……」
ストリートチルドレンを何人も拾ってきては世話をしていた。勉強を教えて、就職していった子供も、奨学金を貰って学校に進学した子供もいた。基本的に俺たちは親切に便宜を図っていた。しかし、たまにこういった事故が起こ
唾液を交換する行為は突然終わりを迎えた。さっきよりはベトベトしていない。洋服の袖で、軽く口元を拭った。
「あーあ、バレちゃった」
叔父さんは久々のアクシデントを楽しんでいるようだった。わざとこの状況を作り出したんじゃないかと思うくらいに。
扉の前に立っているのは男の子だった。食べるにはまだ少し早い。でも、仕方ないよね。これは事故なんだから。俺は机の上に置かれた、研いだばかりの肉切り包丁を手に取った。慣れたもので、手にしっかりフィットする。
「お、お前ら、頭がおかしい」
「なにそれ~。ホモは犯罪? それ言われるの何回目だろ。えーっとぉ。いち、にぃ、さん、しぃ――」
叔父さんは挑発するように、わざと指折りでカウントする。外見に似つかわしい、生意気な十四歳の少年、そう見える。実際はおっさんだけど。
怯えた表情の男の子に視線をやった。脂肪が少ないからやりやすい。見た感じ、年齢は十歳かそこらだろう。廃棄の食事をしっかり与えているから、痩せすぎているということはなかった。グリップを握る右手にじんわり汗が滲む。
「近親婚を繰り返して頭がおかしくなった……そう言われてるんだよ!!」
「そうなの?」
叔父さんはこの状況を楽しんでいるようだった。唇の端を釣り上げるその笑い方は、とてつもなく性格が悪そうに見えた。いやまぁ、実際悪いんだろうけど。
「さぁ? 今知った」
近親婚を繰り返した? そんな噂も立ってるのか。世間と隔絶された生活を送る俺たちにとって、噂話など些細な問題にすぎなかった。
「それが本当なら、最悪だね」
叔父さんは茶化すようにそう言って、部屋の隅のソファに戻って腰を下ろした。さっきとは違って、優雅に足を組んで、まるで絵画や、オーケストラを鑑賞するような態度だ。
「どっちみち、俺らには関係ない話だよ」
俺はそう答えた。肉切り包丁を右手に持って、男の子のほうへ向かう。後ずさる彼は、俺と外見はたいして変わらない。身長も、声も、生意気な態度も。
「君も、どうせ死んじゃうんだから神様にお祈りでもすれば?」
「絶対許さない、絶対」
諦めたのが、そうじゃないのかわからない。食材の気持ちなんて推し量るだけ無駄だ。何歩か後ずさったが、そんなのこの地下室じゃ意味をなさない。左手の指を鳴らして、一瞬でドアを閉めた。
ここからは俺の専門分野だ。うるさい動物を黙らせ、暴れるのを抑えて屠殺し、血を吸い出す。
魔法で人を殺すことはできない。とはいえ痛みを遮断するとか、身動きを封じるとか、そういうことはできるから、俺たち簡単なことだった。
特に俺は慣れている。ここにいる人間も、数え切れないほど殺してした。事故が多かった。豚肉と似ているから、フックに引っ掛けて出荷する頃には、誰も元が人間の子供だったなんて思わない。
苦しめるつもりはなかった。叫び声だけは厄介なので先に首を切る。そんなに時間はかからない。研いだばかりの包丁は切れ味が抜群で、余計に苦しみを与えることもなかった。
一気に振り下ろすと、三分の一ほどは簡単に刃が入った。この段階で、彼はもう助からない。コポコポと血が、泉のように吹き出して床を汚した。俺の服や顔にも盛大に跳ねて、胸が高鳴る。俺はこの瞬間のために生きている。そう錯覚するほどの高揚感。
ここまですれば、彼は声も出せない。意識も失う。それから思い切り力を入れて、ノコギリの要領でギコギコ刃先を動かしていく。骨を絶つのはなかなかに疲れる。重労働だ。だけどいつもの仕事で似たようなことをやっているから、ものの数分で首を切断することに成功した。
「おー怖」
アルチューロ叔父さんは拍手をしながら冷やかした。以前は二人で殺していた。いつからか、体力がないとか、疲れたとか言って俺一人にやらせるようになった。
「お゛ぇ゛っ……っそだろっ゛、ん゛なとき、に……」
反対側の床も血まみれになっていた。地下室のほとんどが赤で染まっている。叔父さんはソファから崩れ落ち、床に膝をついて、荒い呼吸を繰り返していた。
「ちょ……大丈夫かよ」
血を吸った包丁を机に戻して、彼の元へ向かう。ヒュウヒュウと、肺から息が漏れる音がする。こんな状況なのに、あの性格の悪そうな笑顔を崩さず、ニヤニヤしながらボトボト血を口から吐く。
「俺、もう四十超えのおっさんだよ? っん゛ぇ……、もう長くないかもね」
「そんなこと――」
「知ってるだろ、俺たちはほとんどの場合、老人になるまで長生きできない。これは、そういう種類の魔法だって」
血で汚れた俺の服を構わずに掴む。さっきとは打って変わって真剣な表情をしている。俺の目を、なにか訴えかけるように見つめる。
「っげほ゛……っぇ゛」
叔父さんの喪服も血まみれだ。違いといえば、叔父さんのは鮮やかな赤で、俺のは限りなく黒に近い赤だった。叔父さんの発作は静かに、ゆっくりと治まっていった。まだぜぇぜぇと音が鳴っているが、血は吐かなくなった。呼吸も安定してくる。
「まーまだ余裕だけどな~」
いつもの軽口を言う余裕も出てきたようだ。彼は俺の未来。俺もいずれああなる。そう考えると、とんでもない焦燥感に襲われた。
「こいつの処理もしなきゃな」
叔父さんは血溜まりの中からさっきまで男の子だったものを担ぎあげる。一旦隣の死体安置室に保管する必要があった。最期に血を飲んで、それで俺の仕事は終わり。子供の血は格別だ。不純物がほとんどない。熱を加えたバターのように舌でとろけて、ほんのり甘みがあって濃厚で、鼻に抜ける最高の鉄の香り。特に殺したては、体温がまだ残っていて、なめらかな口当たりで良い。
そのあと彼は料理されて、どこかの家の誰かの明日の夕食になる。えーっと、たしか名前は――なんだったっけ。
ねちっこいキスだった。唾液がダラダラ、顎を伝うのがわかる。地下室の、カビの生えた古びたソファにアルチューロ叔父さんが座って、俺は彼に跨って唇を貪っていた。
口は噛むなって以前キツく言われたから、吸血衝動に襲われてもグッと我慢する。目を閉じて、彼の首筋にゆっくり移動する。
「おいおいまたかよ。最近多いんじゃねーの?」
叔父さんの軽口が聞こえたが、水の奥底の叫び声が聞こえないのと同じ要領で、まったく頭に入ってこなかった。歯を立てると、一瞬だけ身体がこわばるのがわかった。
「いっ、た……」
腕を掴まれて、爪を立てられる。いつものことだから、まったく気にならない。そんなことより、口の中に入ってくる生ぬるい溶けたバターのような血液を堪能することのほうが大事だった。
アルチューロ叔父さんは、俺が吸い始めたら、絶対に中断させようとしない。爪こそ立てるものの、抵抗らしい抵抗はそれだけで、振り払ったり突き飛ばしたりしない。やろうと思えばいくらでもできるのに、俺が満足するまで吸わせてくれる。
このままだといつか、殺してしまうんじゃないかって心配になる。いつだったかそう言うと、「そのほうがスリルがあって楽しいじゃん」なんて答えてきて、調子が狂う。
皮膚がどんどん青白くなってはじめて、やっと我に返る。唇を離すと、皮膚が一部、紫色に変色している。
「吸いすぎだろ、今日」
首を抑えて、ふらふらと焦点の合わない視線を向けられる。ソファの背もたれに、ぐったりと頭を預けた。
「ごめん、つい」
「あーはいはい、生きててよかった~。生命に感謝」
いつもの軽口。俺がソファから降りると、頭を抑えてゆっくり立ち上がった。叔父さんは、いつも夜中に仕事をする。というか、昼間はほとんど寝ている。昔よりも眠っている時間が長い。死が近づいている人間は、睡眠時間がどんどん長くなるって噂を聞いたことがあるけれど、本当なんだろうか。
「同性愛は犯罪だって、また言われるぜ」
まだ少しふらつきながら、戸棚から肉切り包丁を取り出して、無造作に部屋の中央にある机に置いた。首からの血が滲んで、彼がいつも着ている喪服の襟を汚した。
「メアリー、あいつだって似たようなもんだ」
俺は小さく舌打ちをした。妹のメアリーは、学校とかいう場所に通うようになってから様子がおかしい。勝ち気な性格はなりを潜め、美人だがそれを鼻にかけている、おまけに成金の非摘出子の小娘の顔色を伺って生活をしている。
アルチューロ叔父さんは砥石に包丁を乗せ、何度も往復させた。鋭い金属が擦れるような音が部屋に響く。
「ま、俺たちは特別なんだから、多少のことは許してもらえるだろ」
「そうだね」
多少のことは許してもらえる。ブラッドリー家の子供たちにはそんな特権があった。歳を取らず、魔法を操り、ある程度のことは許される。そんな立場に憧れる人々は後を絶たない。これはそんなにいいものじゃないってことを、俺たち家族だけが知っている。
地下室へ続く階段がギシギシと鳴った。叔父さんはニヤリと笑って包丁を研ぐ手を止めた。軽く首を回して傷口を抑え、俺に向かって小さく手招きをする。
こうなると厄介だ。気分が少しだけ落ち込む。ため息をついて、俺は叔父さんの元へ歩を進めた。地下室はそんなに広くない。数歩も歩けばすぐにアルチューロ叔父さんの元へ辿り着く。
「ん、ら……ん、んんっ」
背伸びをして、またしても唇を重ねる。倒錯感で脳が支配される。首に手を回して、さらに深くキスを続けた。部屋のドアが開く音などおかまいなしに。
「なにしてるの……」
ストリートチルドレンを何人も拾ってきては世話をしていた。勉強を教えて、就職していった子供も、奨学金を貰って学校に進学した子供もいた。基本的に俺たちは親切に便宜を図っていた。しかし、たまにこういった事故が起こ
唾液を交換する行為は突然終わりを迎えた。さっきよりはベトベトしていない。洋服の袖で、軽く口元を拭った。
「あーあ、バレちゃった」
叔父さんは久々のアクシデントを楽しんでいるようだった。わざとこの状況を作り出したんじゃないかと思うくらいに。
扉の前に立っているのは男の子だった。食べるにはまだ少し早い。でも、仕方ないよね。これは事故なんだから。俺は机の上に置かれた、研いだばかりの肉切り包丁を手に取った。慣れたもので、手にしっかりフィットする。
「お、お前ら、頭がおかしい」
「なにそれ~。ホモは犯罪? それ言われるの何回目だろ。えーっとぉ。いち、にぃ、さん、しぃ――」
叔父さんは挑発するように、わざと指折りでカウントする。外見に似つかわしい、生意気な十四歳の少年、そう見える。実際はおっさんだけど。
怯えた表情の男の子に視線をやった。脂肪が少ないからやりやすい。見た感じ、年齢は十歳かそこらだろう。廃棄の食事をしっかり与えているから、痩せすぎているということはなかった。グリップを握る右手にじんわり汗が滲む。
「近親婚を繰り返して頭がおかしくなった……そう言われてるんだよ!!」
「そうなの?」
叔父さんはこの状況を楽しんでいるようだった。唇の端を釣り上げるその笑い方は、とてつもなく性格が悪そうに見えた。いやまぁ、実際悪いんだろうけど。
「さぁ? 今知った」
近親婚を繰り返した? そんな噂も立ってるのか。世間と隔絶された生活を送る俺たちにとって、噂話など些細な問題にすぎなかった。
「それが本当なら、最悪だね」
叔父さんは茶化すようにそう言って、部屋の隅のソファに戻って腰を下ろした。さっきとは違って、優雅に足を組んで、まるで絵画や、オーケストラを鑑賞するような態度だ。
「どっちみち、俺らには関係ない話だよ」
俺はそう答えた。肉切り包丁を右手に持って、男の子のほうへ向かう。後ずさる彼は、俺と外見はたいして変わらない。身長も、声も、生意気な態度も。
「君も、どうせ死んじゃうんだから神様にお祈りでもすれば?」
「絶対許さない、絶対」
諦めたのが、そうじゃないのかわからない。食材の気持ちなんて推し量るだけ無駄だ。何歩か後ずさったが、そんなのこの地下室じゃ意味をなさない。左手の指を鳴らして、一瞬でドアを閉めた。
ここからは俺の専門分野だ。うるさい動物を黙らせ、暴れるのを抑えて屠殺し、血を吸い出す。
魔法で人を殺すことはできない。とはいえ痛みを遮断するとか、身動きを封じるとか、そういうことはできるから、俺たち簡単なことだった。
特に俺は慣れている。ここにいる人間も、数え切れないほど殺してした。事故が多かった。豚肉と似ているから、フックに引っ掛けて出荷する頃には、誰も元が人間の子供だったなんて思わない。
苦しめるつもりはなかった。叫び声だけは厄介なので先に首を切る。そんなに時間はかからない。研いだばかりの包丁は切れ味が抜群で、余計に苦しみを与えることもなかった。
一気に振り下ろすと、三分の一ほどは簡単に刃が入った。この段階で、彼はもう助からない。コポコポと血が、泉のように吹き出して床を汚した。俺の服や顔にも盛大に跳ねて、胸が高鳴る。俺はこの瞬間のために生きている。そう錯覚するほどの高揚感。
ここまですれば、彼は声も出せない。意識も失う。それから思い切り力を入れて、ノコギリの要領でギコギコ刃先を動かしていく。骨を絶つのはなかなかに疲れる。重労働だ。だけどいつもの仕事で似たようなことをやっているから、ものの数分で首を切断することに成功した。
「おー怖」
アルチューロ叔父さんは拍手をしながら冷やかした。以前は二人で殺していた。いつからか、体力がないとか、疲れたとか言って俺一人にやらせるようになった。
「お゛ぇ゛っ……っそだろっ゛、ん゛なとき、に……」
反対側の床も血まみれになっていた。地下室のほとんどが赤で染まっている。叔父さんはソファから崩れ落ち、床に膝をついて、荒い呼吸を繰り返していた。
「ちょ……大丈夫かよ」
血を吸った包丁を机に戻して、彼の元へ向かう。ヒュウヒュウと、肺から息が漏れる音がする。こんな状況なのに、あの性格の悪そうな笑顔を崩さず、ニヤニヤしながらボトボト血を口から吐く。
「俺、もう四十超えのおっさんだよ? っん゛ぇ……、もう長くないかもね」
「そんなこと――」
「知ってるだろ、俺たちはほとんどの場合、老人になるまで長生きできない。これは、そういう種類の魔法だって」
血で汚れた俺の服を構わずに掴む。さっきとは打って変わって真剣な表情をしている。俺の目を、なにか訴えかけるように見つめる。
「っげほ゛……っぇ゛」
叔父さんの喪服も血まみれだ。違いといえば、叔父さんのは鮮やかな赤で、俺のは限りなく黒に近い赤だった。叔父さんの発作は静かに、ゆっくりと治まっていった。まだぜぇぜぇと音が鳴っているが、血は吐かなくなった。呼吸も安定してくる。
「まーまだ余裕だけどな~」
いつもの軽口を言う余裕も出てきたようだ。彼は俺の未来。俺もいずれああなる。そう考えると、とんでもない焦燥感に襲われた。
「こいつの処理もしなきゃな」
叔父さんは血溜まりの中からさっきまで男の子だったものを担ぎあげる。一旦隣の死体安置室に保管する必要があった。最期に血を飲んで、それで俺の仕事は終わり。子供の血は格別だ。不純物がほとんどない。熱を加えたバターのように舌でとろけて、ほんのり甘みがあって濃厚で、鼻に抜ける最高の鉄の香り。特に殺したては、体温がまだ残っていて、なめらかな口当たりで良い。
そのあと彼は料理されて、どこかの家の誰かの明日の夕食になる。えーっと、たしか名前は――なんだったっけ。
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