転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん

文字の大きさ
32 / 53
番外編 なくなってしまった未来②

死臭

しおりを挟む
「んっ……ふぁっ、んんっ」
 ねちっこいキスだった。唾液がダラダラ、顎を伝うのがわかる。地下室の、カビの生えた古びたソファにアルチューロ叔父さんが座って、俺は彼に跨って唇を貪っていた。
 口は噛むなって以前キツく言われたから、吸血衝動に襲われてもグッと我慢する。目を閉じて、彼の首筋にゆっくり移動する。
「おいおいまたかよ。最近多いんじゃねーの?」
 叔父さんの軽口が聞こえたが、水の奥底の叫び声が聞こえないのと同じ要領で、まったく頭に入ってこなかった。歯を立てると、一瞬だけ身体がこわばるのがわかった。
「いっ、た……」
 腕を掴まれて、爪を立てられる。いつものことだから、まったく気にならない。そんなことより、口の中に入ってくる生ぬるい溶けたバターのような血液を堪能することのほうが大事だった。
 アルチューロ叔父さんは、俺が吸い始めたら、絶対に中断させようとしない。爪こそ立てるものの、抵抗らしい抵抗はそれだけで、振り払ったり突き飛ばしたりしない。やろうと思えばいくらでもできるのに、俺が満足するまで吸わせてくれる。
 このままだといつか、殺してしまうんじゃないかって心配になる。いつだったかそう言うと、「そのほうがスリルがあって楽しいじゃん」なんて答えてきて、調子が狂う。
 皮膚がどんどん青白くなってはじめて、やっと我に返る。唇を離すと、皮膚が一部、紫色に変色している。
「吸いすぎだろ、今日」
 首を抑えて、ふらふらと焦点の合わない視線を向けられる。ソファの背もたれに、ぐったりと頭を預けた。
「ごめん、つい」
「あーはいはい、生きててよかった~。生命に感謝」
 いつもの軽口。俺がソファから降りると、頭を抑えてゆっくり立ち上がった。叔父さんは、いつも夜中に仕事をする。というか、昼間はほとんど寝ている。昔よりも眠っている時間が長い。死が近づいている人間は、睡眠時間がどんどん長くなるって噂を聞いたことがあるけれど、本当なんだろうか。
同性愛ホモは犯罪だって、また言われるぜ」
 まだ少しふらつきながら、戸棚から肉切り包丁を取り出して、無造作に部屋の中央にある机に置いた。首からの血が滲んで、彼がいつも着ている喪服の襟を汚した。
「メアリー、あいつだって似たようなもんだ」
 俺は小さく舌打ちをした。妹のメアリーは、学校とかいう場所に通うようになってから様子がおかしい。勝ち気な性格はなりを潜め、美人だがそれを鼻にかけている、おまけに成金の非摘出子の小娘の顔色を伺って生活をしている。
 アルチューロ叔父さんは砥石に包丁を乗せ、何度も往復させた。鋭い金属が擦れるような音が部屋に響く。
「ま、俺たちブラッドリー家は特別なんだから、多少のことは許してもらえるだろ」
「そうだね」
 多少のことは許してもらえる。ブラッドリー家の子供・・たちにはそんな特権があった。歳を取らず、魔法を操り、ある程度のことは許される。そんな立場に憧れる人々は後を絶たない。これはそんなにいいものじゃないってことを、俺たち家族だけが知っている。
 地下室へ続く階段がギシギシと鳴った。叔父さんはニヤリと笑って包丁を研ぐ手を止めた。軽く首を回して傷口を抑え、俺に向かって小さく手招きをする。
 こうなると厄介だ。気分が少しだけ落ち込む。ため息をついて、俺は叔父さんの元へ歩を進めた。地下室はそんなに広くない。数歩も歩けばすぐにアルチューロ叔父さんの元へ辿り着く。
「ん、ら……ん、んんっ」
 背伸びをして、またしても唇を重ねる。倒錯感で脳が支配される。首に手を回して、さらに深くキスを続けた。部屋のドアが開く音などおかまいなしに。
「なにしてるの……」
 ストリートチルドレンを何人も拾ってきては世話をしていた。勉強を教えて、就職していった子供も、奨学金を貰って学校に進学した子供もいた。基本的に俺たちは親切に便宜を図っていた。しかし、たまにこういった事故・・が起こ
 唾液を交換する行為は突然終わりを迎えた。さっきよりはベトベトしていない。洋服の袖で、軽く口元を拭った。
「あーあ、バレちゃった」
 叔父さんは久々のアクシデントを楽しんでいるようだった。わざとこの状況を作り出したんじゃないかと思うくらいに。
 扉の前に立っているのは男の子だった。食べるにはまだ少し早い。でも、仕方ないよね。これは事故なんだから。俺は机の上に置かれた、研いだばかりの肉切り包丁を手に取った。慣れたもので、手にしっかりフィットする。
「お、お前ら、頭がおかしい」
「なにそれ~。ホモは犯罪? それ言われるの何回目だろ。えーっとぉ。いち、にぃ、さん、しぃ――」
 叔父さんは挑発するように、わざと指折りでカウントする。外見に似つかわしい、生意気な十四歳の少年、そう見える。実際はおっさんだけど。
 怯えた表情の男の子に視線をやった。脂肪が少ないからやりやすい。見た感じ、年齢は十歳かそこらだろう。廃棄の食事をしっかり与えているから、痩せすぎているということはなかった。グリップを握る右手にじんわり汗が滲む。
「近親婚を繰り返して頭がおかしくなった……そう言われてるんだよ!!」
「そうなの?」
 叔父さんはこの状況を楽しんでいるようだった。唇の端を釣り上げるその笑い方は、とてつもなく性格が悪そうに見えた。いやまぁ、実際悪いんだろうけど。
「さぁ? 今知った」
 近親婚を繰り返した? そんな噂も立ってるのか。世間と隔絶された生活を送る俺たちにとって、噂話など些細な問題にすぎなかった。
「それが本当なら、最悪bllodly hellだね」
 叔父さんは茶化すようにそう言って、部屋の隅のソファに戻って腰を下ろした。さっきとは違って、優雅に足を組んで、まるで絵画や、オーケストラを鑑賞するような態度だ。
「どっちみち、俺らには関係ない話だよ」
 俺はそう答えた。肉切り包丁を右手に持って、男の子のほうへ向かう。後ずさる彼は、俺と外見はたいして変わらない。身長も、声も、生意気な態度も。
「君も、どうせ死んじゃうんだから神様にお祈りでもすれば?」
「絶対許さない、絶対」
 諦めたのが、そうじゃないのかわからない。食材の気持ちなんて推し量るだけ無駄だ。何歩か後ずさったが、そんなのこの地下室じゃ意味をなさない。左手の指を鳴らして、一瞬でドアを閉めた。
 ここからは俺の専門分野だ。うるさい動物を黙らせ、暴れるのを抑えて屠殺し、血を吸い出す。
 魔法で人を殺すことはできない。とはいえ痛みを遮断するとか、身動きを封じるとか、そういうことはできるから、俺たちブラッドリー家には簡単なことだった。
 特に俺は慣れている。ここにいる人間孤児も、数え切れないほど殺してした。事故が多かった。豚肉と似ているから、フックに引っ掛けて出荷する頃には、誰も元が人間の子供だったなんて思わない。
 苦しめるつもりはなかった。叫び声だけは厄介なので先に首を切る。そんなに時間はかからない。研いだばかりの包丁は切れ味が抜群で、余計に苦しみを与えることもなかった。
 一気に振り下ろすと、三分の一ほどは簡単に刃が入った。この段階で、彼はもう助からない。コポコポと血が、泉のように吹き出して床を汚した。俺の服や顔にも盛大に跳ねて、胸が高鳴る。俺はこの瞬間のために生きている。そう錯覚するほどの高揚感。
 ここまですれば、彼は声も出せない。意識も失う。それから思い切り力を入れて、ノコギリの要領でギコギコ刃先を動かしていく。骨を絶つのはなかなかに疲れる。重労働だ。だけどいつもの仕事で似たようなことをやっているから、ものの数分で首を切断することに成功した。
「おー怖」
 アルチューロ叔父さんは拍手をしながら冷やかした。以前は二人で殺していた。いつからか、体力がないとか、疲れたとか言って俺一人にやらせるようになった。
「お゛ぇ゛っ……っそだろっ゛、ん゛なとき、に……」
 反対側の床も血まみれになっていた。地下室のほとんどが赤で染まっている。叔父さんはソファから崩れ落ち、床に膝をついて、荒い呼吸を繰り返していた。
「ちょ……大丈夫かよ」
 血を吸った包丁を机に戻して、彼の元へ向かう。ヒュウヒュウと、肺から息が漏れる音がする。こんな状況なのに、あの性格の悪そうな笑顔を崩さず、ニヤニヤしながらボトボト血を口から吐く。
「俺、もう四十超えのおっさんだよ? っん゛ぇ……、もう長くないかもね」
「そんなこと――」
「知ってるだろ、俺たちはほとんどの場合、老人になるまで長生きできない。これは、そういう種類の魔法だって」
 血で汚れた俺の服を構わずに掴む。さっきとは打って変わって真剣な表情をしている。俺の目を、なにか訴えかけるように見つめる。
「っげほ゛……っぇ゛」
 叔父さんの喪服も血まみれだ。違いといえば、叔父さんのは鮮やかな赤で、俺のは限りなく黒に近い赤だった。叔父さんの発作は静かに、ゆっくりと治まっていった。まだぜぇぜぇと音が鳴っているが、血は吐かなくなった。呼吸も安定してくる。
「まーまだ余裕だけどな~」
 いつもの軽口を言う余裕も出てきたようだ。彼は俺の未来。俺もいずれああなる。そう考えると、とんでもない焦燥感に襲われた。
こいつ死体の処理もしなきゃな」
 叔父さんは血溜まりの中からさっきまで男の子だったものを担ぎあげる。一旦隣の死体安置室に保管する必要があった。最期に血を飲んで、それで俺の仕事は終わり。子供の血は格別だ。不純物がほとんどない。熱を加えたバターのように舌でとろけて、ほんのり甘みがあって濃厚で、鼻に抜ける最高の鉄の香り。特に殺したては、体温がまだ残っていて、なめらかな口当たりで良い。
 そのあと彼は料理されて、どこかの家の誰かの明日の夕食になる。えーっと、たしか名前は――なんだったっけ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

貧乏で凡人な転生令嬢ですが、王宮で成り上がってみせます!

小針ゆき子
ファンタジー
フィオレンツァは前世で日本人だった記憶を持つ伯爵令嬢。しかしこれといった知識もチートもなく、名ばかり伯爵家で貧乏な実家の行く末を案じる毎日。そんな時、国王の三人の王子のうち第一王子と第二王子の妃を決めるために選ばれた貴族令嬢が王宮に半年間の教育を受ける話を聞く。最初は自分には関係のない話だと思うが、その教育係の女性が遠縁で、しかも後継者を探していると知る。 これは高給の職を得るチャンス!フィオレンツァは領地を離れ、王宮付き教育係の後継者候補として王宮に行くことになる。 真面目で機転の利くフィオレンツァは妃候補の令嬢たちからも一目置かれる存在になり、王宮付き教師としての道を順調に歩んでいくかと思われたが…。

処理中です...