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終章
下品な人びと
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「落ち着いたの?」
「まぁ」
ダミアンは眠気まなこのままベッドから起き上がった。オースティンが仕事でこの家を訪れるたび、ダミアンの部屋にやってくるのはもう日課となっていた。最近は、不安定なオリヴィアのためにその頻度は高くなっている。
「さっすが、カウンセラー」
友達同士の距離感ではなかった。ダミアンはベッドに腰掛けるオースティンの膝に手を乗せる。ズボンの上から太ももを撫でたり、摘んだりしている。オースティンは慣れた様子で、特段反応しない。難しい顔をしている。
「そりゃ、殺人犯の気持ちならよくわかりますから」
「パパも安心だ」
ジョークを飛ばしたが、オースティンはにこりともしなかった。八年前の銃乱射事件について調べたが、動機はいじめとかいうありがちな理由だった。つまらない、取るに足らないニュースだった。
「俺もあなたと同じ、母子家庭だった」
オースティンはぽつりと、今まで話したことのない自分の話をした。彼が心情を吐露するのは初めてなんじゃないかと思った。バーに行った夜も、ずっと黙ったままだった。
「母はチェスター・クラウンの最初の妻で、それで……保釈金を払ったんです」
そう言って自嘲気味に笑った。どこが面白いのか、ダミアンには理解できなかった。オースティンはぐるりと部屋を見渡してゆっくり瞬きをした。
「たしかにこの部屋、刑務所に似てるかも」
家具のほとんどない、色味もない部屋。ダミアンは物に執着するタイプではなかったので、必要最低限の家具しかない。
ラスベガスで生活していたときのように、請求書の束が溜まることもない。世の中の不都合はたいてい金銭で解決することができる。特に、資本主義社会では。
「ここじゃ、人の命は金でやり取りするわけ?」
ダミアンは冗談じみた言葉を飛ばしたが、半分くらいは本気だった。オースティンの腕に手を絡め、身体を密着させる。深いため息が吹かかった。
「あなたも気をつけたほうがいい。遺言発表までの二年間、命を狙われ続けるのかも」
「殺人は五十の州全てで禁止されてると思ってたけどね」
ダミアンは嫌味っぽく言葉を発した。ここに住んでいる人間はもれなく品がない。金のことばかり考えていて、ときには犯罪だって許される。そういう世界に、異常な世界に自分はやってきてしまったのだ。
家族に命を狙われる生活も、悪くはないのかも。少なくとも退屈はしない。二年間は、一人ぼっちの夜を過ごさずに済む。
ビリオネア通りの下品な人びと。
The Vulgar Peoples of Billionaires' Row.
「まぁ」
ダミアンは眠気まなこのままベッドから起き上がった。オースティンが仕事でこの家を訪れるたび、ダミアンの部屋にやってくるのはもう日課となっていた。最近は、不安定なオリヴィアのためにその頻度は高くなっている。
「さっすが、カウンセラー」
友達同士の距離感ではなかった。ダミアンはベッドに腰掛けるオースティンの膝に手を乗せる。ズボンの上から太ももを撫でたり、摘んだりしている。オースティンは慣れた様子で、特段反応しない。難しい顔をしている。
「そりゃ、殺人犯の気持ちならよくわかりますから」
「パパも安心だ」
ジョークを飛ばしたが、オースティンはにこりともしなかった。八年前の銃乱射事件について調べたが、動機はいじめとかいうありがちな理由だった。つまらない、取るに足らないニュースだった。
「俺もあなたと同じ、母子家庭だった」
オースティンはぽつりと、今まで話したことのない自分の話をした。彼が心情を吐露するのは初めてなんじゃないかと思った。バーに行った夜も、ずっと黙ったままだった。
「母はチェスター・クラウンの最初の妻で、それで……保釈金を払ったんです」
そう言って自嘲気味に笑った。どこが面白いのか、ダミアンには理解できなかった。オースティンはぐるりと部屋を見渡してゆっくり瞬きをした。
「たしかにこの部屋、刑務所に似てるかも」
家具のほとんどない、色味もない部屋。ダミアンは物に執着するタイプではなかったので、必要最低限の家具しかない。
ラスベガスで生活していたときのように、請求書の束が溜まることもない。世の中の不都合はたいてい金銭で解決することができる。特に、資本主義社会では。
「ここじゃ、人の命は金でやり取りするわけ?」
ダミアンは冗談じみた言葉を飛ばしたが、半分くらいは本気だった。オースティンの腕に手を絡め、身体を密着させる。深いため息が吹かかった。
「あなたも気をつけたほうがいい。遺言発表までの二年間、命を狙われ続けるのかも」
「殺人は五十の州全てで禁止されてると思ってたけどね」
ダミアンは嫌味っぽく言葉を発した。ここに住んでいる人間はもれなく品がない。金のことばかり考えていて、ときには犯罪だって許される。そういう世界に、異常な世界に自分はやってきてしまったのだ。
家族に命を狙われる生活も、悪くはないのかも。少なくとも退屈はしない。二年間は、一人ぼっちの夜を過ごさずに済む。
ビリオネア通りの下品な人びと。
The Vulgar Peoples of Billionaires' Row.
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