王子は公爵令嬢を溺愛中

saku

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馬車の中では二人とも無言だった。
ユーリは、レイラと目線を合わせようとせずに外の景色を見ているだけだった。

(怒っているのかしら……いえ、絶対怒っているわよね。だって、待ってて言われていたのにユーリ様から逃げてしまったんですもの……。)

本当の事を話すのが怖く逃げてしまった事に、レイラは今になって後悔した。ユーリを怒らせるくらいなら、本当の事を話せば良かったと……。
レイラの目尻に涙が浮かぶ。だが、レイラは泣いたら駄目だと思い頭を横に振る。


「……殿下。着きました」

外からユーリの従者の声がした。
馬車の窓から外を見ると、城に着いたみたいだった。
ユーリが馬車から先に降りると、レイラに手を差し出す。

レイラはユーリの手を借り、馬車から降りる。
チラッと、レイラは横に居るユーリを見るがユーリは前を向いたまま此方を見ようとはしなかった。
すれ違う人達は、ユーリとレイラが歩いてくるのを見つけると横に寄り、頭を下げる。
だが、ユーリはそんな事なんか視界に入っていないかのようにどんどんと歩みを進める。

(いつもだったら私の歩幅に合わせてくれるのに、今日のユーリ様は歩くのが早い……。やはり怒ってらっしゃるんだわ。)

ユーリが一つの部屋の前で止まると、扉を開き中へと入っていく。
中へと入ったと同時に、ユーリに握られていた手が離れる……。繋いでいた手が離れ、不安になったレイラは焦った様にユーリを呼ぶ。

「ユ、ユーリ様……。」

「レイラ、僕はそんなに頼りないかい?」

ユーリは、レイラに背を向けながらポツリと言葉を落とした。

「そ、そんな事ありません!」

「じゃぁ、何で話してくれないんだい? 何で逃げたんだい?」

レイラの方を振り向いたユーリの顔は、眉が八の字になっており悲しそうな表情をしている。
レイラは何も言えなくなり、下を向いてしまった。

「……。」

「……逃げたいなら逃げればいい。」

ユーリから突き放すように発せられた言葉を聞き、レイラは勢いよく顔を上げる。

(違うの……ユーリ様から逃げたいというのではないわ。只、物語の様に進んでユーリ様が私以外の人と幸せになる所を見るのが辛いだけなの……。)

レイラは何も言えずに、只首を横に振るだけだった。

「だけど、僕は逃がさないから。レイラの事が好きだから……」

「わ……私は、ユーリ様から逃げたいのではないのです。只、不安なの……。」

これまで耐えていた涙が、目からこぼれ落ちる。
止めようと目を擦ろうとした手を、ユーリによって掴まれる。

「レイラ、何が不安か言ってごらん?」

「ユーリ様が私ではない違う人と結ばれるのではないかって……それもガーネット様と……。」

「何故、そんな事を……。」

「……私、この世界ではない人の記憶を持っているんです。そこでは、この世界の人達のお話がありました。そこでは、ユーリ様はガーネット様と結ばれるのです。……こんな話、嘘かと思うかもしれません。だけど本当なんです……。」


(言ってしまった。ユーリ様の反応が怖くて、顔を見れないわ……。)

レイラは、泣きそうになるのを唇を噛んで我慢する。
その時、唇にユーリの親指が当たり。撫でられる。

「噛んでは駄目だ。傷がついてしまうよ?」

ユーリの声色は、いつもと変わらない優しい声だった。
恐る恐る、レイラは顔を上げる。


「……そうか。レイラが幼い頃、僕に対していきなり態度が変わったのは違う世界の記憶が戻ったからかい?」

「……はい」

幼い頃のレイラは、甘やかされて我が儘だった。それが、いきなり態度が変わったら誰しもが不思議に思うだろう。

「……ユーリ様。怒らないのですか?」

「……何で、レイラに怒るんだい?」

「だって! ずっと黙ってたんですよ!? それに、私はユーリ様を避けていました……。」

「君に何か秘密があることは分かっていたさ。だけど、僕の好きな人はレイラだ。避けられても逃げられても、許すわけないだろ? それに、レイラは僕の事を好いてくれているしね」

「なっ!!」 

ユーリへの思いを知られていたことを知り、レイラは頬が赤くなる。
どれだけ避けようとも、どれだけ逃げようとしてもレイラの心にはユーリが居た。諦める事なんて出来なかったのだ。

「ねぇ、レイラ。本当に君は僕から離れたいのかい?」

「……離れたくありません。」

レイラは、首を横に振る。

「じゃぁ、僕を避けようとしないでね?」

「でも!!」

レイラが言葉を発しようとした時、ユーリはレイラの唇に人差し指をそっと当てる。

「君が心配している様な事は起こらないから、心配しなくて良い。マーフィー男爵令嬢は違う人に夢中だし、僕は君に夢中だからね」


「あっ……うっ……」

その言葉を聞いて、レイラは先ほどよりも顔が真っ赤になってしまった。
ユーリに面と言われ、レイラは言葉が出なくなってしまった。
真っ赤になっているレイラの手を取り、ユーリは二人掛けの椅子に座る。
その時に、さりげなく自分の膝の上に座らせるのを忘れずに……。

「フフッ。僕の婚約者は可愛いな~」

 「ユ、ユーリ様!! からかわないで下さいませ!」

「そんな事してないよ?  愛しい婚約者が可愛いのはしょうがないだろう?」

「ううっ……」


ユーリが微笑みながらレイラの頭を撫でているが、レイラは愛しい婚約者と言われた恥ずかしさで顔を手で覆ってしまったのだった……。




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