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しおりを挟むユーリが動き出したのは、少し経ってからだった。
それも、呼ばれていたことを忘れていたのかユーリの従者が声を掛けるまでの間、ユーリはレイラの膝に寝転びながらレイラの長い髪の毛を弄っていた。
「殿下、王や王妃がお待ちなんです!」
「レイラと二人で過ごしたいから……待たしといても大丈夫じゃない?」
「ダメに決まっているじゃないですか! レイラ様も何か言って……あの、大丈夫ですか?」
ユーリの従者は、泣きそうになりながら訴えるもユーリに言ってもらちが明かないと思い、レイラの方を見る。だが、ユーリの従者はレイラの方を向くと不思議そうな顔で固まってしまった。
レイラはユーリになされるがままになっており、顔を真っ赤にしながら固まってしまっていたのだ。
他の令嬢達の間では、いつも冷静でユーリの側でユーリを支えているレイラは憧れの的となっている。そんなレイラが、顔を真っ赤にさせ恥ずかしそうにしているのだ。
ユーリとレイラがイチャイチャしているところを知っている従者でも、いつも慣れない。
だが、こんな顔をレイラにさせれるのは婚約者であるユーリしか居ない……。
「フフッ。僕の婚約者かわいいでしょ?」
「……ユーリ様のせいです。」
ポソリと、レイラが小さな声で呟いた言葉を聞いてユーリは、何かがプツリと切れたような気がした。
のそりとレイラの膝に寝転がっていたユーリが起き上がると、自分の従者の方へ向き直る。
「……セバス、父上と母上に今日会うって言っていたの断っといて。」
「……婚約者が可愛いからと、両親をほったらかしにするのはどうかと思うぞ?」
扉が開き、ユーリ様より低い声が聞こえてきた。
声がした方を振り返ると、ユーリが歳をとったらこんな感じなのかと思うぐらいユーリに似た男の人とニコニコと微笑みながらこちらを見ている女の人が立っていた。
その二人にレイラは見覚えがあった。一度しか喋った事がないが、パーティーなどで拝見した事はあった。
この二人は、フレム王国の王リチャード・フレムと王妃であるシャルロット・フレムだ。
ユーリは、リチャードの顔立ちに似ており瞳の色は母であるシャルロットと同じ綺麗な青の瞳だ。
婚約を結ぶ際、二人と喋った記憶があるがほとんど会う機会はなく、パーティーなどで挨拶をするぐらいだ。その際も、父であるカーチスと話しているため関わりが無かった。
だからなのか、王と王妃がレイラに会いたいと知った時レイラは何故か緊張していた。
レイラは王と王妃のいきなりの登場に慌てる。ユーリから離れ、慌てて立ち上がるとカーテシーをした。
「約束の時間に迎えず申し訳ございません……。」
「気楽にしてよい。どうせ、息子が引き留めていたのだろう」
「私たちは、レイラさんとお話したかったのに、どうせこの子がレイラさんを引き留めていたのでしょう?」
王妃はユーリに向かって微笑みかける。だが、口元を扇で隠しており、目も笑っているがどこか怒っている様に感じた。
そんな王妃に微笑みかけられていたユーリはと言うと、あまり気にしていないのかニコニコした様な表情をしている。
「本当に、ユーリの性格は陛下に似ているわ……」
ポソリと小さな声で、王妃は呟いた。
確かに、父がユーリは王に良く性格が似ているとよく言っていた事をレイラは思い出した。
その時は、陛下もユーリみたいに優しくかっこいいんだと思っていた。だが、この頃ユーリが少し意地悪な時もある。
父が言っていたのは、この事なのかとレイラは思っていたのだった。
「フッ。それは、褒め言葉かい?」
「……どこを聞いたら、そう聞こえたのですか?」
「ユーリも私も、一人の女性を愛し続けていると言うことじゃないのかい?」
「なっ……!! 何を仰ってるの!?」
「……? 本当の事だぞ?」
王は、隣にいた王妃に優しく微笑みかける。王妃はというと、驚愕した様な表情をしているが何処か恥ずかしそうにしている。
王の言葉を聞いたレイラも、何故か恥ずかしくなってしまった。恥ずかしそうにしているレイラにユーリは近づくと、後ろからレイラを優しく抱きしめる。
「レイラ、どうしたんだい?」
「お二人を見ていると……何故か私まで恥ずかしくなっちゃいました。」
「フフッ。でも、父上が言っていたみたいに私や父上は一人の女性に夢中なんだよ?」
「……っ!! そんな恥ずかしい事をさらっと……」
「レイラには、本当の事を言いたいんだ。嘘をつきたくないんだ。」
ユーリの言葉でさらに顔を赤くしてしまったレイラを、ユーリは愛しいものを見つめるような眼差しで見つめている。
そんな二人を見ていた王は、王妃に向き直るとポツリと言葉を落とした。
「……シャル。部屋に戻らないかい?」
王は、王妃を愛称で呼ぶとじっと見つめている。
「「駄目です!!」」
身の危険を感じたのか、レイラと王妃は反対する。
王と王妃が来るまでの間、思う存分レイラと過ごしていたユーリは必死にユーリと二人きりにならないようにしているレイラを見ながらニコニコと微笑んでいるだけだった。
だが、そんなユーリがレイラは怖かった。
(ユーリ様は微笑んでいらっしゃるけれど、二人きりになったらまた恥ずかしくて死んじゃいそうになるわ! あんな甘々なユーリ様と二人きりなんて耐えれないわ……。)
「……リチャード、私はレイラさんとお話してみたいわ?」
王妃は、王を見つめながら頼んでいた。
そんな王妃を微笑みながら見つめていた王は、王妃の耳元で何かを呟くとニコニコしている。
「……なっ!!」
「シャル、これは約束だよ? さぁ、外に行こうか?」
何かを言われた王妃は、顔を真っ赤にさせて固まっている。そんな王妃を王は、手を取りながら外へと向かう。ユーリは、そんな二人を呆れた様に笑いながらレイラを扉の方へと導く。
「さぁ、レイラ。母上もお待ちかねだから、外でお茶会始めようか」
「えっ! ……あっ、はい!」
何を言われていたのか分からないが、ユーリによく意地悪な事を言われていたレイラは心の中で王妃の気持ちに共感していたのだった。
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